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偽装結婚のはずが、なぜか溺愛が止まりません 『先に惚れたら破滅の溺愛ゲームと、恋する二人は思い込んでいる』  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー4

「なるほど、レナート王太子殿下とイチャついてきたのですね」


 ルーファスに報告を終えた日の夜。

 アストリッドは自室でセリーナに髪を梳かしてもらっていた。そうしてさきほどの出来事を告げるやいなや、開口一番にセリーナが口にしたのがさきほどのセリフである。


「……わたくしの報告のどこを聞いたらそういう話になるのよ?」

「廊下でキスしたんですよね?」

「そ、それは、手首にキスをされただけだと言っているでしょう? 抱きしめられた後は、キスではなく、協力を持ちかけられたのよ? あんな思わせぶりな態度で、酷いと思わない?」

「なるほど、キスをされなかったから拗ねていたという訳ですか」

「どうしてそういう話になるのよ!」

「そう思うなら、あちらを見た方がいいですよ?」


 あちら? と、アストリッドは示された方に視線を向ける。そこには、婚約者に素気なくされて拗ねる女性の姿があった。


「……誰ですか、この婚約者に素っ気なくされて拗ねたような女性は」

「鏡に映ったアストリッド様ですが?」

「~~~っ」


 事実を指摘され、アストリッドは身悶えた。

 セリーナは「もうさっさと付き合えばいいのに。いえ、既に婚約していましたね。爆発すればいいのに」とブツブツ言い始めた。さすがにいたたまれなくなったアストリッドが所在なさげにしていると、ほどなくしてエレナが尋ねてきた。


「いらっしゃい、エレナ」


 なにか用かと声を掛けようとするが、エレナの様子が少しおかしい。それに気付いたアストリッドは、セリーナにお茶の用意をするように指示を出した。

 ほどなく、二人はローテーブルを挟んで向かい合うようにソファに座る。


 セリーナがテーブルの上に紅茶を並べている間、周囲をキョロキョロと見回していたエレナが、部屋の片隅に積み上げられている荷物に視線を向けた。


「あれはなんですか?」

「あぁ、あれ? あれはグラニス竜王国から届いた誕生日のお祝いよ」

「あ、そっか、お姉様の誕生日は来月ですものね」


 エレナが事もなげに言い放つ。それを聞いたアストリッドは軽く目を見張った。


「覚えててくれたのね」

「それはさすがに、兄でなくとも覚えていますよ」


 そう言ってクスクスと笑う。けれど、エレナは次の瞬間には真面目な顔になり、それから「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。


「もしかして、レナートから話を聞いた?」

「はい。大変なことに巻き込んでしまって申し訳ありません」

「いいのよ。レナートにも言ったけれど、お互い様よ。もしもレナートがグラニス竜王国に入り婿をしていたら、私が迷惑を掛けることになったはずよ」


 アストリッドがそう言って笑うと、エレナが眉をピクッと動かした。


「それは、グラニス竜王国にも戦争の継続を望む者がいる、ということですか?」


 彼女は両手で掴んだティーカップを胸元で固定。平常心を装いながら、だけど少し緊張した面持ちで尋ねた。恐らく、相当な覚悟を持って踏み込んだのだろう。

 だが、その反応を予想していたアストリッドは気負うことなく頷く。


「国家である以上、意見が割れるのは当然のことでしょう?」

「……たしかに、そうですね」


 稼ぎになった戦争が終わった。だから次はなにで稼ごう――ではなく、戦争をもう一度再開させれば、まだまだ稼ぐことが出来る、と。そう考える者は残念ながら少なくない。

 それを理解したエレナはわずかに下を向いた。


「だけどね。わたくしは戦争を終わらせるために魔石の研究をしていたのよ」


 そう言って微笑みかければ、エレナはハッと顔を上げた。


「それで、あの共鳴現象を?」

「ええ。魔石の供給量を補えないなら、効率化を図るしかないと思ったの」

「たしかに、二級の魔石が一級の代用になるのは凄いと思います。でも結局、二級の魔石が足らなくなるだけじゃありませんか?」

「そうね。いますぐじゃなくても、いずれはそうなるかもしれないわね」


 そのときはまた、魔石を巡って争いが起こるかもしれない。そんなふうに考えていると、ティーカップに視線を落としていたエレナが、「ほかに、対策はないんですか?」と呟いた。


