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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第1章 出会いと始まり
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第8話 じゃあLIME教えて

 曇り空の朝は少し肌寒い風が吹き、駅前のビルの間をすり抜ける。

 渋谷駅から代官山へ向かう坂道は週末だっていう気持ちがじわっと浮き立つ。


「そう言えば今日って小テストじゃん。終わったわ」

「え、何の?」

「英語!単語ぜんぜん覚えてない」

「昨日やるって言ってたのにスマホいじってたでしょ」

「バレた?」


 梨沙がからかうと美桜は両手を合わせてカンペ貸して〜と冗談めかして言う。


「あとさ、化学って今日実験だよね?」

「あー、試験管のやつ?火使うやつ?」

「そうそう!ちょっと楽しみじゃない?」

「瑠奈が一番はしゃぎそう〜」

「うるさい!」


 全員で笑いながら坂を登っていく。


「でもさ、3限目の日本史が一番だるいわ」

「美桜、絶対寝るでしょ」

「え、私そんなキャラ?」

「去年からずっとそうだし」

「先生に起こされるまでワンセット」


 美桜が頬をふくらませて紗月と梨沙が声を合わせて笑った。


「もう!!梨沙と紗月は後で覚えてろよ〜!!」


 週末前の朝は授業だるいとか小テストやばいとかそんな他愛もない会話で埋め尽くされていく。


 化学室は薬品の匂いがほんのり漂っていて窓際の光がガラス器具に反射してきらきらしていた。

 机の上にはビーカーや試験管が並んでいて班ごとに指示通りの実験を始める。


「つまりだな、今日のは反応の違いを目で確認するのがポイントな。結果がはっきり見えるからやってて楽しいと思うぞ」


 長谷川先生の穏やかな声が響き生徒たちの手が一斉に動き出す。


 火をつけたアルコールランプの炎が小さく揺れて試験管の中の液体がゆっくりと色を変えていく。

 その瞬間梨沙が身を乗り出して小声で言った。


「これ、映えそうな色じゃない?」

「わかる!バズる実験動画ってこういうやつだよね〜」


 紗月が笑いながらかぶせて、美桜もBGMはあの曲でしょと小さく口ずさむ。

 ふざけたやり取りに笑いながらもみんなの手元はちゃんと動いていた。


 隣で是枝くんは淡々とビーカーを持ち替え正確に分量を計っている。

 液体が鮮やかな色に変わったとき、班のみんなが同時におー!と声を上げる。


 それだけで教室の空気が一気に明るくなった。


 昼休みのチャイムが鳴ると同時に机が次々と寄せられる。

 あたしたち4人に柚菜、さらにクラスの女子3人まで混ざってきて、気づけば教室のど真ん中が人でぎゅっと埋まった。

 みんなの笑い声が天井まで跳ね返る。


「ね、土日どっち空いてる?」

「土曜!」

「わたしも」

「日曜はちょっと無理だから土曜がいいな」


 誰かが答えるたびに声が重なって自然と流れが決まっていく。


「じゃあ土曜に決定!」

「どこ行く?」

「渋谷は行きすぎだし、ちょっと遠出したい」

「横浜とかどう?」


 その言葉にみんなの声が一気に高くなる。


「いいじゃん!横浜!」

「中華街とか絶対楽しい〜!」

「写真もいっぱい撮れる!」


 盛り上がった声に包まれているとなんだか自分まで舞い上がりそうになる。

 この輪の真ん中にいることがちょっと誇らしい。


「あ、そうだ。ノート貸してくれてありがと」

「別に。あとで写真送ろうか?」

「え、いいの?」

「うん。じゃあLIME教えて」


 スマホを差し出すとあっという間に友だち追加が済んだ。

 画面に新しい名前が増えるのを見て、なんでもないふりをしながら指先がちょっと熱い。


「明日の化学の復習いる?」

「貸してくれるの?」

「うん、いいよ」

「ほんと助かる!」


 笑いながら返すと彼は小さくうなずいてプリントを閉じた。

 声が大きくなくても、ちゃんと届くのが不思議で耳に残る。


「横浜行くことになったんだよね」

「ああ、さっき聞こえた。楽しそうだな」

「うん。写真いっぱい撮ってくる」

「楽しんできて」


 その言葉に少し胸が弾んだ。

 でも、すぐ横で美桜が服どうする?と声を上げるから、会話は自然と途切れる。

 また周りの賑やかな渦に戻っていくけどスマホの画面の光がひとりだけの秘密みたいに残っていた。

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― 新着の感想 ―
心が向いていれば、キチンと声は届くんですよね♪
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