初心者が練習試合に参加してみたら? 2
「出てもらうつもりだったけど」
「えぇ……」
部活の班練習が終わり、ヘッケル先輩に練習試合のことを聞いてみた。
そもそも練習試合のことすら知らなかったんですが、先輩の中では当然試合に出るよねって感じになっていたみたい。ウッソでしょ、相手はプロの卵で僕は競技歴1ヶ月未満だよ?
「えぇ〜、シグリっちも試合出んの〜? いーじゃん楽しそ〜う」
「え、いや……」
この僕と対極的とも言えるパリピ陽キャはチェッカー先輩である。金髪ロングで爪は色塗ってるしバカデカサングラスを常時着用している派手派手人間だが、ポジションはスカウトである。隠密行動できんのかこの人?
「試合つっても練習なんだし〜。気楽にやろうね〜」
「えぇ……」
チェッカー先輩の中でも勝手に話が進んでいってる……。まずはヘッケル先輩を説得して考え直してもらわないと。
「も、もう試合なんて、ちょっと早いですよ」
「夏の大会まで時間がない。ボクたちの負担的に夏の大会は試合出てもらうし、公式戦で初めて試合よりはマシ」
「いぇ〜い。シグリっち、楽しもうね〜」
「は、はぁ……」
チェッカー先輩は無理やりハイタッチをしてくる。この人ボディタッチも多いし、距離感エグいんだよなぁ。ちなみにゴテゴテのサングラスを外すと普通に美少女なのだが、サングラスは絶対に外さないし、学校でも変わった人で通ってるっぽい。
「それからシグリには今日からスカウトの練習をしてもらいたい」
「マジ〜? ウチ1人で偵察してたから助かる〜」
「え、え、なんで僕がスカウトまで?」
「ディフェンダーとして出るためだね」
「ブレイカーとしてオフェンスフェーズ専門という話じゃなかったでしたっけ?」
「オフェンスだけと言ったことはないよ。選手交代のルールは理解してる?」
競技ダンジョンにも、他のチームスポーツ同様に選手交代が存在する。
まずフィールドプレイヤーが11人。これは俗に言うスターティングメンバーというやつだ。ディフェンスフェーズには11人全員が参加し、オフェンスフェーズは毎ターンこの11人の中から4人を選抜する。
ベンチ登録のメンバーは6人、この中から実際に試合に途中出場できるのは最大3人まで。選手交代のタイミングはターンの切れ目のみ。つまり先攻チームと後攻チームが同じ回数のオフェンスフェーズとディフェンスフェーズを行った後に交代が可能なタイミングが来る。フェーズの間で交代ができないのは、先攻がオフェンスフェーズ終わってディフェンダー専門の選手を出すと後攻のオフェンスフェーズが不利になるためである。
既にディフェンスフェーズへ参加できなくなった選手、つまりディフェンスアウトになった選手も交代することができるが、ディフェンスアウトになった選手と交代で入った選手はディフェンスフェーズに参加できない。つまりディフェンスフェーズに参加させたい選手を交代投入する場合は、ディフェンスアウトになっていない選手と交代する必要がある。
「たぶん覚えてると思いますけど」
「じゃあ交代の説明は省くけど。ディフェンスできないアタッカー専門のブレイカーは、味方が誰かディフェンスアウトにならないと入れないよね?」
ディフェンスアウトになったディフェンダーと交代するとディフェンスフェーズに参加できない。逆に言えば、僕がディフェンスアウトになったディフェンダーと代わってもらえば、僕はディフェンスフェーズに参加しなくて良いのだ。
「ブレイカーの仕事は2回しかない。最深フロア行ったら終わり」
プロの試合では4階層のダンジョンを使用していたが、高校生の大会では3階層までとなっている。つまりブレイカーが相手をオフサイドにする機会は1階層→2階層と2階層→3階層の2度しかない。
つまり、ブレイカー専門の選手は味方のディフェンダーがアウトになってから、味方のアンカーポイントが最終フロアに到達するまでの限られた時間しか試合に出ることができないのだ。交代枠は3つしかなく、その限られた枠を2度しか仕事がない選手に割り当てるのももったいない。
