表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
最終章 赦しと再生
77/84

第4話 明日、少しだけ話せる?

 部屋の時計が十一時を少し過ぎたところで止まりそうな音を立てていた。

 秒針が一つ進むたび、空気の中に小さな振動が広がっていく。


 カーテンの隙間から入る夜風が机の端に置いたプリントをかすかに揺らした。

 昼間の熱がまだ部屋の空気に残っていて、息を吸うたび、少し重たさが滲んだ。


 梨沙たちから届いたグループの通知。

 けれど、指先は動かない。

 私はベッドの上に座り込み、膝を抱えたまま、何も考えられない時間の中に沈んでいった。


 ――あの時の言葉。あの時の沈黙。

 目を閉じると、屋上の光景がまた浮かんでくる。

 あの日のまま、何も変わらずに。


 全て赦されたとは思っていない。

 けれど、梨沙たちと仲直りできたのは本当に嬉しかった。

 あのカフェでみんなが笑ってくれた時――。

 ひどく静かに温かくなる。


 机の上には佑磨くんとお揃いで買ったボールペンが置いてあるのを眺める。


 彼と出かけた時に「お揃いにしよう」って笑いながら選んだもの。

 白とネイビーのツートンカラーで、軸に小さな星の刻印が入っている。


 あの日のあと、使うことが怖くなって、ずっと引き出しの中にしまっていた。

 けれど時々、どうしても触れたくなって、こうして何回も机の上に出してしまう。


「ありがとう」さえ言えなかった自分がこれを見るたびに情けなくて、痛くて、それでも少しだけ嬉しくて。


 でも佐伯くんのことを傷つけた私に恋愛をする資格なんてないと思っていた。


 夏の夜の風は少し湿っていて、髪が頬に張り付く。

 私はそのままベッドの上に横になり、スマホの画面をもう一度開いた。


 佑磨くんとのトーク画面。

 最後のメッセージは6月13日のあの夜。


 〈大丈夫?〉


 その短い文字列が何度見ても胸の奥に刺さったままだった。

 あの時は何も返せなかった。

 彼に返す資格なんてないと思っていて、ただ画面を閉じることしかできなかった。


 ――だけど、もうこのままにはしたくない。告白の返事をするのは怖いけれど、佑磨くんを誰かに取られる方がもっと嫌で、胸が張り裂けそうになる。


 〈明日、少しだけ話せる?〉


 スマートフォンの画面を伏せて、目を閉じる。


 たとえまだ完璧じゃなくても。


 ――もう逃げないと誓ったから。


 窓の外をかすめた風がカーテンをゆるく揺らした。

 その音が明日へ背中を押したように感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