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イージーリスニング

作者: サンダー

 私はいつでも生半可な気持ちで人生の大半を過ごしてきた。仕事もしなければ、恋人と食事をするような事もない。そんな孤独な人生がいつでも楽しかった。

 友達はそんな私に呆れて、「いつまで仕事もしないで、プラプラしてるんだ」と、必要以上に言ってくる。もちろん悪気はないのだろう。しかし私はそういう友達が鬱陶しく思えて、現実の世界から突き放そうと思い、サルトルの「嘔吐」の話を嫌と言うほど聞かせてやった。

 人生なんて実った果実が腐るのを見届けるようなもので、人は所詮死ぬのだから、生きる事に意味など持とうと思わなかった。

 しかし40歳を過ぎた頃、突然好きな女性が現れた。年端もいかぬ、まだ汗の匂いが残る女学生だった。

 いつもの駅で新聞を読んでいると、彼女が友達と楽しそうに話しているのが見えた。それだけで胸がときめいた。なぜこういう感情になったのか自分でも分からなかった。なぜ彼女を好きになり、彼女のどこに心を奪われたのか、皆目見当もつかなかった。

 私は彼女の虜だった。いつしか自分だけのものにしたいと思うようになった。そして汗だくになって彼女を愛したいとさえ思った。

 こんな感情は生まれて初めての事だった。まさか自分が人を愛せるとは思いもしなかった。そしてその日からある制作が日課になった。

 私は彼女そっくりのDOLLを作ろうと思いたち、来る日も来る日もDOLLの制作に明け暮れた。毎朝、駅に行っては彼女を見つめ、想像し、制作は順調に進んだ。

 半年程でDOLLはほぼ完成した。どう見ても似ても似つかわないものだったが、そこには私の愛情が集約されていた。今にして思えば怨念とさほど変わらないものだった。

 ある日私はDOLLの左腕がどうにも気に入らなくて、もいでしまった。どこがどう気に食わなかったのかはよく覚えていないが、多分しっくり来なかったのだろう。これでまた宿題ができたと思い、また次の日、日課のように駅に向かった。珍しく彼女の姿がなかったのだが、よく聞き耳を立てて友達の話を聞くと、どうやら左腕を怪我したらしく、今日は学校を休むという話しをしていた。

 私は今日彼女に会えない事にがっかりした。しかし左腕とは・・・・・。あまり気にもかけずに家に帰ったらDOLLに彼女の左腕がついていた。目を疑ったが、私は嬉しさのあまり、彼女の左腕に頬ずりした。

 これはなにかの幻想ではなく、彼女の左腕がそこにあたっただけの話だ。私は思い切ってその日右腕をもいだ。

 そして次の日目覚めると彼女の右腕がDOLLについていた。そして1日ごとにDOLLを解体していき、最後に頭をもいだ。私は次の日を想像して中々寝付けなかった。夜中の3時ごろ家の周辺が騒がしくなった。何事だと思い布団から抜け出すと、ドアをドンドン叩く音がする。こんな夜中に変だなと思いドアを開けてみると、警官が3名ほど立っていた。「ちょっと失礼しますよ」

「ありました◯◯さんの遺体を発見しました」

 振り返ると血を流した彼女が微笑んでいた。




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