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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者な姉と、転生者な僕と。

作者:



 まず初めに言っておこう、僕は転生者だ。


 僕は元々身体が弱かった。

 風邪を引けばすぐに倒れる。

 他の病気を併発して、入院する羽目になった事は一度や二度の事じゃない。

 全力疾走しようものなら、たった少しの距離でも身体は限界にきてすぐに倒れてしまうなど、本当に弱かったのだ。

 おかげで僕の生活は、家と病院がメインだ。

 なんとか小学校を卒業して中学生になれたけれど、こんな身体じゃ学校に通う事も難しくて、ほぼ幽霊生徒だ。

 おかげで友達もいなかった。

 でもそれはいいんだ。

 そりゃあ寂しくなかったとは言えないけど、父さんも母さんもこんな病弱な僕を必死に看病してくれて、できるだけ側にいてくれた。

 それだけで嬉しかった。


 でも僕はこの冬、風邪をこじらせて肺炎を引き起こし、弱った身体はそれに耐え切れずついにその短い生涯に幕を閉じたのだ。

 父さんと母さんを最後に見た顔は泣いていたけれど、でもどうか…もし父さんたちの間に新しい命が生まれるとしたら、今度こそ父さんたちに迷惑を掛けない健康的で明るくて優しい子が生まれてきますように。

 そして父さんたちが幸せになりますように…。


 そうして眠りについたのに、気が付けば僕は真っ白な空間に漂っていた。

 そこで会った神様とかいう存在に、僕がこれほどまでに弱い身体に生まれてきたのは、神様曰く「ポイントの振り分けを間違えた。」とのこと。

 ポイント?

 何だそれ?

 とりあえずここまで身体を弱くする気はなかったらしい。

 そこは神様の間違いだからと、転生する際に何か特典を付けてくれるとの事。

 へぇ…特典かぁ。

 うーん、何にしよう!


 僕がずーっと悩んでいると、見かねた神様が次に転生する世界がどういった世界なのか教えてくれた。

 そこはゲームのような世界らしい。

 魔物がいて、魔王がいて、勇者がいて、国があって。

 そして何より魔法がある!

 その話を聞いて、僕は決めた。

 魔法を自在に操れる力が欲しいと!

 魔法だよ魔法!

 空を自由に飛んだりしてみたい!

 身体の方はどうせ転生するんだから、少しは健康になっているはずだしね。

 神様はそれを受け入れてくれて、おまけとして記憶はそのままにして転生させてくれた。


 そうして僕は異世界で、ユスティーネイヤ帝国の侯爵家の一つに生まれた。

 ここでの僕の名前はサーシャ・エイゼンシュテイン。

 女の子みたいな名前だけど、これでもれっきとした男の名前なんだって。

 欲を言うなら、もっと格好良い名前が良かったけど、確実に名前負けしそうだからこれで良かったのかもしれない。

 家族はエイゼンシュテイン当主である父と母、それに5つ上の姉が1人。

 元の世界じゃ一人っ子だったから、姉さんがいる事がとても嬉しかったなぁ!


 しかもその姉さんが凄いんだ!

 ユリア姉さんは、お月様みたいな淡くてキレイな金髪に、銀色の目をしたすっごいキレイな人なんだ。 

 頭も良くて、美人で、しかも女の人なのに剣も上手いんだって!

 馬にも乗れるとか、魔法も使えるんだけど、その能力を自慢して見せびらかしたりもしない。

 明るくて優しくて、女の人にも男の人にも人気で、僕の憧れでもある。

 しかも次期皇帝陛下の友達らしいよ?

 凄いよね!


 僕はというと、前世に比べれば格段に健康になった身体なんだけれど、この世界ではやっぱり弱い方らしい。

 無茶をすると微熱が出ちゃうし。

 これが元の僕だったら、高熱を出して即入院コースだったから大分良い状態なんだけどなぁ?

