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偽装結婚のはずが、なぜか溺愛が止まりません 『先に惚れたら破滅の溺愛ゲームと、恋する二人は思い込んでいる』  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー5

 それから半月ほどが過ぎ、両国でパーティーが開催されることになった。そこに相手国の重鎮を招き、共同開発をおこなった結界の魔導具の完成祝典をおこなう手はずである。


 アストリッドもまた、レナートのパートナーとしてパーティー会場に足を運んだ。深いブルーのドレスを纏った彼女は、会場の中程でグラニス竜王国からの使者を名乗る者達と邂逅する。


「アストリッド王女殿下、貴女がマギノリア聖王国でもその才を惜しみなく発揮していると聞き、ジークヴァルト国王陛下が大変お喜びでしたよ」

「まあ、お父様がそのようなことを? 大変身の引き締まる思いですわ」


 アストリッドは微笑みを返し、それからきゅっと拳を握る。それから、隣に寄り添うレナートの横顔をじろりと睨む。だが、彼は素知らぬ顔で立っていた。


 オーケストラの奏でる音が会場を包み込み、人々の笑い合う声と混じって穏やかな雰囲気を醸し出していた。シャンデリアの光が降り注ぐ会場で、アストリッドは挨拶を続ける。


 最初はグラニス竜王国の使者、続けてマギノリア聖王国の重鎮達。彼らとの挨拶に追われていると、ほどなくしてコンラートが姿を見せた。

 レナートの腕を掴むアストリッドの手の力がわずかに強くなった。


「アストリッド王女殿下、貴女のおかげで結界の魔導具が実用化に至りました。これで、魔物の被害によって失われる命が減ることでしょう」

「わたくしも、そうなることを心から願っていますわ」


 心の内を言葉にすれば、コンラートは「今日がその最初の一歩となるでしょう。これがあれば、マギノリア聖王国が魔物の被害に遭うことはなくなりますから」と笑った。

 アストリッドはその言葉に引っかかりを覚える。


(それで、内心を隠しているつもりなのかしら?)