「ウチ気付いちゃったんだけど、ブレイカーの選手ってだいたいスカウトかスイーパーやってね?」
「求められる能力が似ているからね」
「ヘッケるんみたいなスピードタイプならスイーパーだから、シグリっちみたいな隠密タイプならスカウトになるね〜」
ヘッケル先輩はその俊足を活かしてオフェンスフェーズではブレイカーとして相手の裏を強襲、ディフェンスフェーズではスイーパーとして味方の裏のスペースをカバーしている。
僕は別に足が速いわけではないが、ディフェンダーの視界を掻い潜ってオフサイドを狙うタイプのブレイカーだ。魔法は使えないし、武器持ってバチバチ戦うことも出来ないので、基本的に見つかったらリタイアである。
相手の偵察を行うスカウトも見つかったらダメなポジションなので、考え方は同じかもしれない。
「少なくともディフェンダーとして何かはやってもらわないといけない。シグリに合ってるのはスカウトだと思う」
「そ、そういう話なら、ディフェンダーとかスイーパーみたいな直接バトルするポジションはなおさら無理かも……」
「それにスカウトとブレイカー兼ねている選手は強みもある」
「なんでしょう?」
「スカウトはオフェンスでも出るんだよ」
ディフェンスフェーズで相手アタッカーの編成をいち早く味方に共有したり、ディフェンダーの裏をとってきた相手アタッカーをスイーパーに伝えることはスカウトの重要な仕事である。
しかしオフェンスフェーズにおいて、テクスチャの情報や相手ディフェンダー、ダンジョンモンスターの配置を確認するのも、スカウトの重要な役割だ。
「新しいフロアに入った時、まずスカウトを派遣して様子を探る」
「今はウチが1人でやってるよ〜」
「スカウトはアンカーポイントになることもあるくらい先行する。バレずに相手陣の奥まで侵入できたとすると?」
「ブレイカーなら、そのままフロアを踏破できるとかですかね?」
「そう。フロアのディフェンダーを全てオフサイドにする、隠密タイプのブレイカーにしかできないスーパープレイだよ」
「憧れるよね〜。決まったら勝ちみたいなもんだし」
「そ、そこまでなんですか?」
「攻略が進んでいない状態、ディフェンダーが多く残っている状態でのクリティカルなオフサイドは、予期が不可能だからディフェンダーは戻れない。アウトになる人数も致命的だし、コマンダーやスカウトのような重要な役職をアウトにできることもある」
コマンダーはダンジョンモンスターを操る選手、スカウトは味方に相手の情報をもたらす選手、スイーパーは広い範囲を守る選手。サポーターの選手は代えが効かない役割の選手が多く、魔術師やディフェンダーだけ残されたところで穴埋めすることは難しいだろう。
普通、重要なポジションの選手はオフサイドになりそうな状況になる前に下のフロアへ下げておくのだが、クリティカルオフサイドの場合は気がついたときには裏を取られているので、下のフロアへ先に降りておくことすらできない。
「じゃ、じゃあ、万が一のためにサポーターの選手は何人かいたほうが良くないですか?」
秋海棠の競技ダンジョン部には、コマンダーはラミー先輩とリオがいて、スイーパーはヘッケル先輩の他にもう1人いるが、スカウトはチェッカー先輩だけだ。
「ウチはアウトにならないからだいじょーび!」
「チェッカーは本当にアウトにならないから1人でやってるけど、普通は控え含めて2人ずつくらい起用する。2人ともスタメンのチームもあるし、2人まとめてアウトにならないように片方を控えに置いておくチームもある」
「も、もしかしてそのために僕をスカウトにしようと?」
「そう。ブレイカーもスカウトも2人いれば戦術の幅が広がる。シグリがスカウトもやってくれると助かるんだけどね」
「シグリっち〜、一緒にやろうよ〜」
それって僕が役に立つってこと……?
