2. もう1人の持ち主
その日、レオンハルトは疲労の限界だった。レオンハルトは23歳ながら、非常に強い魔力を持つため、上級魔導士として王宮で働いている。
最近の王宮は、第一王子と第二王子の派閥争いで揺れている。今は亡き王妃の息子である第一王子が成人するまで残り数か月。どちらが次の王となるかは、貴族達にとって重要だった。
通常なら第一王子が王太子になるところ、亡くなった彼の母親は小国の姫であり、後ろ盾がやや弱い。一方、第二王子の母である側妃は勢いある国内の侯爵家出身で、一族をあげて第二王子を王太子にしようと躍起になっている。
レオンハルト自身も歴史ある公爵家出身だが、家督を継ぐ予定もなく、派閥争いには興味がない。しいて言えば、第一王子とは年が近く幼い頃から交流があり、第二王子派閥のように権力に溺れていない点に好感を持っていた。しかし、高貴な血筋を持ち、力のある魔導士を味方につけたいと考えた第二王子派閥がレオンハルトに接触するようになってきていた。
魔導士としての業務も忙しい中、第二王子派閥からの呼び出しはレオンハルトをより疲弊させていた。
レオンハルトはストレスを吐き出そうと、日記帳を取り出した。この日記帳には彼が特別な魔法を施しており、レオンハルト以外の者には内容を読むことも書き込むこともできず、彼が残したいと願わなければ24時間後に書いた内容は消える。様々な思惑が行きかう王宮での仕事の疲れを癒すのに最適である。
しかし、彼が昨日と同じように最初のページを開いて記入しようとしたところ、驚いたことにそこにはすでに文字が書かれていた。
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あの、あなたは誰なの?私は今日この日記帳を買ったのだけれど、気づいたら文章が書かれていて驚いたの。だけど、あなたがとても疲れていることは伝わってきたわ。お大事にしてね
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「これは・・・どういうことだ?」
「どうかしたんですか?レオンハルト様」
思わず出た驚きの声に、同僚から反応が上がる。
しかし、この日記帳は個人的なものだし、必要がなければ仕組みを明かしたくない。
「いや・・・なんでもない」
レオンハルトは動揺しつつも返答した。
自分以外の人が読めるはずのない日記の内容を読んだかのような返答。確かに自分が持っているのに、"日記帳を買った"らしい人。初めて見たのに、なぜか読める文字。
理解できないことばかりだった。なのに、見知らぬ自分の状況を気遣ってくれる存在に、ささくれた心が救われたような気がした。
自分は思っているよりも疲れているのかもしれない。であれば、せっかくなら返事を書いてみよう。どうせ明日にはすべて消えているのだから。