 彼は『マギノリア聖王国は』と国を限定した。

 あえて言う必要のない言葉。口を滑らせただけの可能性もあるが――と考えていると、レナートがエスコートで繋ぐ腕を軽く引いた。

 アストリッドはその理由を考え――追求することを踏みとどまった。


「……ところで、バルドル将軍はどちらに?」

「将軍は少し任務がありまして、どうかご容赦を。お祝いの言葉を預かっていますので、後で届けさせていただきます」

「そうでしたか。どうかお気になさらず」


 そつのない受け答えで、コンラートとのやり取りを終える。そうして去って行くコンラートを見送ったあと、アストリッドはレナートの横顔を見上げた。


「レナート、なにを企んでいるのですか?」

「……なんのことだ?」

「誤魔化さないでください。グラニス竜王国の使者を名乗っている者達はどなたですか?」


 真正面から切り込むと、レナートはわずかに息を呑み、それから「……どうして偽物だと分かった?」と首を傾げた。

 それに対して、今度はアストリッドが答えに詰まる。


 検閲がある状態でも連絡を取り合えるようにするために、アストリッドはいくつかの符牒を記憶している。だが、さきほどの使者にはそれが通じなかったから――とは言えない。


 だが、符牒が通じない以上、使者が偽物であることは間違いない。であるならば、暗殺者の類いである可能性も否定できないと思ったのだが――


「その反応、これは計画の一環なのですね?」


 先日、レナートから話があると伝えられた。その内容は、コンラートを捕らえる計画があるというもので、続けて協力をして欲しいと相談された。

 結果、アストリッドはいくつかの頼み事を引き受けている。

 そんなこともあり、グラニス竜王国の使者が偽物だと知ったアストリッドは、すぐにそれがコンラートを捕らえる計画の一環だと理解した。


 だが、それを確認する直前、会場内に国王と王妃が現れ、会場内が騒がしくなった。そうして疑問を残しつつも、共同開発の祝典は開始される。



 祝典では、両国の共同開発によって、結界の魔導具が開発されたという偉業が称えられる。その話に耳を傾けていると、おもむろにレナートが囁きかけてきた。


「そなたには隠し事ばかりですまないと思っている。だが、今日この場で片を付けるつもりだ」


 彼は多くを語らなかったが、それが先日の件を指しているのは明らかだ。アストリッドは小さな笑みを浮かべ、「では、お手並み拝見です」とレナートにしなだれかかった。


 なお、二人の会話は小さく、周囲の者達には聞こえない。

 端から見ると、二人はイチャついているようにしか見えなかった。周囲で様子をうかがっていた者達は、二人の仲は良好だと囁き合う。


 ――と、そんな微笑ましいワンシーンを繰り広げている間にも祝典は進んでいる。ほどなく、共同開発に貢献した者の名前として、アストリッドの名前が挙がった。


 それに応じ、エスコートを受けたアストリッドが壇上へと上がるのとほぼ同時、部屋の扉が少し乱暴に開かれ、そこから騎士の一人が駆け込んで来た。

 その男はそのままコンラートの元に駆け寄り、小さな声で語りかける。


「なんだと、それは本当のことか!?」

「はい、間違いありません」

「そうか、分かった」


 騎士とやり取りをした後、コンラートは「ルーファス国王陛下、緊急事態です」と声を上げた。


「……ふむ、式典を止めるほどの緊急事態か、ならばいますぐ話を聞こう」

「はっ。恐れながら申し上げます。グラニス竜王国の使者がお連れになった騎士の一団が、魔導具の機密を盗もうとしているとのことです」


 その驚くべき言葉に、会場が大きくどよめいた。

 だが、ルーファスが手を上げてそれを鎮める。


「コンラートよ、そなたは自分がなにを言っているのか理解しているか? もしもその情報が誤りであったのなら、そなたの責任は大きいぞ?」

「むろん、覚悟の上です」

「つまり、それだけの確信があると?」

「はい。既にいくつも証拠を押さえています」


 コンラートが堂々と宣言する。それを聞いた者達が、「まさか、グラニス竜王国を講和を破るつもりなのか?」といった言葉を囁き始めた。


 明らかによくない流れである。

 だが、レナートはさきほど、問題はすぐに解決すると口にした。つまり、この状況自体、レナートにとって想定のうちである可能性が高い。

 ならばどうするべきか――と、アストリッドは考えを巡らす。


(今日この場で片を付けると言うことは、これも想定内なのでしょうね)


 さっき、アストリッドはお手並み拝見と口にした。その言葉の通り、まずは成り行きを見守ろうと静観を決める。すると、コンラートが再び口を開いた。


「今回の一件、首謀者はアストリッド王女殿下でございます」

「――コンラート。彼女はグラニス竜王国の王女であると同時に、俺の婚約者でもある。発言には気を付けてもらおう」


 レナートが睨み付ける。

 だが、コンラートは小さく笑った。


「これは言葉が過ぎました。しかし、機密を盗もうとしている首謀者が彼女であることは事実。アストリッド王女殿下が自国の騎士に命令し、魔導具の機密を盗ませようとしたのです」