人に頼りにされた経験のない僕は、それ言われると弱いんだよなぁ〜。うわ、口角上がって気持ち悪いヤツになってないかな。
「そ、そこまで言うなら……」
「やった〜。一緒に頑張ろうね〜」
「そしたらチェッカーが色々教えてあげて。ボクがスイーパーの練習で抜けるときとか」
「りょうか〜い」
「よ、よーし、スーパープレイしちゃうぞー」
「その意気だ〜」
* * * * *
「というわけで〜、今日からシグリっちを一流スカウトに育てちゃうよ〜の会」
「お、お願いします」
僕がスカウトの練習をするタイミングは予想よりも早くやってきた。てか普通に考えれば競技ダンジョンってディフェンスの練習のほうが多いはずだし、今まではたぶんヘッケル先輩が合わせてくれていたんだよね。
「ちなみにシグリっち、目がめっちゃ良かったりする?」
「ふ、普通だと思いますけど……」
「ウチじゃ教えるの無理かもしらん」
「なんで……」
あれ、もしかしてこれって、僕はスカウトとして見込みないってこと? チェッカー先輩は超高校級の一流プレイヤーだし、雑魚に教える時間がもったいないとか……。
「そう言えばヘッケるんから、シグリっちマイナス思考でダルいから気をつけるように言われてたんだった」
「そんなふうに思われてたんですか!?」
「見込みがないとかじゃないから安心して。ウチとタイプ違うから、教えるんじゃなくて一緒に考えながらやっていかないとってだけ!」
「そ、そっかぁ」
まだ見捨てられたわけじゃないみたいで良かった良かった。ヘッケル先輩から面倒くさいと思われている件については軽く3週間くらい引きずる。
「スカウトにも種類があるんですか?」
「当然だよ! むしろ同じタイプの選手は存在しないと言っても過言」
「言い過ぎてる」
「ざっくり、近距離タイプと遠距離タイプだね。ウチは遠くから相手を見つける遠距離タイプ!」
「なるほど、それで視力の話を」
「ご明察〜。シグリっちは魔法使えないし、近距離タイプ一択だ」
「先輩とプレースタイルが違うんですね」
「まあ見つかっちゃダメっていうのはどっちも同じだけどね〜」
とはいえ遠くから相手を見つける遠距離タイプと、相手に近寄って情報を収集する近距離タイプでは、見つかりやすさも段違いだろう。相手に気付かれたときに後方へ撤退することを考えれば、純粋な移動距離は近距離タイプの方が長くなる。僕が近距離タイプのスカウトを目指すのであれば、相手に近寄って見つかる可能性が高くなるし、万が一見つかってしまったときには逃げ切れる可能性が低い。
「シグリっちはまだブレイカーの練習しかしてないんだよね?」
「はい」
「じゃあまず覚えておいたほうがいいのは、スカウトは相手がどこにいるかすら分からないってことね」
「あ、確かに。ブレイカーの練習では相手の配置がわかっていた気がします。ディフェンダーの薄いところを狙うようにって」
「その薄いところを探すのがスカウトの仕事だからね〜。で、まず覚えてほしいのは、生還することが一番大事ってこと」
「それはそうなのでは?」
「そう? じゃあ例えば、めっちゃ見通しのいい場所があるとするね? フロアの奥の情報が欲しくて、その情報が分かれば次のオフェンスフェーズでフロア踏破できるかもしれない」
「ふむふむ」
「見通しのいい場所に出たら倒されちゃうかもしれないけど、次のオフェンスフェーズに有効な情報がゲットできる。このとき、スカウトは行っていいと思う?」
アタッカーは倒されてしまっても、次のオフェンスフェーズでは復活することができる。そしてこのターンのフロア踏破は無理でも、大きな情報を持ち帰れば次のターンに繋がる。なんなら僕はアタッカーとして戦力にならないので、味方が攻めてくれるかもしれない。攻撃を仕掛けるなら僕がいてもいなくても3人みたいなもんだし。
「2ターンでクリアできるなら儲けもんなのでは?」
「バッッッッッッカモオオオオオオオオオオオオオオンンンンン!!!!!」
「ぎゃあああああああ」
「生還しろって言ったでしょーが!!」
「すみませんすみませんすみません」
