今日のお茶会は怖い話を披露しようという趣向なの
お茶会の際中、少しのどを潤したところでカップを置き、話し始めます。
「では行くわよ、ジャック。これは淑女学校で問題になっていることなのですけれど……」
ジャック・ぺスターはわたしの婚約者です。
凛々しくて明るい性格の騎士の卵なのですよ。
今日はお互いに怖い話を披露しようという趣向なの。
怖い話を聞くとドキドキするので、二人の仲が深まると聞きました。
ジャックとより親密になりたいですものね。
「ふうん、淑女学校の話はあまり聞かないから興味あるな。ルーシー、よろしく」
ジャックは淑女学校より格の高い、そして学費も高い王立アカデミー生です。
騎士でもアカデミー卒だと出世しやすいからだと思います。
わたしも騎士の娘ですけれど、強く優しく将来性もあるジャックと婚約できて嬉しいのです。
「淑女学校は不純異性交遊は禁止なのですよ。そういう校則がありまして」
「うんうん、聞いたことある。淑女学校生は良妻賢母のイメージ」
「良妻賢母たれというのは校訓ですね。でも婚約者かそれに準ずる者としかお付き合いしてはいけないというのは、結構つらいではないですか。恋に恋したい年頃なのですから」
「わかる」
王立アカデミー生のジャックもそういう感覚なのですね?
もっとも共学とは言っても、アカデミーは男子生徒のほうがずっと多いですもの。
女子に飢えた男子が多いのだと解釈しました。
ジャックが和やかな笑顔で言ってくれます。
「僕は可愛いルーシーが婚約者で嬉しいよ」
「まあジャックったら。ありがとう存じます」
まだホラーパートに入っていないのに、既にいい雰囲気になってしまいました。
もうお腹一杯な気がしますけれども、続きとまいりましょうか。
「そうしたパートナーがいなくて不満持ちの淑女学校生が、魔道具屋で訴えたのですって。何とかならないかって」
「何とか? つまり魔道具の力で婚約者を得たいということかい?」
「はい。その生徒としては、恋愛成就のお守りみたいなものが欲しかったのだと思います。ひょっとすると校則を変えたいという願望があったのかもしれませんけれど」
「そうか、校則のほうを変えるという手もあったか」
「ふふっ。物事の解決手段は一つではない、というのがこのお話の肝になります」
ジャックが身を乗り出してきましたよ。
凛々しい顔が近いです。
ぽっ。
「ということは、予想外の第三の手段が炸裂したんだね? 聞こうじゃないか。パチパチ」
「もう、ジャックったら。要するに不純異性交遊でなければ校則違反ではないではないですか」
「ええと、まあそりゃそうだろうけれど。不純異性交遊にならないためには、それこそ婚約するしかないんじゃないの?」
「問題の生徒が魔道具屋で手に入れたのは、同性を好きになるというお守りだったのです」
「……えっ?」
「不純同性交遊は禁じられていませんから」
「そう来たか。確かに予想外だった」
「純粋同性交遊も禁じられていませんから」
「押すなあ」
アハハウフフと笑い合います。
楽しいですねえ。
わたしはジャックの笑顔が大好きです。
「この同性を好きになるお守りは、割とお安いのですって。だから淑女学校生の間で広まりまして、同性カップルが増えました」
「ほうほう、女の子同士のカップルって、何かグッと来る気がするけれども」
「女性同士の恋愛はユリと呼ばれるようになりました」
「ははあ、そのユリが淑女学校で問題になっているということだね?」
「はい。先生達もふしだらだ、まかりならんという意見と、親密なのはいいことだ、どう間違ったって実害はないのだからという意見に割れているそうなのです」
「なるほどなあ」
ジャックが腕を組んでうんうん頷いていますよ。
そういうポーズも格好いいと思います。
「ありがとう、ルーシー。すごく面白い話だったよ。でもこれはどの辺がホラーなの?」
「……実はわたしのところにもユリのお誘いがありまして」
「えっ……ルーシーは可愛いから当然か。しかしルーシーは僕のものなのに許せんな」
「あなたの婚約者はユリかもしれない」
「えっ? 怖っ!」
「信じるか信じないかはあなた次第」
「信じないよ!」
再びの笑いです。
怖い話作戦は成功ですね。
より一層ジャックと親しくなれた気がしますよ。
怖い話だったかどうかは疑問ですけれど。
「さあ、次はジャックの番ですよ。怖い話を披露してくださいな」
「じゃあ……これは王立アカデミーで問題になっていることなのだけれど」
「どこかで聞いたことのあるような入りですね」
「男同士の恋愛はバラと呼ばれるようになったんだ」
「やっぱり!」
「……実は僕のところにもバラの誘いがあって」
「ジャックは格好いいですものね。でもジャックはわたしの独占所有物なのです!」
「あなたの婚約者はバラかもしれない」
「こわーい!」
「信じるか信じないかはあなた次第」
「信じませんよ!」
三度目の笑い。
ジャックはウィットに富んでいるところも素敵だと知りました。
わたし達は温かで幸せな家庭を築くことができますよ。
絶対にです。
――――――――――もうちっとだけ続くんじゃ。
「ところでこれがお守りですけれども」
「えっ? 例の同性を好きになるお守り?」
「そうです」
「まさか買ったの?」
「もらったのですってば」
「焼却処分しよう!」
「アカデミーでも需要があるのではないですか? ジャックに渡しておきますから、どなたかに差し上げてくださいな」
「おお? アカデミーは貴族家の嫡男が多いんだよ? こんなのあげたら訴えられそう」
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