 コンラートが高らかに言い放ち、その声がパーティー会場の隅々に響き渡った。そのあまりの内容に、会場内は水を打ったように静まり返る。

 そんな中、ルーファスが渋い顔で口を開く。


「……コンラート、そこまで言うに至った証拠はなんだ?」

「これは失礼を。こちらがその証拠となる、手紙の写しでございます」


 コンラートはそう言って、侍従長に一枚の紙を手渡した。侍従長はその紙に危険がないことを確認した後、ルーファスに手渡す。


「……ふむ。署名にはアストリッド王女殿下の名前があり、本文には祝典の日に魔導具の機密を盗むようにという、具体的な指令が書いてあるな」

「ええ、これこそ、アストリッド王女殿下が黒幕である動かぬ証拠でございます」


 コンラートが高らかに宣言するが、アストリッドはもちろん、他の者達も少し困惑していた。本物の手紙ならともかく、写しならいくらでも偽造が可能だからだ。


 だが、コンラートはもちろん、ルーファスもそのことに対して疑問を抱いていない。不思議に思ったアストリッドは手を上げて発言の許可を得る。


「疑問なのですが、この国では写しが証拠になり得るのですか?」

「……そなたの疑問ももっともだ。詳しくは言えぬが、これはある魔導具を使った写しである。ゆえに、これが原本の内容を寸分違わず写し取っていることは保証されている」

「そういう、ことですか」


(わたくしの知らない新しい魔導具ね。おそらく、この国でも最先端の技術なのでしょう)


 アストリッド以外にも、多くの者が驚いていたのがその証拠である。だが同時に、ルーファスの言葉が事実なのだろうと言うことも察していた。


「原本と同様の存在であることは理解いたしました。しかし、わたくしがそのような手紙を書いた事実はございません。そこにわたくしの名があるのなら、それは偽物に他なりませんわ」


 アストリッドが胸を張って告げれば、ルーファスは小さく頷いた。


「コンラートよ。彼女はこう言っているが、この写しはどこで入手したのだ」

「それは、王女殿下が自国へと送った荷物の中から入手いたしました」


 その言葉に、会場が大きくざわめいた。コンラートの行動が、明らかに逸脱した行為だったからだ。少なくとも、軍の副官が独断でおこなってよいことではない。


「コンラート、おぬしは自分がどれだけの罪を犯したのか理解しているのか?」

「罰ならば後でいかようにも受けましょう。しかし、それが彼女の送った手紙の写しであることは疑いようのない事実であり、そこに犯罪の手引きが書かれていることもまた事実でございます」


(……そう。私が悪事を働いたことにして、それに対する報復という形で戦争を再開させる算段なのね。それならば、ヴェルディア商業連合を味方に引き込めるから)


 コンラートの計画の全貌が見えてきた。

 問題はこの落とし所、どうやって彼を断罪するかである。


「――ルーファス国王陛下、手紙を見せていただくことは可能ですか?」

「うむ、むろんかまわない」


 侍従長の手を介して、写しがアストリッドの元に届けられる。


(これは……上手くわたくしの筆跡を真似ているわね)


 ぱっと見た感じでは違和感がないレベル。少なくとも、アストリッドが筆跡を誤魔化そうとしたのだろう――と、言われたら汚名を晴らすのは難しい。


(とはいえ、わたくしが使っている密符までは真似できなかったようね)


 知らない者には分からない身分証明のサイン。手紙に密符が入っていない以上、少なくともグラニス竜王国の者達は、その手紙を本物だとは考えない。

 だけど――と、アストリッドは考えを巡らせる。


(それを明かしてしまえば、今後のやり取りが面倒になるわ。もちろん、この状況を打開することが最優先ではあるけれど……)


 と、レナートに視線を向ける。

 これが彼の想定内であるならば、その結末も用意しているはずだ。であるならば、アストリッドがわざわざ奥の手を使う必要はない。


(それに、レナートからお願いされたあれは、たぶん……)


 そんなふうに考えていると、横から手紙を覗き込んでいたレナートが、「コンラートよ、この手紙はいつ入手したのだ?」と問い掛ける。


「これは、祝典の開催が決定した直後です」

「ふむ。先日の、アストリッドが自国へいくつかの荷物を送ったときということだな?」

「ええ、その通りです」


 コンラートは自信満々に答えた。だが、レナートが無情にも、「では、この写しの元となった手紙は偽物だな」と言い放った。


「……な、なにをおっしゃるのですか、レナート王太子殿下。まさか、婚約者の美しさに絆され、己の立場をお忘れになったのですか?」


 コンラートはわずかに声を揺らしつつも、挑発するように笑う。


「無礼者め。アストリッドが美しいことも、俺が彼女に惚れていることも事実だが、だからと言って、俺は自分の立場を忘れるほど愚かではないぞ」


 唐突なのろけに、アストリッドの心臓がドクンと高鳴った。


(き、ききっ、急になんですか? いまここで、わたくしを口説こうとする意味がありますか? ないですよね? つまり本心と言うことですか!?)


