3. 自分の心を打ち明けられる人
日記帳を購入した次の日の夜、遥は恐る恐るそれを開いた。驚いたことに、前日に見た誰かの日記は消えていた。
そしてそこには、たしかに前日自分が書いたメッセージと、それに対する返事が書かれていた。
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私の名はレオンハルト。王宮魔導士であり、この日記帳の持ち主である。
あなたは誰だ?この日記帳は私しか使えないはずだ。
私の知らない文字を使用しているようだが、異国の者か?魔法で私にも読めるようにしているのだろうか?
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その日から、遠く離れた場所にいるはずの遥とレオンハルトの2人の交流が始まったのだ。
遥はまず、自分の状況を説明した。大学に通っていること、アンティークショップ巡りが趣味であること、そこでこの日記帳を見つけたこと、なぜか遥も知らないはずの文字を読めること、そして自分の世界には魔法はなく、魔法は使っていないこと。
レオンハルトも色々なことを説明してくれた。日記帳は今も自分が持っていること、自分は遥が日記帳を使える状況になるような魔法は知らないこと、日記帳の仕組み・・・。
当初は事務的な確認の話が多かったが、気づけはお互いに今日あった嬉しいことを報告したり、大学や仕事のこと、プライベートであったことを話すようになっていた。
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レオンハルト、こんばんは。今日あったことを聞いてもらえる?
朝はぶつかりおじさんに会うし、お昼はトマトソースが白い服に飛ぶし、散々だったのよ。でも、ゼミで先生にレポートの出来が良かったって褒めてもらえたの!
結果的にとっても良い1日だったわ。レオンハルトも素敵な日を過ごしているといいな。
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こんにちは、遥。ゼミとは君がこの間言っていた、大学という機関での専門授業のことだろうか?よく勉強を頑張っているのだな、素晴らしい。
私は今日もいつもと変わらず仕事だった。君と話を聞くと、魔法学園に通っていた頃のことを思い出すよ。
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こんばんは、遥。今日は少し書き込みが遅くなってしまったが、君のメッセージが消える前に見られてよかった。
母上に呼ばれて実家に行っていたんだ。母上は私に早く結婚してほしいらしい。
君は1人で暮らしているんだったな。私は実家を出たものの、屋敷には使用人がいるし、彼らがいないと暮らしていけないだろう。君はすごいな。
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こんにちは、レオンハルト。私の世界では、自分のことは自分でやるのが普通のことなのよ!便利な機械も沢山あるしね。
それより、多くの人を救う仕事をしているあなたの方がずっとすごいと思う。私は勉強はしているけど、これが世の中の役に立つがなんでまだ全然わからないし・・・・。
あなた、結婚するの??私と同じくらいの年だと思っていたけど、随分早いのね。びっくりしちゃった。
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日記帳でのやりとりは2人にとって心の癒しとなり、気づけば遥が日記帳買ってから1ヵ月が経っていた。