厳ついグラサンした金髪の人に眼付けられるのは冗談とわかっていても恐怖を感じる。ふぇぇ、野生の陰キャには優しくしてよぉ。
「で、でもなぜですか? 僕なんか攻撃の頭数には入らないですし、情報は確実に持ち帰れるんだから次のターンで他の人に決めてもらえばって思って」
「相手にその位置で倒されるってことは、相手に『スカウトに情報掴まれた』って情報を渡すことになるでしょ? そしたら相手はもう同じようにしてこないよ。でしょ?」
「あ……確かに」
「スカウトの仕事は、味方に有用な情報を一方的に獲得してくること。相手に見ていたことが悟られるくらいなら、最初から見る必要なんてないんだよ」
「じゃ、じゃあ相手に見つかるのも良くないとか……?」
「まあそれはその時々かな〜。生きてればもう1回スカウト行けば良いからね〜」
スカウトも意外と深いのかもしれない。
競技ダンジョンは頭脳ゲームとも言われている。情報の奪い合いも含めて戦略性があるし、目まぐるしく変わる戦況の中で迅速に守備陣形を変更したり、攻め落とす箇所を判断したり、臨機応変に色々なことを判断しなければいけないスポーツなのだ。
「ま、シグリっちは隠密タイプのブレイカーでしょ? 隠密タイプのスカウトなら、考えることはブレイカーのときとそんなに違わないと思うよ〜」
「わかりました」
「オフェンスのときはね。じゃあ次はディフェンスのときの話」
「あの、僕、そもそもディフェンスのこと全然わかんないです」
「そっか、ディフェンスの練習は参加してなかったんだっけ。でもディフェンスはコマンダーが参加してるし、だいたいコマンダーの言うとおりに動けばいいよ。スカウトはみんなの眼になるだけだから、見てきてって言われたところ見に行って、生還すればおけまる水産」
「じゃあ考えることは少ないんですかね」
「まあね。あとは相手のブレイカー対策だけど、それは長距離タイプのスカウトがやることだからシグリっちはいいや。ウチに任せといて」
ディフェンスフェーズにおけるスカウトの仕事はシンプルに相手の行動を明らかにすることにある。相手が陣取って動かないオフェンスフェーズに比べ、こちら側が陣取って相手を迎え撃つディフェンスフェーズのほうが楽かもしれない。相手が攻めてくる進路を見極めたら、味方のディフェンダーの裏へ下がってブレイカーをケアするだけだ。
その代わりアウトになってしまうと復活できないので注意が必要である。
「あとはディフェンスフェーズのテクスチャを覚えるだけだね。試合に向けて頑張ろー!」
「テクスチャを覚える……?」
「スカウト行ってきてって言われて、どこ移動するのか前もって考えとくんだよ」
「そんなことできるんですか」
「当たり前じゃん。自分たちで守るダンジョンのテクスチャは自分たちで決めてるんだから」
競技ダンジョンではディフェンスフェーズで守るダンジョンの各フロアのテクスチャを決め、試合開始時に相手と公開し合う。このテクスチャはチームで用意したものが使用され、主にコマンダーなど、ディフェンダーの選手たちに有利になるような地形に調整される。プロだと専門のマップチームがいるらしい。
「ウチはマップを立体的に覚えてるけど、シグリっちは近距離タイプだし平面でいいや。相手を見つけた後、どの道通ればパッと味方の近くに戻れるか覚えよう!」
「なるほど、そうやって生存率を上げてるんですね」
「どの位置に行けば見つからずに偵察できるかも覚えられると尚良し」
ディフェンスの指揮官であるコマンダーがフィールドを作成しているということは、大まかに相手の攻めてくるであろう進路や、どこで相手を迎え撃つかというのは考えながら作成されたテクスチャになっているのだろう。相手のアンカーポイントの位置によって偵察に行くべきポイントなどはある程度絞ることができるだろうし、そこから自陣へ帰還するルートも確保しておけば試合中に慌てることもない。近くに配置されるディフェンダーの位置が分かっていれば助けを求めることも可能だ。
「で、そのテクスチャの情報はどこに?」
「ん? まだないよ?」
「ほえ?」
「んー、練習試合だし、決まるのは前の日とかかな!」
「え、1日で覚えるんですか……?」
「そだよ」