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プロローグ

ほぼ、この世界の歴史のお勉強なので飛ばしても構いません。



 三十年ほど前、瘴気を無限に生み出す災厄化身――通称《魔王》――が倒され、この地に平和が戻――ったというわけでは無かった。それほどまでに、魔王が生み出した瘴気というものはこの地を、この国を蝕み、衰えさせ、時にたくさんの人の命を奪ってきたのだ。新しく大量の瘴気が生み出されることは稀となったが、いまだ国に平和は戻らない。勇者はその現状に嘆き、仲間と共に、瘴気浄化のための旅に出た。

 しかし、勇者は二十年前――旅を始めて十年ほどで命を落としてしまった。魔王を殺すその瞬間、最も近くで魔王の瘴気を浴びていたのだ。むしろ、あの時点で生きていたこと自体奇跡だった。それは、本人もわかっていたという。だからこそ、最後の命を、平和のために使おうと行動したのだ。彼の死は美談として語り継がれ、浄化の力を持つ聖女や教会の騎士、神官たちも、彼の意志を継ぎ、国中を周って瘴気の浄化に勤めた。

 勇者は死に際、とある予言を残す。彼は、先見の力を持っていた。とはいえ、それは自由に使えるものではなく、時折予知夢として見る程度のものだという。

 勇者が最後に残した言葉、それは『この聖剣を継ぐ者はすでに産まれている。その者を守り、育ててほしい。彼こそが、魔王の卵を破壊する者。新しい魔王が生まれる前に、魔王の卵を破壊してほしい』。

 勇者は地図を用意して欲しいと言った。彼は地図をじっと見つめると、魔王の卵が現れるおおよその場所を指さした。そして間もなく、息を引き取る。

 彼をみとった、勇者の親友である剣聖カシウスは、聖剣に選ばれたものを見つけるため、あちこちを周った。そして、二年後――瘴気によって壊滅した町の数少ない生き残りの中に、ひときわ輝く魂を持つ者を見つけたという。

 弱いが、浄化の力を持ち、傍らに聖獣を従える彼。当時十にも満たない子供を見て、カシウスは友の言っていた次代の勇者は彼であると確信した。

 少年に稽古をつけ、一人前に剣をふるうことができるようになったころ、少年は剣と対面する。そして、聖剣は少年を選んだ。

 その知らせを聞きつけた聖国の教皇は、彼に『フィルガスト・ガロン』という洗礼名を授け、勇者の称号を与えた。

 教皇は聖国から先見の聖女を連れてきて、魔王の卵が現れる場所を予知した。そして、勇者フィルガストは、魔王の卵の破壊に成功した。


これが今から十一年前のことである。

それからは、多少瘴気の影響が残る場所がありつつも、瘴気のせいで大勢の命が失われるということは、ほとんど無くなった。



 そして現在。

ここは魔王時代の瘴気の影響が薄く残り、森から魔物が出てくることがあるリーヴェルン村。

 穏やかな田舎暮らしは充実している。

 王都よりは確かに不便だ。しかし、不便なりに楽しめることも多かった。

 朝起きて、お祈りして、おいしい朝食を食べ、村の見回り。晴れている日は近くの森にいる魔物を退治して、瘴気の浄化。雨の日は教会の掃除をしたり、近くの宿屋の手伝いをしたり、医者の手伝いをしたり。

 おいしい昼食を食べたら、また午前の仕事の続き。空が赤くなったころからは自由時間。うす暗くなったらおいしい夕食を食べて、その後身を清めてのんびりと本を読みウトウトしてきたら寝る。

 そして合間にモフモフの聖獣と戯れたり村の子供たちと遊んだり、時には文字を教えたりして生活する。

 ――王都に戻りたくないなあ……

 自分が左遷されたのだということを忘れて、聖女リア・クラークはそう思った。



 三年前――リアと第三王子のミハイルは婚約した。貧乏伯爵令嬢であるリアにとってはこの上ない幸運だろう。しかし、今なら思う。

「あの男、やめておけ」と。




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