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陰キャが競技ダンジョン部にスカウトされたら? 3

『さて先攻ホエールズのオフェンスフェーズです。フェニックスの1階層は山岳地帯』

『フェニックスは意図的に乾燥したエリアを選択したかもしれませんね。水魔法対策でしょう』

『なるほど。フェニックスは今シーズン、1階層にはジャングルを選択するゲームが多かったです』

『フェニックスは飛行しているモンスターが多く、テクスチャを柔軟に選ぶことが可能なチームですから、ホエールズ対策で変えてきましたね』


画面は山岳地帯を進むホエールズの選手たちを映している。オフェンスフェーズ開始直後は4人グループで動いていたが、次第に分かれ道などで単独行動に移る選手が出てきた。


「テクスチャは試合の開始と同時に相手に公開される。1階層が普段と違うテクスチャだったから、ホエールズはスカウトの選手を起用したね」

「スカウト?」

「斥候。ディフェンダーとかダンジョンモンスターの配置を探る人のこと」

「あ、あー、先輩も正門のとこでスカウトしてましたよね?」

「それは違うスカウト」


先行したスカウト、つまり偵察役の選手たちは1階層をかなり進んだところでダンジョンモンスターやディフェンダーに倒されてオフェンスアウト。それを聞いた残りの中央を進んでいた残りの選手たちもリタイアを申告した。

画面にはダンジョンの進行度が表示されている。アタッカーがアウトになったアンカーポイントは1階層を7割程度進んだところに表示されており、次のオフェンスフェーズは1階層7割の地点から4人でスタートできるという意味である。オフェンスフェーズでは素早く進行していくスカウトの選手たちが画面に映し出されていたが、障害物の少ない山岳エリアで相手を先に発見し、接敵を避けて深くまで進んでいたようだ。相手を倒すだけが作戦ではないということだろう。


『さて攻守交代ですが、いかがでしょうか』

『ホエールズのダンジョンは、最深層を除く全てのテクスチャが海洋テクスチャになっています。通常は相手に多様な特徴をもった選手編成を押し付けるために複数のテクスチャを使うのが一般的ですが、逆に自信のあるテクスチャに絞ることによってホエールズ自身がアタッカーを多く編成することができるというメリットが生まれます』

『つまりホエールズはディフェンスフェーズを固定メンバーで守る分、攻撃特化のアタッカーを多く起用できるようになるわけですね?』

『そのとおりです。ホエールズにはバルザリー選手という絶対的な存在がいます。ずば抜けた実力を持ったバルザリー選手を最大限活かせる守備陣形を敷き、残りの出場選手の枠をアタッカーのバリエーションに割くことで攻撃も底上げしています』

