第15話 2年3組参上!
境内を出ると、太陽はもう頭の真上に近くて、参道を抜ける風まで少し熱を帯びていた。屋台の声に名残惜しさを感じながら、みんなぞろぞろとバスへ戻っていく。
リュックを座席に押し込む音やお菓子をしまう袋のカサカサ音があちこちから聞こえる。エンジンがかかって車体が揺れると、朝から続いているざわめきがまたすぐに蘇った。
窓の外では段葛の並木道が後ろに流れていく。両脇に並ぶ古い町家や土産物屋を横目に次第に住宅街へと景色が変わっていった。
「次は大仏だよね!」
「写真絶対撮ろー!」
「頭の上に手をかざすやつやろ!」
そんな声が飛び交って、車内はまたお祭りみたいに明るくなる。先生が「静かにしなさい」って言う声も笑いにかき消されて、バスはゆっくりと次の目的地へ進んでいった。
大仏の前に立った瞬間、思わず足が止まった。
青空を背にした巨大な姿は写真で見るよりずっと迫力があって、静かな重みが響いてくる。
「……でっか!」
「やば、人間が入ってるんじゃない?」
「中入れるんだよね?見学とかで!」
わっと声が弾んで、みんなが一斉にスマホを掲げた。
ポーズを決める子、ピースサインをする子、変顔をする子。シャッター音が重なって、笑い声が絶えない。
「はい次こっち!みんな揃って!」
誰かが声を張ると、全員が肩を寄せ合って、大仏を背に並ぶ。
その一瞬だけ観光客のざわめきも遠のいて、カメラに収まった輪の中だけが小さなお祭りみたいにきらめいていた。
ふと横を見ると、是枝くんは大仏をじっと見上げていて、スマホのシャッターは切らずにポケットに入れたまま。
「……こういうのは写真より目で見た方が残るだろ」
ぽつりとこぼれた彼の声に、ふわりと揺れた。
すぐに誰かが「次は砂浜で写真大会だな!」と叫んで、わっと空気がまた動いた。
バスに戻る足取りも軽くて、みんなの笑い声が鎌倉の路地に響いていった。
砂浜に降りた瞬間、足裏にじりっと熱が伝わってきて、潮風と太陽の匂いが一気に押し寄せた。
波打ち際まで駆けていった紗月と美桜が甲高い声を上げて、スカートの裾を両手で必死に押さえる。
「やば!冷たっ!」
「靴もうびちょびちょ!」
しぶきがぱしゃっと跳ねて、光の粒になって散った。峰島くんが波のギリギリに足跡を残して遊んでいると、柚菜が砂に大きな文字を書き始める。
「見て!『2年3組参上』!」
「ダサっ!」
「じゃあハート描くわ!……って波に消された!」
「永遠に残らない恋みたいだね」
「誰がうまいこと言えって言った!」
笑いが波音に混ざって、風にさらわれていく。
「せーのっ!」
梨沙が掛け声をかけ、全員でジャンプした瞬間に舞がシャッターを切った。
「ちょっと、あたしの顔ブレてる!もう一回!」
「今度こそタイミング合わせろよ!」
少し落ち着いたところで柚菜が紙袋を取り出した。しらすせんべいや鳩サブレー、巾着に入った小さなストラップが次々と並んでいく。
「見て〜!あたしこれ買った!」
「え、かわいい!ちょっと貸して!」
「鳩サブレーは?分けろ分けろ!」
「一枚だけね!」
「ほら、餌付けタイム!」
舞がサブレーをかじった瞬間、柚菜がスマホを構えてからかう。
「やめて!絶対ソルグラに載せないで!」
美羽は慌てて口を押さえて必死に叫んだ。
周りは大笑いで、しらすせんべいはあっという間になくなった。
「おい、俺の分!」
藤井くんが抗議しても、もう遅かった。
あたしはそのやり取りに笑いながら、袋が静かに空になっていくのを見ていた。
「じゃあ俺はこれ!」
峰島くんがポケットからチャラ神守護お守りを取り出した。
「は?そんなのあるの!?」
「絶対ご利益なさそう!」
「でも逆に持ってたら笑いが絶えなそう!」
砂浜の輪は熱を帯びて、まるで文化祭の打ち上げみたいだった。波音とみんなの声が重なって、由比ヶ浜全体が自分たちの教室になったみたいに感じられる。
少し離れた場所で是枝くんがスマホを下げて海を静かに見ていた。
陽射しに細めた横顔を見ただけで息が詰まり、声をかけようとしたのに足が止まる。
「おーい!花園と佑磨も混ざれー!」
呼ばれた声に慌てて振り返って、あたしと是枝くんは笑い声の輪に駆け戻った。




