1. 日記帳との出会い
その日、大学の帰り道、遥はふと足を止めた。ガラス越しに見えたアンティークショップの看板が、心を誘うように揺れていた。
アンティークショップ巡りは遥の趣味だ。歴史や異国情緒を感じるもの達は、それぞれが誰かに大切にされた思い出を持っているようで、見ているだけでワクワクする。
そして、偶然入った店で、不思議と目が離せない日記帳に出会った。
「とっても素敵な文様・・・。革のカバーからは歴史を感じるのに、中は新品のようだわ」
古めかしい革の表紙に、奇妙に新しい白いページ。ちぐはぐさを感じるのに、まるでずっと遥を待っていたかのような気配があった。
店員に訊ねても、どこの国のものか分からないらしい。
「でも、きっと長い旅をしてここに来たんでしょうね」
店員が笑ったその声が、少し遠くに聞こえた。
帰宅後、夕飯と入浴を済ませ、ベッドに入り思案にふける。遥は2年前に大学に進学して以降は実家を離れ、一人で暮らしている。両親に感謝はしているが、家族仲は不安定だ。アルバイトに授業に家事と忙しい毎日だが、充実していて、一人で過ごす家は心の安寧が得られた。
それでも、孤独を感じる夜もある。世界に自分1人しかいないような感覚。家族と離れて1人で暮らす家に安寧を感じるなんて、自分がひどく冷たい人間のように思えてくる。友人はいるけれど、果たして何人が本当に心を通わせた存在なのか・・・。
そこまで考えたところで、ふとその日に買った日記帳のことを思い出した。もしかしたら、思いを書くと気分転換になるかもしれない。日記を書く習慣があるわけではないが、何か書いてみようかな、と思い日記帳を開いた。そして、最初のページを見て息を飲んだ。
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15 Apr
今日も第二王子に召された。いくら王宮魔術師だとしても、私は王族の所有物というわけではない。少し控えてほしいものだ。
ここ最近忙しくなかなか屋敷にも帰れていない。来週には落ち着くといいが・・・・。
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そこには、購入した時にはなかった文章があった。文字は同じではないのに、なぜか何を書いてあるか理解できる。
「なにこれ・・・・どういうこと?」
今まで感じていた不安や孤独はすべて吹き飛んだ。そして、この不思議な状況の真相に近づくため、ペンを取った。