『バルザリー選手は今シーズン、相手選手をリタイアに追い込んだ数がリーグ1位。ホエールズ全体の55%を占めています』

『ダンジョンモンスターよりも相手をリタイアさせてるんですから、ちょっと理不尽ですよね』

『対するフェニックスはいかがでしょう?』

『フェニックスも試合前の時点でホエールズが海洋テクスチャしか使わないことは読めていたでしょうし、対策は考えていると思いますよ』

『さて、フェニックスのオフェンスフェーズですが……これは魔術師4人の編成ですか?』

『そうですね。簡易的なボートを使って、推進力を生むための風魔法1人、防御魔法が2人、残り1人が攻撃要員でしょうか』

『フェニックスは魔術師エースの近藤選手を最初から起用しています。しかし……』

『はい。近藤選手の得意魔法は炎魔法なので、相性が悪いかもしれません』

『フェニックスはその名の通り炎系統が主体のチームです。……おっと?』


実況と解説が話し終わる前に画面の中で動きがあった。

アタッカー4人乗せて進むフェニックスチームのボート。その近くに水の柱が立ち上がる。

拳の形をしたその水の柱は、勢い良くボートに叩きつけられ、ボートを木っ端微塵にした。


『決まりましたね。バルザリー選手です』

『これはちょっと、とんでもないですね……』

『ディフェンダーがどこにいるかもわからないような遠距離での強烈な一撃。フェニックスは早くも1ターン目のオフェンスフェーズが終了です』

『フェニックスは防御魔法使いを2人も配置していたと思いますが、お構いなしでした』


画面には先程の攻防のハイライトが流れている。

解説者が言うように、フェニックスも防御魔法を張っている。しかし大質量の海水は防御魔法ごと、ボートを海の中に叩き込んだ。比較的非力な魔術師は成すすべもなく海へ投げ飛ばされ、当然泳いで進めるような距離でもないのでリタイアを宣告。


「なんか恐ろしいスポーツですね……」

「死にはしないから大丈夫」


詳しいことは分からないけど、そういう魔法がダンジョンの中にかかっているのだろう。

競技ダンジョンに使用されるダンジョンは魔法で作られた人工のダンジョンだ。テクスチャの張り替えなども魔法でパパっと出来るようになっている。

ダンジョンは階層とは言っているけど、弁当箱のような重なった形ではないようだ。似たもので言ったらオードブル?

4枚の正方形のフロアが存在し、それらが間を緩衝地帯に区切られて連続的に繋がっている。階層というよりはゲームのステージみたいなイメージ。


試合はそのまま着実に前進を続ける碓氷ホエールズと、1層の大海で何度も船ごと沈められる三久利フェニックスという、対称的な展開となった。これ、フェニックス側を応援してる人って楽しめるんかなぁ……?


『さて前のターンで最終フロアへとたどり着いた碓氷ホエールズ。このターンで決めきることが出来るでしょうか。フェニックスはまだ2階層へたどり着いたばかりですから、ここで決めると有利になりますね』

『おっしゃるとおりです。とはいえ、三久利フェニックスは不死鳥が未だ健在で、本来は何度も復活する不死鳥と粘り強く戦うチームですから、踏ん張ってほしいところです』

『ホエールズはアタッカーにバルザリー選手を起用します』

『本日はずっとディフェンダーとしての出番でしたが、ここで一気に決めに来ましたね』


破壊されたら終わりのダンジョンコアを背に、伝説の魔獣である不死鳥がホエールズの選手たちに襲いかかる。落ち着いた様子でニコルが手を払うと、吹き飛ばされた不死鳥がダンジョンの壁に激突した。


「えぇ……」

「ダンジョンは奥へ進むと狭くなってるから」

「そういう問題なんですかね」


僕が驚いたのは不死鳥が壁にぶつかったことじゃない。人がモンスターを軽く吹き飛ばしたことだ。

ここまでの試合の中で、不死鳥はフェニックスのディフェンスの要として重要な働きをしていたモンスターだったのだが。


『バルザリー選手、不死鳥を一撃です』

『いや、これは……吹き飛ばした不死鳥を、壁で捕らえていますね』

『あ、本当ですね。不死鳥は倒れていません。水の檻に囚われてもがいています。こうなると不死鳥は復活できませんね』

『珍しい対策方法だと思いますが、非常に効果的です。不死鳥は強さが特徴のモンスターではありませんが、何度倒しても復活してしつこく攻撃してくるモンスターです。ニコル選手は倒さないという逆の発想をしたんですね』

『フェニックスと対戦するチームは不死鳥対策にアタッカーを割り当てて、2人ないしは3人で攻撃を行う戦術が多いと思いますが』

『不死鳥を相手に手加減できる選手って普通いないんで』


ニコルは不死鳥を拘束したままダンジョンコアに向かって進んでいく。


『フェニックスのディフェンダーは残り5人です。リーグ屈指のコアガーディアン、日子(ひのね)選手がダンジョンコアを守ります』

『日子選手は昨シーズンのセーブ率がナンバーワンで、筑吹代表に選ばれた経験もあります。守備の固いフェニックスを象徴する選手ですね』


ダンジョンコアの守りに日子を置いたフェニックスはニコルらのホエールズアタッカー陣を迎え撃つ。混戦の中からダンジョンコアを狙ったニコルの魔法は日子が身体を張って防いだ。