 父さんも母さんも、そして姉さんもすっごい過保護。

 剣の腕もからっきしだし、馬には一応乗れるようになったけど上手い方じゃないし。

 僕が誇れるとしたら、神様特典の魔法ぐらい。

 どんな魔法でも扱える事が出来るけど、僕がもっぱら使っているのは回復魔法とかかな。

 攻撃魔法は…怖かった。

 この力が魔物から誰かを守るかもしれないけど、それは時に誰かを傷つけてしまう。

 なにせこの世界には魔物だけじゃなく、盗賊とかもいるらしいから。

 僕は臆病だから、例えそれが悪い人でも誰かを傷つけるのは怖い。

 だから必要最低限にしか使わない。

 僕はただ、空を飛んでみたりしたかっただけなのに…。


 そうそう、神様特典でどんな魔法でも使えるけど、知識は自分で習得しなくちゃいけない。

 だから家の書庫で魔法の勉強をして、時に改造して…ってやってたら右目が見えなくなっちゃった。

 正確には、夜になっても良く見えるようにって魔法を掛けただけなんだけど。

 だってこの世界って街灯とかないんだよ?

 すっごい暗いんだ。

 頼りは星々って僕には無理! って事で使った魔法だったんだけど、その影響で昼間は見えなくなっちゃったんだ。

 うぅむ…これは要改造だなとか思ってたら、ユリア姉さんに即ばれて家中大騒ぎになった。

 こういう目って魔眼と言って、先天的のもあれば後天的になる人もいるんだって。

 その多くは呪いだとか、逆に精霊とかの祝福とかでもなるらしいんだけど、僕のは単にオリジナルの魔法だったし呪いではない事が分かって、じゃあ消去法で精霊の祝福だろうと勘違いしてくれて家族は安心したみたい。

 でも魔眼が珍しい事には変わりないから、隠すように言われちゃった。

 おかげで僕の髪は鬼太郎スタイルで、更に分かり辛いようにやぼったい眼鏡を掛ける事になりました。

 うーん、見るからに暗そう…。

 否定できないけど。

 唯一の救いは、僕の髪が黒髪じゃなくて姉さんと同じ淡い金髪で、目が青みがかった銀色だって事かな?

 色のおかげで更に暗くならなくて良かったよ。





 そうしていろんな事をしながら成長していったある日、神様のお告げとやらで姉さんが勇者になった。

 何でも魔王を倒せる唯一の人らしい。

 神殿にある勇者の聖剣とかを抜いちゃったんだって。

 へぇ、さすが姉さん凄いなぁ!

 でもそれって要は、姉さんが魔王退治に行かなくちゃいけないって事だよね…?

 お供として国から優秀な人間と共に行くって話だから、僕も立候補しようかなと思ったら止められた。


「サーシャは駄目。」

「何で? 僕が魔法しか才能のない足手まといだから…?」

「そんな事ある訳ないじゃない! この国で、いいえ、この世界で一番優秀な魔法使いはサーシャだって、私は胸を張って言えるわ。でもサーシャは私の大切な大切な弟よ。それに魔王が存在する国は瘴気が渦巻いているとも聞くわ、そんな所に貴方を連れて行けば貴方が死んでしまうかもしれない…。私の大切な弟が死んでしまうかもしれないなんて、私には耐えられない!!」


