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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
エピローグ
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エピローグ

 朝の空は夏の名残と秋の気配がほんのり溶け合っていて、水彩をこぼしたみたいに鮮やかに滲んでいた。

 ひんやりした風が制服の袖を揺らして、まだ知らない季節の匂いをそっと連れてくる。

 その匂いは少しだけ透き通っていて、古い痛みをすうっと撫でていくようだった。


 通学路では蝉の声の終わりかけのざわめきにかすかな秋の音が混ざっていた。

 夏と秋が交代する瞬間って、こんなふうに静かで。なのにどこか心がざわつく。


 季節ってほんとにページみたいにゆっくりめくれるんだ…って思った。

 昨日の続きみたいで。でも確かに違う一日が始まってる感じ。


 私は制服の襟を指先で整えて、ひとつ深く息を吸い込む。

 冷えはじめた朝の空気が体の深いところまで落ちていって、ざわつきみたいなものがゆっくり澄んでいく。


 あの頃、息をするのさえ苦しかった朝があったことをほんの一瞬だけ思い出す。

 だけど、その記憶は今は私を引き戻さない。

 ただ遠くで波の音みたいに小さく消えていく。


 足取りはもう迷わない。

 立ち止まる理由を探したりもしない。

 前へ進むことを決めた時の重みが、今日はやわらかい光に変わっていた。


 ふと前方に目を向けると佐伯くんと御崎ちゃんが並んで歩いていた。

 二人の肩がときどきほんの少し触れる距離で、顔を見合わせて小さく笑い合うその空気が朝の光と一緒に揺れていた。

 そのささやかな温度が静かに染み込んでいく。


 すれ違う瞬間、短く視線がぶつかった。

 軽い会釈。本当にそれだけ。その距離感で私たちは十分だった。


 お互い別の方向を互いの大切な人と一緒に歩いていってるから。


 私は視線をゆっくり校門に戻す。

 朝の光に照らされた校舎はまるで昨日より少しだけ白く見えた。


 梨沙たちがこっちに向かって大きく手を振っていて、その横で佑磨くんが少しだけ照れたみたいに片手をあげる。


 あの何気ない仕草が胸の奥の小さな灯りをそっと強くした。

 太陽が校舎の窓に反射して、淡くきらめいていた。

 それはまるで今日の私を肯定するみたいに。


 胸がぽっと熱を灯したみたいにあったかくなる。

 その小さな熱を抱きしめるみたいに息を吸って、私は走り出した。


 影が校門の影と重なって、そのまま光の中へすうっと溶けていく。

 新しい日が静かに私を迎えてくれるみたいだった。


 行こう。今日の私で。


 そう思えた瞬間、静かで優しい音がした気がした。

 それは多分、ずっと欲しかった答えのような未来のページがそっと開くときの音だった。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


本編はここで完結となりますが、この後からは「もしもの展開」を描くIFルートを順次投稿していく予定です。


これまで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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