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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第2章 恋のきらめき
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第28話 映画でも行かない?

 勉強机の上に置いたスマホが小さく震えて薄暗い部屋の空気を一瞬だけ明るくした。


 〈今週の土曜空いてる?〉


 送信者の名前を見た瞬間、心臓が一拍だけ跳ねた。

 鼓動がほんの少しだけ速くなる。

 けれどそれがドキドキなのか焦りなのか自分でもよくわからなかった。


 指先が止まる。返信欄を開いて〈うん〉と打ちかけて、消して。また打ちかけて。

 そのたびに指の跡で画面が曇っていく。


 十五分。たったそれだけの時間なのに、やけに長く感じた。

 時計の針がひとつ進む音がやけに大きく響く。


 メッセージを送るか、送らないか。

 たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに考えてしまうんだろう。


 結局、送信ボタンを押せたのは机の上のデジタル時計が23:15を示したころだった。


 送信音が小さく鳴って、何かがふっと沈んだ。

 安堵なのか、緊張なのか、区別がつかない。


 二人きりでって、どういう意味なんだろう。

 ただの友達同士のつもり。

 ……そう言い聞かせても、静かにざわついていた。


 スマホを伏せてベッドに倒れ込む。

 天井の灯りを消すと、部屋がすぐ夜の色に染まる。

 目を閉じてもまぶたの裏にメッセージの文字が浮かぶ。


 「今週の土曜空いてる?」


 声に出してみると、不思議と優しく聞こえるような気がして、その分だけ余計に落ち着かなくなった。


 横を向いた先に置いてある写真立ての中には去年の文化祭で撮ったクラス集合写真。

 みんなが笑ってる。自分も笑ってる。

 なのに、どこか別の世界の出来事みたいに見えた。


 掛け布団を肩まで引き上げて、息をひとつ吐く。

 部屋の外からは家族の話し声とテレビの音が微かに聞こえる。

 それすら遠く感じるほど部屋の中の静けさが濃くなっていく。


 天井のシーリングライトに反射する光がゆらゆら揺れて、時計の秒針の音が心臓の音に重なった。


 眠れそうにない。

 目を閉じても頭の中で同じ文字がぐるぐると回る。


 映画でも行かない?


 ほんの短い一文なのに、それだけで世界が少し違って見えた。


 嬉しいとか楽しみとか。そんな単語じゃ説明できない。

 ただ明日が少しだけ怖くて。でも、早く明日が来てほしいとも思ってしまう。


 その矛盾した気持ちを抱えたまま、あたしはいつの間にか目を閉じていた。


 眠りに落ちる直前、どこかでスマホの通知音がまた鳴った気がしたけれど、もう確かめる気にはなれなかった。

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