 結局、姉さんは僕を連れて行く事を最後まで拒絶した。

 …僕にだって分かっていた。

 姉さんは否定してくれたけど、僕の身体じゃ魔王退治の過酷な旅にはついていけないだろう事は。

 でも僕だって姉さんが心配だから、僕の作った魔法のお守りを渡して、必ず帰って来るよう約束したんだ。

 そして姉さんは、旅立っていった…。


 姉さんが魔王退治を頑張っている間に、僕は魔法学校をスキップで卒業し、神殿へと入った。

 ここなら攻撃系の魔法を使わずに、怪我をした人の治療や補助魔法での肉体強化などの祝福を与える仕事ができて、僕にはピッタリな場所だった。

 ただ最初は上の人たちに何故か色々仕事を任されて、自分ができる以上の仕事を受け持ってしまって何度か倒れてしまったけど。

 姉さん経由で僕も友達になった、次期皇帝陛下であるアレクセイ様が僕の状態を知ったみたいで、本来なら政治と離されている神殿に何か働きかけてくれたみたい。

 何故か一気に人が少なくなったけど、僕に任された仕事は他の人にも平等に振り分けられて、仕事が大分楽になった。

 僕はこっそり遊びに来たアレクセイ様にお礼を言ったら、何故か逆に感謝された。


「こちらこそ感謝している。国の膿を吐き出せたからな。」


 膿ってどういう事なんだろう?

 まあ、アレクセイ様が喜んでいるならそれでいいか。

 で、それからも僕が神殿で働いていたら、何やら次期神官長という凄い肩書がついてしまった。

 僕はそんな凄い人間じゃないのに…。

 辞退しようにも、何故か周りも現神官長様も、更にはアレクセイ様にまで止められて、結局そのままだ。




 そして姉さんが魔王退治に出発して2年。

 全国に魔王退治成功の情報が駆け巡った。

 ただし、姉さんという尊い犠牲を出して―――。


 たくさんの人が姉さんの死を悼んでくれた。

 でも僕は姉さんが死んでない事を知っている。

 何故なら…。


『サーシャ、本当に行く気?』


 僕の身体には、姉さんの魂が入っていたからだ。

 魔王退治したその時、魔王の魂は姉さんの身体に乗り移って来たらしい。

 姉さんは僕があげた魔法のお守りの力を使って、魔王を自分の身体ごと封印し、その魂は神殿でお祈りをしていた僕の所に帰って来たんだ。

 姉さんの身体は封印されているだけであって死んだ訳じゃない。今度は僕が姉さんを助ける!

 僕はそう決意し、神殿に安置されていた勇者の聖剣より更に上位の御神刀を借りて、僕は魔王の国へと向かう予定だ。


「うん、僕は行くよ。」

『でも、魔王の国は危ないのよ!?』

「僕だけじゃ大変かもしれないけど、姉さんも一緒だから大丈夫だよ。」

『御神刀だって持ち出していいの!?』

「神官長様にはお断りしたよ。本来なら御神刀は誰にも持つ事ができないんだって。実際神官長様も、神殿の誰もが御神刀に触れる事はできなかったんだけど、でも何でか僕は触れたんだよね。だからこれも神様の啓示だろうって神官長様が。」

『………サーシャ。』

「ごめんね、姉さん。でも僕は姉さんを助けたいんだ。」

『サーシャ!』


 姉さん、泣いてるの?

 大丈夫、僕が助けるから。


『いいわ、私はもうサーシャを止めない。でもサーシャ、貴方は戦いには向いていないのも事実。』


 うっ、確かに…。

 僕は相変わらず誰かを、何かを傷つけるのが怖い。


『だからもし戦闘になったら、私に代わりなさい。』

「でも…!」

『それに、私を助けようとしてくれてるんだから、魔王をどうにかする手段もあるのよね?』

「うん、それは一応考えてあるよ?」

『生き残りの魔族が、貴方を狙うかもしれない。だからある程度貴方の力を隠しておいても損はないと思うの。』

「でもそれじゃあ姉さんが…!」

『サーシャ、今貴方に迷惑を掛けているのは私なのよ。だから私に貴方の役に立てる場面を頂戴。』


 姉さん…。

 その時、神殿の裏の森から魔獣が出てきた。

 まさしく飢えた獣…魔王が死んだ事によって、ある種統制が取れていた各地の魔獣が暴れ始めているという情報は本当だったんだ!


