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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第2章 恋のきらめき
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第9話 バスの座席

 週明けの教室はいつもよりざわざわしていた。

 窓の外には透き通った青空が広がっていて、淡い陽光が教室の廊下を淡く照らしている。

 黒板の上にチョークで書かれた「遠足・班編成」の文字。それだけでクラスの空気が一気に熱を帯びる。


「え、行動班とバス席どっちも決めんの?」

「だって一緒にしとかないと絶対めんどくなるじゃん」

「うわー、絶対席争奪戦になるじゃん」


 あちこちから声が飛び交い、笑い声や机のきしむ音が重なっていく。

 風でカーテンがそっと揺れ、窓際の緑の葉が窓ガラスに影を落とす。


「とりあえず私たちは一緒だよね」


 梨沙が振り返って言うと、紗月が机に肘をついたまま大げさに頷いた。


「当たり前じゃん。美桜もでしょ」

「もちろん!遠足で別班とか絶対無理だし」

「じゃあ美羽と柚菜と……遥も?」

「うんうん、八人ちょうどくらいになるんじゃない?」


 自然に笑いが重なって、ノートの端に班メンバーの名前が書き込まれていく。

 チョークの粉がまだ黒板にうっすら残っていて、春の光を反射して白く光っていた。


「男子は誰呼ぶ?」

「峰島くん?どうする?」

「やっぱ是枝くんじゃない?」

「えー、いいね!てか絶対必要じゃん」

「じゃあ決まりで」


 何気なく出たその名前に一瞬だけ胸が跳ねた。でも、他の子たちの声に紛れて、まるで自然な流れみたいに過ぎていく。


「やったー!食べ歩き最強メンバーじゃん」

「てかプリンは絶対だから」

「え、あたしはクレープ派!」

「いやいや、しらす丼も外せないでしょ」

「ねえ胃袋足りる?ってか男子に分けてもらえばいいんじゃない?」

「大丈夫、青春は無限に食べられるから!」


 冗談が冗談を呼んで、笑い声がどんどん大きくなる。

 机を囲む輪が一層ぎゅっと固まって、まるでこの瞬間だけ自分たちの教室が小さな島になったみたいだった。


「じゃ、次はバスの座席どうする?」

「だね。隣は誰がいい〜?」

「まだ決めてない」

「私も未定〜」

「じゃあ適当に決まった人と座るしかないじゃん」


 机の上のノートには矢印や名前が走り書きされて、鉛筆の芯がカリカリと音を立てていた。笑い声が重なるたびに教室の空気が少しずつ熱を帯びていく。


「それはもう運命だ!」

「ちがうしー!運命とかじゃないでしょー!」

「てか、そういうこと言う人に限って一番楽しんでるんだよね」

「やめてー!図星かも〜!」


 教室のあちこちで同じような声が上がり、紙の上に名前が埋まっていく。

 後ろの方では男子たちがジャンケンで盛り上がっていて、廊下からは別のクラスの笑い声が漏れ聞こえてくる。

 空気が熱を帯びて、まるで教室そのものが遠足前の高揚感で少し浮き上がっているみたいだった。


「女子はこの並びでいいんじゃない?」

「じゃあ隣は……瑠奈と是枝くんでいい?」

「えっ」


 思わず声が漏れそうになった瞬間、周囲のいいじゃん!!いいじゃん!が一斉に重なって、すぐに決定事項みたいに固まっていく。

 是枝くんは少しだけペンを止めて、視線を逸らしながら……別にいいけどと小さく返した。


「決まり〜!よろしくねー!」


 美桜がニヤニヤしながら声をかけると、是枝くんは肩をすくめて……はいはいと小さく答える。

 その何気ないやり取りに机の周りでまた笑いが広がった。


「……一緒に回れるんだ」


 その言葉が心の中で小さく響いて、消えなかった。

 笑い声の渦に飲み込まれているはずなのに、自分だけ違うリズムで心臓が鳴っている。

 窓から差し込む光がノートの白い部分に反射して、やけに眩しく見えた。


 グラウンドの方からは掛け声が微かに届いて、白球を追いかける上級生の姿が遠くに揺れていた。

 その向こうでまだ枝先に残った桜の花びらが風に乗ってひらりと舞い上がる。陽射しに透けた花びらは淡い光を帯びて、空気の中をゆっくり漂いながら、やがて校庭の砂に落ちて消えた。


 教室のざわめきと春の景色が重なり合って、染み込んでくるみたいだった。

 その一瞬だけ周りの時間がやけに伸びて、みんなの声が遠くなる。波紋のように広がった感覚がなかなか収まらず、風に舞った花びらがガラスに貼りついて、春がそこに留まったみたいだった。


 光に透けたその一枚はまるで「今日」という瞬間を閉じ込めたみたいに見えて、目が離せなかった。

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