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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第2章 恋のきらめき
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第40話 この気持ちは隠すしかない

 カフェを出たあと、少しだけ街を歩いた。

 風が弱くなって、アスファルトの匂いに夕方の陽射しが混ざる。

 街全体が少しだけ金色に染まっていく。

 歩くたび影が二人分、長く伸びていく。


「なんか撮る?」

「え?」

「プリクラ。前も撮ったけど、せっかくだし」


 駅に向かう途中のゲームセンター。

 外からでも分かるくらい、光がピンクとラベンダーに揺れていた。

 あたしは思わず笑って「いいね」と小さく返す。


 中に入ると機械の音や笑い声が響いているのに、不思議と心の中は静かだった。

 きっとこの時間を終わらせたくなかったんだと思う。


 画面に映るふたりの姿。

 佑磨くんが指でピースを作って、あたしは少し遅れて笑う。

 画面の中の笑顔がほんの少しだけ本当の自分より柔らかく見えた。


「次、変顔な」

「やだよ!」

「いくぞー」


 笑いながらシャッターが切られる。

 光が瞬くたびに、さっきまでの緊張も心のざわめきも少しずつ溶けていくみたいだった。


 連続で八枚。

 ふざけたのも、真面目なのも。少し照れたのも全部そこに残った。

 モニターの奥で流れるラベンダーの光がブレスレットのリボンに反射してきらりと揺れた。


 最後の一枚だけ。自然に距離が近くなって、佑磨くんの肩が触れた。

 その瞬間、心臓が一度止まった。

 時間がほんの一秒だけ遅れた気がした。


 カメラの光がまたひとつ弾けて、まぶしさの中で呼吸がうまくできなかった。

 笑ってるのに涙が出そうだった。


 落書きのペンを動かす手が少し震える。

 線が思うように描けなくて、笑いながら誤魔化すしかなかった。

 画面の中の自分がさっきよりも少しだけ柔らかい表情をしている気がして、なんだか切なくなった。


『きょうも100点!』


 そう書いてハートを小さく描いた。

 その文字が滲んで見えたのは、きっと光のせいじゃない。


 印刷されたシートを半分に切って「はい」って渡された。

 あたしは受け取って、それをスマホのケースの中にそっと滑り込ませた。

 ケースの中の空気がほんの少し温かくて、その小さな紙がまだ今日の温度を持ってるような気がした。


「ありがと。今日」

「こっちこそ。楽しかったな」


 その短い会話だけで、柔らかい波が広がっていった。


 駅までの帰り道、街のネオンが少しずつ灯っていく。

 風が肌をかすめるたび、さっき触れた肩の温度を思い出す。

 手首のブレスレットが夕陽を反射して、金と銀の光が並んで揺れた。

 その光が一瞬だけ重なったとき、胸がまたきゅっと鳴った。


 楽しかった。

 でも、それだけじゃなかった。

 今日一日の全部が静かに焼きついて離れなかった。


 この気持ちを隠していれば、きっとまだ今のままでいられる。

 そう思うたびに胸が少しだけ痛んだ。


 ほんとうはもう知ってる。

 この痛みの名前も理由も。

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