 アストリッドが慌てふためく。

 だが、そうしている動揺している間に、レナートは「それに、この手紙が偽物なのは陛下もご存じだ」と、驚くべき事実を口にした。


「……は?」


 コンラートが間の抜けた顔をする。


「聞こえなかったか? この手紙が偽物なことは、陛下もご存じだと言ったのだ」

「そ、それこそデタラメでしょう!」

「いいや、事実だ。アストリッドが送った先日の手紙には犯罪の手引きなど書いていなかった。ゆえに、彼女が犯罪の手引きをしたという事実も存在しない」

「な、なにをおっしゃっているのか……」


 コンラートが唇を震わせる。


「コンラート、おまえはそもそも、アストリッドの手紙の中身を確認などしていない。いや、確認をするつもりはあったのだろうが、警備が厳重で出来なかった、そうではないか?」

「――っ。まさか、警備がいつもより厳重だったのは……」

「ようやく気付いたか。そなたを捕まえるための罠だ。よって、手紙の内容も俺が指定した、彼女の近況報告でしかない」


 それこそがレナートに頼まれたことである。アストリッドはレナートに頼まれたとおりの手紙を書き、彼らが見ているまえで封をした。

 つまり、先日送った手紙に、機密を盗むなんて内容が書かれているはずはないのだ。つまり、コンラートの用意した手紙の写しが偽物であるという証拠でもある。


「そ、そんな、馬鹿な……いえ、だ、だとしたら、手紙の件は俺の勘違いです」

「……コンラート、いまさらそのような言い逃れが通じると思っているのか?」

「お、お疑いなのは仕方ありません。ですが! 俺の手勢がすぐにでも実行犯を捕らえてくるはずです! そうすれば、グラニス竜王国の者達の企みは明らかになります!」


 苦し紛れの言い訳だが、もしも賊が捕らえられたなら、彼の言い分も一部は通るだろう。だがそのとき、ルーファスが「バルドル将軍」と静かに呼びかけた。


「はっ。賊ならば既に捕らえております」

「――なっ!?」


 コンラートが慌てたような声を上げる中、バルドル将軍の部下である騎士の一人が、グラニス竜王国の騎士の格好で拘束された男を一人、会場の中へと連れてきた。

 それを見たルーファスが顎を扱く。


「ふむ。たしかにグラニス竜王国の騎士に見えるな。バルドル将軍、そなたはどう思う?」

「はい。おっしゃるとおり、見た目はグラニス竜王国の騎士にしか見えません。しかし、おそらくは偽物、我が国の人間でしょう」

「バ、バルドル将軍! なにを証拠にそのようなことをおっしゃるのですか!」


 コンラートが食ってかかる。


「……ふむ。証拠か? 逆に聞くが、コンラート。おまえはなぜ、この者がグラニス竜王国の騎士だと決めつけるのだ」

「そ、それは、どう見てもグラニス竜王国の騎士の格好をしているではありませんか!」


 苦しい言い訳に、会場のあちこちからも失笑が漏れ始める。

 バルドル将軍は、畳みかけるように口を開いた。


「彼の国とは最近まで戦争をしていたのだぞ? グラニス竜王国の騎士の甲冑などいくらでも手に入る。姿がそうだからと、中身がそうだという証拠にはならない」

「だ、だとしても、その騎士はグラニス竜王国の騎士で間違いありません」

「なぜだ?」

「それは、その……そう。俺の部下が顔を確認しています。その者達は、グラニス竜王国の使者が護衛として連れてきた騎士の一人だと!」


(あぁ……そういうこと。上手くハメましたね)


