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二話 第三王子ミハイル

じらいおとこ と読みます




 ミハイル・メイ・アルファス・ルクスハイムと言えば、近隣諸国でも有名な、美形王子だ。

 天使のようと称される美貌とおだやかさと甘さのある声に、優雅な仕草。紳士的な態度。まるで物語の王子様がそのまま現実に現れたような姿に、世の貴族女性たちは夢中になった。我こそがミハイル様を射止めるにふさわしい女だと、連日ミハイルの元に恋文が届いたくらいだ。彼へのプレゼントを贈る馬車が、王都の大通りをふさいで列を成していたということもあったという。


 大量に届く見合い写真を切り捨て、彼が選んだのは歴史だけ長い、今は貧乏な伯爵家であるクラーク家の三女リア・クラークだ。 

 クラーク家は多数の貴族とのつながりはあるが、三人の娘を嫁に出すほどの持参金を用意できないほど困窮している。


 それだけ聞けば、『もうすこしいい相手がいたのでは?』と思うのだが、何を隠そう、彼女はこの国で一二を争うほどに強い浄化の力を持つ聖女である。そして、勤勉な性格が功をなして、聖女たちを束ねる筆頭聖女の位をリアに与えようという話も出ているくらいだ。数年前、先代の筆頭聖女が亡くなってから長らく空席だった席だ。すぐにでも彼女を筆頭聖女にするべきという声もあるが、未だ彼女は若い。もう少し経験を積んで、しっかり足元を固めてから、筆頭聖女の位を授けようという話で、可決となった。


 そんな強い力を持つ聖女なら、ミハイルの妻となるにふさわしいだろう。その上、リアは妖精のようと称されるほど整った容姿を持っていて、ミハイルと並べても見劣りがしない。それどころか、セット売りの男女人形のようとも言われている。

 一部のミハイル過激派を除いて、リアがミハイルの婚約者となることは祝福された。


 リア自身も、初めて見た時から、天使のように美しいミハイルに心を奪われた。ミハイルも一目見てリアに惹かれたようで、『彼女をお嫁さんにしたい』と母親である測妃にねだったという。

 話はとんとん拍子に進み、二人の婚約は正式に決まった。リアは気を引き締め『彼の隣に立つのにふさわしくなれるよう、頑張ろう』と思った

 けれど、現実は想像以上に厳しかった。

 自由時間はほとんどなく朝から晩まで勉強勉強。その上聖女としての仕事もあるのだ。最初のころは一日一回ミハイルとお茶をする時間もとれたが、その時間もほとんどとれなかった。


 ――今日は久しぶりにミハイル様とお話しできる日だったのに。


 王子妃教育の最中、リアはこっそりとため息をついた。その時、控えめなノック。ついで、甘く穏やかな声が聞こえてきた。


 ――この声は……!


 教育係が了承すると、扉が開く。ずっと会いたかった、ミハイルだ。彼の姿が現れるだけで、部屋がほんの少し明るくなった気がした。

 少し癖のあるキラキラした金髪。形のいい眉の下には、鮮やかな青い瞳。金色のまつ毛は顔に影ができるほど長い。鼻は高く、唇はつやつやで発色が良い。まるで絵画から抜け出た天使のような姿。皺ひとつない、藍色のスーツがよく似合っている。ピカピカに磨かれた革靴を控えめにコツコツと鳴らしながら、リアへと近づいてくる。

 会えないと思っていた婚約者が来てくれた。それだけで、リアの心は舞い上がるような気持ちになる。


「ミハイル様」

「やあ、リア。頑張っているね」

「はい」


 美しく愛おしいミハイルの姿を見ると、自然と頬が緩み、顔に熱が集まる。彼が自分の婚約者だなんて、今でも夢のようだと思う。


「母上から聞いたよ」


 その言葉にリアの身体が固まる。すっと、胸が冷えた。


「なにを、でしょか?」

「母上に隠れて間食をしたんだって? 駄目じゃないか」


 幼い子を叱るような優しい口調だが、その瞳は冷たい。怒りを帯びた表情でも、その顔立ちは崩れない。むしろ整い過ぎた美貌が冷ややかに引き締まり、彫像のような威厳を帯びる。

 リアの身体が震えた。


「あの、えっと……申し訳ございません」

「次からは気を付けてね。僕は君が太って醜くなるところなんて見たくない」


 さらりと、形のいい指で、リアの髪を撫でながら言う。


「もし、太ってリアのために仕立てたドレスが似合わないなんてことになったら、婚約破棄もありうるかも」


 サッとリアの顔が青ざめた。それだけは嫌だ!


「そうならないよう、努力いたします」

「うん、リアは努力家だからね。信じているよ」


 そう言ってミハイルは去っていった。

 その後も厳しい王子妃教育。その後も聖女としての仕事。今回は、昨日より早く仕事が終わった。

 リアは久しぶりに戻った自室の鏡を見る。


「太ってはだめだ」


 鏡に映る自分を撫でる。


「痩せなきゃ、だめだ」


 ミハイル殿下は細い女性が好み。

 細く美しい女性が正義。

 そのためには、《努力》しなくてはならない。

 自分の身を磨くために《努力》をする女性は美しい。

 美しいミハイル様の隣に立つ自分は、それこそ妖精のように華奢で可憐でなければならない。


 そんな考えが、リアの首をゆっくりと絞めていく。







にーげーてー

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