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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第1章 出会いと始まり
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第10話 占いなんて信じない

 元町中華街駅を出ると鮮やかな牌楼が目の前に立ちはだかる。

 赤と青と金色の装飾が太陽に反射して思わず息をのむ。


「写真!絶対撮ろ!」

「ここ来たらまず門でしょ!」


 横並びになってスマホを構える。


「髪直させて!」

「待って!画角微妙!」

「ちょっと眩しいんだけど!」


 あちこちから声が飛んできてなかなかシャッターが切れない。


 舞がジャンプしよ!ジャンプ!と無茶振りして、全員で揃って飛んだら一人だけタイミングずれてしまう。

 美羽は顔暗いんだけど!もう一回!と粘って、何度も撮り直す羽目になる。


「ストーリーどうする?横浜中華街?」

「食べ歩き女子でしょ!」

「華のJKってタグ入れよ!」

「それ痛いからやめろって!」


 タグ会議が始まって、通りすがりの観光客まで振り返るくらい笑い声が響いた。

 最初に目に入ったのは湯気の立ち上る小籠包の屋台。

 鉄板から立つ音と香ばしい匂いに全員足を止める


「絶対これ食べる!」

「え、でも熱そうじゃない?」

「そこがいいの!」


 一口かじると肉汁がじゅわっと広がって、思わず熱っ!と飛び跳ねる。

 その瞬間を梨沙のスマホで撮られてはい、ストーリー行き〜!と笑われた。

 続いてゴマ団子、肉まん、タピオカ。


 ちょっと食べすぎじゃない?と言いながら誰も止まらない。

 ゴマ団子を落としかけて三秒ルール!と叫んでまた笑いが広がる。


 袋を片手に歩きながら写真を撮ってはソルグラム用に加工して、笑い声が絶えない。

 色とりどりの提灯が頭上に並んでいて、その下を歩くだけで夢の中に迷い込んだみたいだった。


 占い館の中は外の喧騒と切り離されたみたいに薄暗くて、ランプの光がぼんやり揺れていた。紫のクロスの上にタロットカードが並べられるとさっきまでのはしゃぎ声が自然と小さくなる。


 占い師がカードをめくるたび、後ろで見ているみんなの顔が近づく。


「……女帝。これは実り、愛情、豊かさを意味します」

「なにそれ、超いいじゃん!」

「美羽の女子力爆上がりってこと?」

「やだ〜!当たってるかも!」


 美羽が頬を赤くして笑うと空気が一気に華やいだ。


「……節制。バランスと調和。自分を律することで良い流れをつかめるでしょう」

「遥っぽい〜!」

「わかる。なんか大人びてるし」

「落ち着き担当だしね」


 遥は照れ笑いしながらもまあ、そう見えるならいいけどと肩を竦めた。


「運命の輪。これはチャンスの到来。そして新しい出会いを示しています」

「うわ、出会い!?やば〜!」

「まさか今日出会っちゃうんじゃない?」

「それな!?占い当たりすぎたらどうしよ〜!」


 舞は大げさに手を振って笑い、全員がつられて声をあげる。


 柚菜が前に出ると、空気が少し落ち着いた。占い師の指先が静かに2枚のカードをめくる。


「……死神。そして月。これは終わりと不安定さを意味します。あなたの周囲の縁が近い将来変わる可能性がありますね」

「え、縁が切れるってこと!?」

「やだ〜こわっ!」


 柚菜は笑ってるけど、笑顔がちょっと引きつっていた。


 いやいや、そんなの信じないし!って強がる声が逆にリアルで、みんな一瞬顔を見合わせた。


「あなたの過去は正義。冷静でバランス感覚のある子ね。現在は女教皇。落ち着いていて洞察力もある。そして未来は太陽。幸福と明るい未来が待っています」

「……めっちゃ真面目じゃん」

「梨沙らし〜!」

「なんか地味じゃない?」


 梨沙は肩を竦めてからみんなのツッコミに悪くはないでしょと軽く返す。


「過去は愚者。自由で気まぐれな子。現在は女帝。華やかで、まさにモテ期。そして未来は星。希望や新しい出会いが待っています」

「はい出ました〜!モテ期!」

「恋愛楽しむタイプそのまんま」

「異議なし!」


 全員の声がそろって、紗月はまあ否定はしないけど!と自信満々に笑った。


「過去は月。憧れや片想いをしてきたわね。現在は恋人。恋の始まりを示している。そして未来は世界。成就、幸せな結末よ」

「うわ〜!美桜が一番先に彼氏できる説!」

「絶対そう!顔に出てるもん」

「やめてよ〜!恥ずかしいから!」


 美桜は顔を真っ赤にして両手で隠すけど、みんなが大爆笑して余計にからかわれていた。


 そして最後はあたしの番。椅子に座ると心臓が少しだけ早くなる。

 占い師の手がカードをめくった。


「……恋人の逆位置。そして塔」


 低い声が響いて、全員が一瞬黙り込む。


「これは選択の迷いや不誠実な関係。そして……崩壊を意味します」

「えっ、三角関係って書いてある!」

「やば、二股じゃん!」

「ちょっと〜!そんなことしてないし!」


 みんなが一斉にツッコんで笑うから顔が熱くなる。

 そんなことしてないし!って反論したけど、スマホを構えた舞がこれストーリー入れたらウケる!と大声で言うからますます赤くなる。


 笑い声と冷やかしの渦に紛れて、占い師の静かな声が最後に落ちた。


「ただ……注意してくださいね。判断や選択を誤るとあなたの大切なものを幾つか失うかもしれません」


 占い師にそう言われた瞬間だけは何故か笑えなかった。小さな棘みたいなのが残ってみんなに気づかれないように軽くうつむいた。

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