 ようやくすべてを理解したアストリッドが苦笑する。

 だが、それに気付いたコンラートに睨まれた。


「き、貴様! なにを笑っている!」

「あら、これは申し訳ございません。ですが、その騎士を連れてきたのが、グラニス竜王国の使者だなんて、これが笑わずにいられましょうか」

「どういう意味だ!」

「分かりませんか? ですが、レナートがさきほど言ったでしょう? わたくしがレナートに頼まれて書いた手紙には近況しか書いておりません。当然、祝典のことも、書いておりませんわ」

「……は? それは、まさか……っ」


 コンラートが大きく目を見張った。

 アストリッドは笑って、「わたくしはてっきり、レナートが別に招待状を用意して送ったのだと思っていたのですが、違ったようですわね」と偽の使者に視線を向ける。

 すると、ルーファスが偽の使者に向かって問い掛けた。


「そなたらがその騎士を連れてきたというのは事実か?」

「いいえ、ルーファス国王陛下。彼は見覚えのない騎士です。ですが、もし我らが連れていた騎士だというのなら、やはりグラニス竜王国の騎士ではあり得ませんね。マギノリア聖王国の人間である我らが連れていたのは、ルーファス国王陛下からお借りした騎士ですから」

「ふっ、その通りだな」


 コンラートの話が事実だろうと嘘だろうと、どちらにせよグラニス竜王国の騎士ではあり得ないということ。それに気付いたコンラートが、「馬鹿な。すべて罠だったのか……」と唇を噛む。


「ああ。観念しろ。おまえが取り込んだ者達のリストも既に入手済みだ」

「リ、リストだと?」

「そうだ。おまえ達の中に密偵を紛れ込ませていた。おかげで、おまえが黒幕だったことも、誰がどのような考えで動いていたかも、すべて把握済みだ」


 バルドルが畳みかけると、コンラートは「そんな、馬鹿な……」と膝からくずおれた。


「もう、反論の余地はないようだな。――連れていけ」


 バルドルが騎士の一人に命じる。もはや立ち上がることも出来なくなったコンラートは、騎士の手により、引きずられるように運ばれていった。

 そうして彼の姿が消えると同時、会場に静寂が訪れる。


 アストリッドへの糾弾から、あっという間のどんでん返し。その鮮やかな手引きに多くの者が呆けている中、レナートが壇上に上がった。


「皆の者、まずはこのような茶番に付き合わせたことを謝罪する。共同開発の祝典に関しては日を改めておこなう予定だ。手間を掛けるが、改めて出席して欲しい」


 つまり、今回の祝典は偽物で、コンラートを陥れるためだけに開催されたものであると、その場にいるすべての者が理解した。そうして緊張感から解放された彼らの表情が和らぐ。

 そんな中、レナートはヘルミーネを呼んだ。


「お呼びでしょうか、レナート王太子殿下」

「ああ。後ほど、コンラートに協力した者のリストを王国評議会に提出予定だ。情報を精査した上で、対応を決めてもらうので、準備しておくように」

「かしこまりました」


 ヘルミーネが頭を下げると同時、会場に再び緊張が走った。


「マギノリア聖王国は戦争の終結を選択した。ゆえに、この平和を乱そうとする者は許さない」


 彼はそう言って会場にいる面々を見回す。アストリッドがそれに併せて周囲を見回せば、何人か顔色を悪くしている者が目に入った。


(なるほど、貴族の中にも加担した者がいるという訳ね)


 覚えておいて損はないだろうと、顔色の悪い者達を記憶する。

 ほどなく、レナートが「しかし」と口にした。


「現実には様々な問題があり、戦争の終結によって割を食った者がいることも理解している。よって、今回の一件に関しては情状酌量の余地があると考えている。この意味が分かるな?」


 先走った行動をするなという釘刺し。それによって顔色を悪くしていた者達の大半が安堵の息を吐く。だが、ごく一部の者だけは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

 

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