『丁度良いわ、代わりなさいサーシャ! 私が戦う!』

「姉さん、でも!?」

『いいから! 来るわ!!』


 魔獣が僕に飛びかかって来る直前、僕は身体の主導権を姉さんに譲った。

 その瞬間僕という身体の輪郭は失い、元は僕の身体であるけれど髪は伸び、胸は膨らみ、全体的に身体は丸みを帯びる。

 僕の代わりに突如現れたのは、どうみても姉さんの姿だった。


「サーシャ、御神刀を借りるわよ!」

『うん!』


 本来誰にも触れる事ができない御神刀は、元が僕の身体だからか、姉さんにも扱えるみたいでホッとした。

 瞬く間に魔獣を倒した姉さんは、やっぱり凄い!


「ふぅ、こんなものね。それにしてもさすが御神刀、切れ味が違うわ。」

『勇者の聖剣より凄いの?』

「聖剣も扱い易かったけど、これは格が違うわね。私も昔勇者の聖剣は抜けたけど、御神刀には触れなかったもの…。今使えているのはサーシャのおかげね。」


 その言葉を聞いて、僕は嬉しくなった。

 こんな僕でも、魔法以外で姉さんの役に立てるなんて思ってなかったから…。


「そこにいるのは誰だ!?」


 戦う音にでも気づいたのだろう、僕たちに厳しく声を掛けてきたのは…アレクセイ様だった。

 どうしてアレクセイ様がここに!?


「お前は…ユリア!? どうしてお前が…!」


 死んだと思っていた人が今目の前にいるんだ、誰だって驚くよね。

 でも姉さんはアレクセイ様の問いには答えず、素早くその場を撤退した。

 その行動も早い事早い事。

 さっきの戦闘でも感じたけど、姉さんに主導権が移ると、この身体は姉さんの身体能力そのままになるみたいだ……へぇ!


『いいの? 姉さん、アレクセイ様はずっと姉さんの心配をなさっていたんだよ…?』

「だからよ。今の私はサーシャに寄生しているだけ。これは無事とは言えないわ。アレク様にも無事帰ると約束したのに、これじゃあ合わせる顔がないもの。」


 姉さんが、アレクセイ様といい感じであったのは僕だって何となく気づいていた。

 でもアレクセイ様は次期皇帝陛下だから姉さんと一緒に行けないし、姉さんも僕と同じでアレクセイ様を危険な場所に連れて行くつもりはなかったみたい。

 その二人がようやく会えたのに、また離れなきゃいけないなんて…!

 うん、僕は絶対に姉さんを助ける!

 そして姉さんには幸せになってもらうんだ!


「さあ、ここまで逃げれば大丈夫でしょう。サーシャに身体を返すわ。」

『うん、分かった。』


 身体の主導権が僕に返って来ると、姿もうだつの上がらない僕へと戻った。

 …うぅ、初めての交代で疲れたみたい。

 ふらふらする…。


『サーシャ、大丈夫?』

「大丈夫だよ、少し休めば………。」


「これは一体、どういう事だ?」


 背後から聞こえた声に、僕も姉さんも心底驚いた。

 僕らの背後にいたのは、姉さんが振り切ったはずのアレクセイ様で…。

 彼は額に汗を浮かべ、息を乱しながらも、僕たちを厳しく見つめていた。

 こんなに怖いアレクセイ様は初めて見た!


『……………ごめん、サーシャ。さすがにこれは代われないわ。』


 そんな!?

 姉さんが、どうにかするべきじゃ…!


『無理!』

「さぁ、詳しく話してもらおうか…サーシャ?」


 アレクセイ様の逃げも嘘も許さない低い声音に、僕は身体を震わせ………倒れた。

 あぁ…ただでさえ疲れてた所に更に緊張という名の負荷を掛けれれて、耐えられなかったみたい。


「サーシャ!?」

『サーシャ!』


 2人の心配そうな声を聞きながら、僕の意識は落ちた。

 こんな状態で、本当に僕は姉さんを助けられるのかなぁ…と不安を感じながら。




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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが読みたくなる一編ですね。 二人三脚+1 で珍道中が始まるのでしょうか?
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