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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第2章 恋のきらめき
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第12話 チャラ神ツアー in 小町通り

 賑やかだった車内もしばらくすると少しずつ落ち着いてきた。

 後ろで大声を張り上げていた男子たちも今はお菓子を回し合いながらカードゲームを始めている。


 笑い声は残っているけど、さっきまでのカラオケボックスみたいな騒ぎに比べたら、だいぶ穏やかだった。


 窓の外を流れていく街並みが少しずつ緑の割合を増していく。ビルの隙間から見えた青空はもう完全に視界を埋め尽くすほど広がっていた。


 あたしはその景色を横目で眺めながら、リュックのポケットから小さなキャンディを取り出した。袋を静かに開けて口に入れると、甘さと一緒にふわっと熱が広がる。


「……欲しい?」


 是枝くんにキャンディを差し出すと、彼は一瞬だけ視線を落としてからほんの小さく頷いた。


「サンキュ」


 短い言葉と一緒に受け取って、包み紙を丁寧にたたむ仕草がなんだか彼らしくて、胸が少しくすぐったくなる。


「次プリン食べる!」

「え、まだ着いてないし!」


 なんてやり取りが聞こえてきて、笑い声がまた小さく弾む。


 どこかで寝るわーと言ってシートに体を沈めた男子の声が聞こえ、すぐにスースーという寝息まで混じってきた。


 空気が緩んでいく中で、是枝くんが窓に肘をかけたままぽつりとつぶやく。


「……着いたら最初はどこ行くんだっけ」

「プリン!ってみんな言ってたけど……しらす丼も食べるって」

「胃袋足りないな」


 その言葉に思わず笑ってしまい、あたしはリュックをぎゅっと抱きしめた。


 やがて先生の声がマイクを通して響いた。


「はーい。そろそろ鎌倉に入りますよー!荷物の準備をしておいてくださいねー!」

「おーっ!」

「やっと着いたー!」


 クラスメイトの声が重なり、窓の外に広がる緑と屋根の低い街並みが見えた。

 じわじわ高鳴って、あたしは窓に額を近づけて外の景色を食い入るように見つめた。


「見て!鳥居!」

「うわー人やばっ!」

「写真撮ろ!」


 ガラス越しにスマホを掲げるシャッター音がぱちぱち響く。

 窓ガラスに押し付けられた頬や反射する制服の色まで全部が遠足の空気で満ちていた。


 シートベルトの金具がかちゃかちゃ鳴って、先生が「立たない!」と声を張ったけど、その注意すら笑い混じりで受け止められて、盛り上がりの一部みたいに溶けていった。


 やがて大通り沿いの駐車スペースにバスが停まる。エアブレーキの音が響いて、どっと拍手が広がった。


「着いたー!」

「よし!鎌倉ー!」


 声のボリュームは完全にお祭りモード。

 鞄を引っかけた肩がぶつかって、笑い合いながらみんなぞろぞろと降りていく。


 通路に響くスニーカーのゴム底の音やリュックの金具がカチカチぶつかる音までもがリズムみたいに軽やかだった。


 足元に差し込む陽射しは思ってた以上に強くて、舗装された道からじりっと熱を返してくる。リュックの中でペットボトルが小さくカランと音を立てた。


 外に出た瞬間、空気ががらりと変わる。潮の匂いと混じって漂ってくるのは焼き立ての煎餅や甘いバニラの香り。遠くから聞こえる太鼓の音や呼び込みの声が街全体をにぎやかな舞台みたいにしていた。


 人の流れはすでに小町通りへ向かっていて、視界の先で旗を掲げた観光ガイドや修学旅行らしい他校の生徒たちが色とりどりの制服で混ざり合っている。

 青、白、紺。いろんな学校の色が交じり合って、春の陽射しにきらめいていた。


 人混みの中をぞろぞろ進んでいくと、肩やリュックがあちこちでぶつかって「ごめん!」って声が飛び交った。観光客がカメラを構えて立ち止まるたびに小さな渋滞ができて、流れが止まる。


「はーい止まった!ここで一枚撮ろ!」


 舞がすかさずスマホを掲げた。


「お前ブレないな!」

「これも小町通りの醍醐味〜!」


 梨沙と紗月がすぐにのっかる。舞が前に出て、はい笑って〜!とシャッターを切ると、美羽が慌ててちょっと待って!髪直してない!と前髪を抑えた。


「それ逆に自然体で可愛いって!」


 柚菜がニヤニヤ顔で突っ込むと、また笑いが広がる。


「男子は?ほら入れよ!」

「ピースサインを決めて映える男は俺だ!」

「いや絶対映えてない!」

「それ黒歴史確定〜!」


 誰かが叫んで、またどっと笑いが起きた。


「おいおい、列乱れてるぞ〜。先生に怒られるって」

「大丈夫!ここからは俺がチャラ神ガイドになる!」


 峰島くんが茶化すように声を上げると、藤井くんが両手を広げて前に出た。


「やめろ!絶対迷子出すやつ!」

「チャラ神ガイドツアー、追加料金はプリン一本です!」

「ふざけんな〜!」


 クラスメイトからツッコミが飛んで、歩くたびに笑いが弾ける。


 そんな中でも是枝くんは冷静に人の流れを見ていた。


「……マジで列崩すなよ」

「はい先生〜!」

「次はガイドさんお願いしまーす!」


 笑い声が一層大きく広がって、小町通りのざわめきに混じって響いていった。

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