第16話 潮風の匂いと彼の肩
波打ち際では誰かが「せーの!」と声を上げて、一斉に水切り大会が始まった。
小石が次々に飛んでいくけど、まともに跳ねることはほとんどなくて、ほとんどがぼちゃんと沈んでいく。
「それ遠投だから!」
「跳ねろよ〜!」
「お前センスなさすぎ!」
「俺は五回いった!」
「一回しか跳ねてなかったから!」
笑いがまた波みたいに広がる。
砂の山を作って埋もれ合う組と貝殻を拾う組に分かれて遊び始めた。
「見て、かわいくない?」
「映え確定!」
「そういうのすぐ砂に埋もれるよ」
砂に腰を下ろすと、潮風が火照った頬を冷ましてくれた。
空はすでにオレンジ色に傾き始めていて、海面に反射した光がきらきら揺れている。さっきまで騒ぎまくっていたクラスの声も波に混じって少し落ち着いて聞こえた。
「……疲れたー!」
紗月が大の字になって砂に倒れ込むと、すぐ横で舞が笑いながらタオルをかける。柚菜と美桜は買ったお揃いのキーホルダーを見せ合ってはしゃいでいて、鳩サブレーの袋はもう空っぽ。
ふと視線を横にやると是枝くんが少し離れたところに立っていた。スマホを下ろしてじっと海を眺めている。沈みかけた太陽の光が横顔にかかって、やけに大人っぽく見えた。
声をかけようとしたのに足が砂に縫い止められたみたいに動かない。心臓だけが早く跳ねて喉がやけに乾く。
夕陽が沈みかけた砂浜に先生の笛の音が響いた。
「そろそろ集合ー!」
名残惜しそうに貝殻をポケットにしまう子、最後まで砂に字を書いてる子。ざわめきが潮風に乗って、列を作る声と重なっていく。
「二年三組!点呼いくぞー!」
番号順に名前が呼ばれていき、返事の声が夕暮れに重なる。
みんな日焼けした頬で笑っていて、足元の砂はまだ温かかった。
バスが並ぶ駐車場に戻ると、車体に映る夕陽がオレンジ色に光っていた。エンジンの低い音が一定のリズムを刻んでいて、どこか安心する。
座席は行きと同じく指定されている。是枝くんが窓側に座り、その隣にあたしが腰を下ろす。彼は荷物を足元に置いて、少し伸びをした。
「ねむーい!」
「さっき砂に埋まってたでしょ!」
紗月の大声に美桜がすかさず突っ込む。梨沙はブランケットを肩まで引き上げて、笑いながら目を閉じた。
窓の外はもう群青色で街灯がぽつぽつ点り始めている。光が車内のガラスに反射して、ふわりと揺れていた。
「あとで写真送るね」
「さっきの鳩サブレー載せよ!」
舞が振り返って声をかけ、柚菜がスマホを構えて笑う。
あたしはシートに体を預けて、窓に流れる夜景を眺めた。潮風に吹かれて乱れた髪、日焼け止めの甘い匂い、まだ残るみんなの笑い声。
揺れが心地よくて、だんだんまぶたが重くなる。気づいたときには頭がふっと横に傾いて——是枝くんの肩に軽く触れた。
「……あ、ごめん」
慌てて体を戻したのに心臓が跳ねた音のほうが大きくて、眠気なんて一瞬で吹き飛んだ。