一方、フェニックスの攻撃はニコルに集中するが、ホエールズのアタッカー陣は身を挺してニコルを守る。ニコルが倒れれば不死鳥が解放されるため、両者の狙いはニコルを倒すことvsニコルを守ることとなる。


攻防の中で互いに2人の選手を失った。オフェンス側のホエールズは次のターンになればアタッカーが補充されるので、戦略的にディフェンダーを削ったような動きだった。

だがニコルはそのまま攻め続けている。フェニックスのディフェンダーが減ったことにより、主戦場は次第にダンジョンコアと近い場所に移っていく。コアガーディアンが残っているとはいえチャンスには変わりない。


『日子選手は粘り強く守っていますね』

『手数のある魔術師に対してコアを守るというのは簡単ではないですが……あ!』


解説が終わるよりも先に、日子の巨体がドサリと倒れる。ニコルは不死鳥を解放し、不死鳥の拘束に使用していた水で日子を撃ち抜いたのだ。すぐさま不死鳥がニコルに襲いかかるが、残っていたもう一人のホエールズのアタッカーがコアガーディアン不在となったダンジョンコアを破壊し、攻略完了となる。


『非常に見応えのある攻防でしたが、最後はホエールズの鮮やかな攻撃でしたね』

『そうですね。まずバルザリー選手ですが、最後に拘束していた不死鳥を解き、その手数を攻撃に回して日子選手を倒しました。コアガーディアン目線で言うと、こういう攻撃はとっさにコアを狙ったか自分を狙ったか分かりにくいので対処が難しいです』

『画面にはハイライトが流れていますが、本当ですね。日子選手は防御魔法をダンジョンコアに張っています』

『日子選手もさすがの対応ですが、先程のバルザリー選手の攻撃がブラフになりましたかね。さてハイライトのこのシーン、日子選手が倒れてフェニックスのダンジョンコアはフリーとなりましたね』

『はい。しかし、バルザリー選手に抑え込まれていた不死鳥も同時にフリーになりますよね?』

『おっしゃるとおりですが、フェニックスは既にコマンダーがアウトになっています。指示を出すコマンダーが不在であるため、不死鳥は正確な判断ができませんでした』

『最後はバルザリー選手へ向かって行ったように見えました』

『はい。この場で最も危険なバルザリー選手へ攻撃を仕掛けたフェニックスですが、バルザリー選手は囮だったというわけです』

『最後はホエールズアタッカーの大川選手が決めました。ホエールズは先攻ですので、次はフェニックスのオフェンスフェーズです』


その後、選手交代でアタッカーを投入してきたフェニックスがホエールズの2層で力尽き、試合は終了した。


『ご覧頂いたように、碓氷ホエールズが三久利フェニックスを破りました。解説の森さん、試合の感想はありますか?』

『三久利フェニックスは守備に定評のあるチームですが、フェニックスを持ってしてもホエールズを止めることは出来ませんでした。碓氷ホエールズは開幕5連勝ですか、見事です』

『ホエールズは今シーズンのダークホースと言えるでしょうか?』

『ダークホースどころか、本命かもしれません。優勝争いに絡むシーズンになると思いますよ』

『なるほど。では勝利した碓氷ホエールズのニコル・バルザリー選手のインタビューです』


『ニコル・バルザリー選手、見事な活躍でした。今日の感想をお聞かせください』

『勝ったわ』

『強豪三久利フェニックスとの試合ということで、今日の試合に向けてはどのような準備をしてきましたか?』

『勝とうと思っていたわ』


急に視聴覚室の扉が開き、モニターに写っている選手と全く同じ顔の女生徒が入ってきた。


「遅刻してごめんなさいなのだわ」

「「お姉様!!」」

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