「……ほか?」

「はい。共鳴現象よりもっとすごい、その……戦争を強制的に終わらせるような研究、とか」


 エレナの顔を見れば、彼女が緊張していたことに気付いただろう。けれど、彼女はティーカップを見つめていたため、アストリッドはエレナの表情に気付かなかった。

 そして――


「戦争を終わらせるような研究かぁ~」


 アストリッドは緊張感のない声をあげた。それから少し考える素振りを見せた後、「まぁ、構想だけなら、なくはない、かな」と呟く。


「戦争を終わらせるような研究をしているのですか!?」


 エレナが思わず立ち上がった。

 彼女の手の中にあったカップから紅茶が零れ、ソーサーに滴り落ちた。


「エレナ、紅茶、零れるているわよ」

「――っ、す、すみません」


 エレナが座り直すと、セリーナがすかさずソーサーごとティーカップを受け取った。それから、エレナのドレスは濡れていないことを確認して背後に控える。


「は、はしたないところをお見せしました」

「いいのよ。わたくしこそ、驚かせてごめんなさい」

「いえ、それはいいんですが……その、どのような研究なんですか?」

「まだ思いつきレベルで、研究というほど本格的に取りかかっている訳じゃないのよ」

「そう、なんですね。ごめんなさい、突っ込んだことを聞いてしまって」


 アストリッドのそれは、パーティー会場でヘルミーネが口にした、人口魔石の再現について。もしかしたら、実現できるかもしれないという思いつきを口にしただけだった。

 だが――


(いまの、グラニス竜王国には、戦争を終わらせるような兵器となる魔石を研究している、ということ? 私はそれをお姉様から示唆されたの?)


 エレナはそんなふうに受け取った。

 そうして誤魔化すように笑い、だけど一呼吸置いて、「あの、もし教えられる日が来たら、そのときは教えてくださいますか?」と口にする。


「ええ、そのときが来たらもちろん教えてあげるわ」


 アストリッドが無邪気に微笑む。

 その意味を、エレナは静かに考え始めた。



 こうして妙な誤解が発生していた頃。レナートは王城のとある部屋でバルドルと密会の最中だった。彼はバルドルの報告を聞き終え、溜め息を一つ吐いた。


「やはりコンラートが黒幕の線が濃厚か」

「はい、残念ながら。戦争の切っ掛けを作ろうとしていたようです」

「ヴェルディア商業連合の介入で締結された講和をこちらから破る訳にはいかないから、か。第三国に仲裁を頼んんだのは正解だったな」


 アストリッドが知り得なかった、第三国が講和に介入した理由。

 戦争の原因がなくならない限り、講和を結んでも反故にされる可能性が高い――と考えた者達が裏から働きかけた結果。ヴェルディア商業連合が介入してきたのはそれが理由。

 本来はグラニス竜王国に対する保険だったが、それが皮肉にも自国の者達の暴走を止めている。


「しかし、レナート王太子殿下も人が悪い」

「……なんのことだ?」


 首を傾げると、バルドルは「そういうところですよ」と笑う。そうしてすべてを見透かすようなバルドルを前に、レナートはふっと息を吐く。


「そうか、バレていたか」

「当然です。軍縮に反対するワシの元には、戦争の再開を願う者が集まると噂になっていた。にもかかわらず、なんの対策も取らないのは、明らかに不自然ですからな」


 ――そう。

 レナートは戦争の再開を願う者が集まり、よからぬ企みをしていることを察知していた。だからこそ、その旗頭になり得るバルドルを泳がせていたのだ。


「それで、ワシの疑いは晴れましたか?」

「実を言うと、そなたが黒幕説には最初から懐疑的だった。軍縮を反対する理由が、唯一残された孫娘を溺愛するがゆえだと知っていたからな」


 バルドルは静かに唇を噛んだ。

 彼の息子はグラニス竜王国との戦争で戦死しており、息子の奥さんは魔物の被害によってなくなっている。そうして残されたのが孫娘、という訳だ。


「……孫娘には、戦争の恐怖も、魔物の恐怖もない、平和な世界で育って欲しいですからな」


 バルドルが笑えば、レナートは「そうだな」と答える。

 以前、バルドルがアストリッドに向かって告げた言葉は真実であった。


「では、バルドル将軍よ。その孫娘が平和な世界で生きられるように、コンラートの悪事を明らかにして、戦争再開の切っ掛けが起こることを未然に防ぐのだ」

「かしこまりました。必ず、コンラートの闇を暴いて見せましょう」


 バルドルはかしこまり、それから「ところで――」と口を開いた。


「橋の破壊工作で皆が疑心暗鬼に陥ったとき、貴方はアストリッド王女殿下にワシの情報を共有しなかった。それは、彼女のことを疑っていたからですか?」

「……そなた、もしや」


 陛下からなにか聞いているのかと、視線で問い掛ける。


「ワシはなにも聞いておりません。ですが、予想はつきます」

「……そうか、ならばここだけの話にしてくれるか?」

「むろんです」


 バルドルが小さく、けれど力強く頷く。


「……アストリッドのことは信じている。彼女が真に平和を望んでいると。だが、グラニス竜王国がそうとは限らない。そして彼女は俺と同じ王族で、自分の感情を押し殺せる人間だ」


 それゆえに、バルドルは恐らく敵ではないという情報を隠していた。そうして、疑心暗鬼に陥っているような素振りを見せ、アストリッドの反応をうかがったのだ。


「彼女が感情を押し殺し、国のために我らと敵対するつもりならいかがするおつもりで?」

「そうさせないために、俺は全力で彼女を惚れさせるつもりだ」


 臆面もなく宣言すると、バルドルは面を食らったような顔をした。だが次の瞬間には「なるほど、ならば殿下の魅力に期待するといたしましょう」と豪快に笑った。

 そうしてひとしきり笑うと、バルドルはウィスキーのグラスを掲げた。


「では、殿下の明るい未来のためにも、まずは自国の膿を取り除くところからですな」

「ああ、そなたの働きに期待している」

 

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