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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第2章 恋のきらめき
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第14話 おみくじ

 参道を歩き出すと一気に空気が変わった。小町通りの賑やかさとはちがって、並ぶ木々の間から差し込む陽射しは少し柔らかい。石畳の道に鳥居の影が落ちていて、その先に見える階段の上に本殿の赤い屋根が光っていた。


「やば、写真映えすぎる!」

「ほらほら、ソルグラ用に並んで!」

「もう観光客そのものじゃん!」

「はい、次!こっちピース!……いや変顔でも!」

「ちょっと!変顔は黒歴史確定じゃん!」

「ほら瑠奈も!ほっぺ膨らませて!」

「やだよー!」


 結局、全員が思いっきり変顔した瞬間にシャッターが切られて、爆笑が弾けた。


「待って待って、動画でも撮るから!」


 美羽がスマホを横に構えると舞が隣でハートマークを作って叫ぶ。


「ほら!背景もっと入れて!赤い屋根見えるように!」

「お前ら観光客より観光客してるな」

「よし!次はチャラ神ガイドの出番だな!」


 藤井くんが前に飛び出して、石段をバックに両手を広げる。


「奇跡のコラボ!神社とチャラ神!」

「ふざけんな!」

「静かにしろって!」


 ツッコミが飛んで、笑い声がまた波みたいに広がる。


「ちょっと静かにしなさい!」


 先生の声が飛んできた瞬間、全員がぴたりと固まる。沈黙が一瞬だけ落ちた――のに柚菜が吹き出して、また空気が崩れた。


「やめてよ!こらえきれないじゃん!」

「もう完全に漫才ツアーだよね!」


 参道いっぱいに笑いが広がって、人混みにも混ざっていった。


 その中心で是枝くんは落ち着いた足取りのまま石段の上を見上げていた。赤い本殿に目を細めて、何も言わない。その静かな横顔をちらりと見た瞬間、また小さな熱が灯った。


 境内に入ると石段の上から光が降り注いで、朱色の社殿が青空に映えていた。参道の両脇には屋台やお守りの棚が並んでいて、ひときわ人だかりができている場所があった。


「ほら!おみくじあるよ!」

「やるやる!」


 ガラガラっと筒を振る音があちこちから響いて、白い棒が出てくるたびに小さな歓声が上がる。


「きたー!大吉!」


 美桜が紙を高く掲げて、顔をぱっと輝かせる。周りから「えー!」と声が飛んで、拍手まで起きた。隣では小さく肩を落としてため息をつく姿があった。


「うわ、ずるい!……私、中吉だ」

「私は吉。まあ無難ってやつ?」

「待って、あたし……小吉なんだけど」


 思わず声が漏れると、数人が一斉に振り返って目を丸くした。すぐに口元を押さえて笑いをこらえながら突っ込みが飛んでくる。


「また中途半端なの引いた!」

「この前のタロットもあやしかったじゃん!」


 慌てて手を振るけど、ひらひら揺れる紙が余計に目立って、笑い声が広がった。


「やめて!ほんとに運勢悪い人みたいじゃん!」


 紙に書かれた小さな文字を見つめると、不安が広がる。……でも、それを隠すように顔を上げた。


「小吉くらいが一番現実的だろ」


 横から落ちてきた淡々とした声。視線を向けなくても、誰の声かすぐに分かった。自然と肩の力が抜けていく。


「お、俺も小吉だわ!」


 峰島くんが紙を掲げてドヤ顔。周りから「仲間!」と笑いが飛んでくる。


「俺は大凶!やばくね!?」


 藤井くんがわざと大声で叫ぶと、舞がすぐに覗き込んで腹を抱えて笑っている。


「チャラ神、守護力ゼロじゃん!」


 柚菜がすかさず突っ込むと、爆笑が一斉に弾けた。後ろの方では観光客までちらっとこちらを見て、思わず笑みをこぼしている。


「……あたしたちは末吉」


 美羽と遥が顔を見合わせて同じ紙を見せ合い、同時に小さく肩をすくめた。そのタイミングの良さが妙に可笑しくて、また笑いが重なった。


 白い紙を結ぶ手が次々に並んで、木の枝が色とりどりに揺れる。風に乗ってかすかに紙がはためき、光を反射して小さくきらめいた。

 指先に結び目を固く作りながら、自分の手が少し強張っていることにふと気づいた。

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