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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第1章 出会いと始まり
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第7話 みんなとの時間が好き

 Chouchouに入るとふわっと甘いアロマの香りが鼻に届く。

 ドアのベルがちりんと鳴って外の空気が切り替わる。

 照明はあたたかい色で棚の上でアクセサリーや小物がきらきら光っていた。


 カウンター近くでは先に来ていた女子高生たちがイヤリングを鏡に合わせて盛り上がっている。

 奥の方からは店員さんが包装紙を畳む音が聞こえた。


「見て、これ新作!」

「それ可愛い〜。こっちのカラーもよくない?」


 美桜が並んだケースをひとつずつ比べる。

 紗月はキーホルダーコーナーでこれ絶対バズるやつと笑っている。

 ステッカーを選んでいると後ろから美桜が覗き込んでくる。


「え、それ選ぶんだ?意外〜!」

「もっと派手なの選ぶかと思った」

「こういう淡いの好きなの!」


 思わず言い訳っぽく返すと紗月と美桜が顔を見合わせてニヤッとした。

 その瞬間だけ店内の照明が指先まで柔らかく染みこんでくる気がした。

 梨沙があたしの隣でその色、瑠奈っぽいじゃんとさらっと言って、ちょっと照れてしまう。


 他のお客さんが横を通るたび、シャンと鳴るハンガーの音やカゴに入れられる雑貨のかすかな音が混ざる。

 このざわめきごと楽しんでる気がする。


 レジを終えて袋を受け取ると指先にビニールの冷たさが伝わる。

 その重さだけでなんとなく心が軽くなる。


 こういうの選んでる時間が何気に一番好きかも。


 夕方の風がまだ少し冷たくてカーテンの光から抜けたばかりの肌に心地いい。

 駅前を抜けるとStarlatteの丸い看板が見え、胸の奥が少しだけ弾む。


「絶対混んでるよね」

「放課後だしね」


 ドアを押すとコーヒーの香りとスチームミルクの甘い匂いがふわっと押し寄せてきた。

 カウンターの上には新作のポップ。

 ストロベリーホイップラテ、ソルティキャラメルミルク、抹茶モカフロート。

 ピンクとキャラメル色の写真が並んで、まるで雑誌の1ページみたい。


「はい、あたし新作一択!」

「私は安定のキャラメルラテ〜」

「甘いの重いからカフェモカにしよ」


 列が進み、次々に注文が終わる。

 あたしもストロベリーホイップでお願いしますと伝えて、トレーを受け取るとほんのりあたたかさが指先に伝わった。


 二階へ上がると窓際の席がちょうど空いている。

 制服の子たちの笑い声、ミルクを注ぐ音、カップが置かれる小さな音。

 全部が混ざって一日の終わりのごほうびみたいな空気になった。


「そういえばさ、1年のバスケ部の子に告られたんだけど〜」

「え、それ聞いてない!」


 美桜が声を上げると梨沙もガチ告?と身を乗り出した。


「ガチ告。でも年下はな〜って思って」

「紗月ってさ、前の彼氏も背高かったよね」

「そうそう。しかも二人ともモテるタイプ。次恋愛するなら、もうちょい刺激が欲しいかも。恋は楽しむものって言うじゃん」


 紗月が笑いながらそう言うと全員でちょっと吹き出した。


「美桜はどうなの」


 梨沙がふいに振ると美桜はメニューを握ったまま固まる。


「え、あたし?……恋したいけどさ、漫画みたいなのが理想」

「両想いになったら絶対赤面するタイプ」

「やめてよ〜!」


 顔を隠しながらも耳まで赤い。


「梨沙はどうなの?」

「んー、今は別にいないかな。でも付き合うならちゃんと好きになった人がいい」

「わかる。そういうの梨沙っぽい」


 あたしもつい頷いた。ちゃんと好きになった人か……。

 でも、冬の終わりのあの日の光景が少しだけ刺さった。


「写真撮ろ!」


 机にドリンクを並べるとピンクや緑やブラウンがカラフルに並んだ。

 カメラ越しに見た景色が映画のワンシーンみたいで思わず笑う。


「でもさこの中で彼氏できるの絶対美桜でしょ」

「え〜!」

「でもわかる。最近一番恋したがってる顔してる」

「じゃあ瑠奈は?」

「……今はまだいいかな」

「落ち着いてる〜!」


 みんなで笑って、笑い声が窓の外に抜けていく。


「てかさ瑠奈って、ちょっと元気戻ってきたよね。なんか雰囲気が前みたいに明るくなった?なんて言えば良いのか分かんないけど」

「え、そう?」

「うん。最近の瑠奈は心ここにあらずって感じだったよ。でも今日はちゃんと笑えてる」


 急に言われて少しドキッとした。なるべくいつも通りにしてるつもりだったんだけど。気づかなかった。


「うん、いいことだと思う」


 梨沙が柔らかく笑って、心臓のあたりがふっと温まる。


 あたしはストローを回しながら、みんなとこうやって笑える時間がまた少し好きになった気がした。

 甘いドリンクが喉を通るたび心のつかえがすっと溶けていく。

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