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陰キャが競技ダンジョン部に入ったら?  作者: 久能のの


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17/21

初心者が合宿に参加してみたら? 3

やばい、完全に目が合ってしまった。バレたな。

おそらくチェッカー先輩から方角のアシストが入ったんだろう。そういう感じの動きだった。


そこから魔法を撃たれたらひとたまりもない。オルテガ先輩たちは広範囲魔法も高威力魔法も短い時間で準備して放ってくる。


2人の手がこちらを向いた瞬間、僕は空へ吹き飛んだ。


「う、うわああああああああああああああ」

「うるさいなぁ」


強烈なGを感じて思わず目を瞑ってしまうが、目を少し開くと空が足元に見えた。ヘッケル先輩の声が聞こえる。

直後、轟音がフロアに響き渡った。オルテガ先輩たちが魔法を放ったのだろう。


そのまま僕の身体は放物線を描き、ニジュが防御魔法でキャッチした。

すぐ横にヘッケル先輩が着地する。そう、僕は魔法で飛んだんじゃなくて、ヘッケル先輩に抱えられて後退してきたのだ。


「気をつけなさいって言ったでしょう」

「おぇ……」


ヘッケル先輩に胴を抱えて飛ばれたせいで言葉が発せない。めちゃくちゃ痛え。これオフェンスアウトにならんの?

ていうか空中で投げ捨てられたのも意味わからない。ニジュが防御魔法で勢いを殺してくれたとは言え、魔法を跳ね返せるような壁に若干グシャッと当たって結構痛かった。地面に直撃しないよりはマシとは思うが、たぶん地面に直撃してれば自動リタイアしてたから何も痛くなかったんだろうなと思いつつ、深呼吸をしながら痛みが引くのを待つ。


「遠距離で攻撃できなくなったら、そりゃディフェンダー前に出してくるよね」

「敵を視認できる状況で呑気に待つ道理もなし」


そもそもプルル先輩はスイーパー。味方のディフェンダーの背後をサポートするポジションの選手である。守備範囲が広いから前方へ狙撃をしているが、本来アタッカーに対処するのはディフェンダーの仕事であって、スイーパーの担当ではない。


「八方塞がりだね」

「ヘッケル、諦めるでない」

「と言ってもガレオンさん、スカウトで完敗している状況では攻め手が……」


ヘッケル先輩もニジュもこれ以上は無理だと感じているようだ。まあ僕たちにできることは大概やったと思うし。

この4人のアタッカー編成は、いわゆるバランス編成だ。スカウト、魔術師、タンク、ブレイカーと各ポジションからまんべんなく選手を編成した構成で、様々な状況に対処できる器用さを持ち合わせた編成である一方、そのままディフェンスを突破できるほどの火力はない。スカウトって接近戦になったら戦力にならないことが多いし。

バランス編成は主に1ターン目のように、フロアに初めて足を踏み入れる際に用いられる。アタッカーを長く活動させて、未知のフロアの情報を集める目的がある。


つまり、僕たちが目指すのもフロアの踏破ではないはずなのだ。スカウト力で完敗しており、2人いるブレイカーは役に立たない。残る魔術師とタンク1人ずつでフロアを突破できるわけないんだから。

というところまで分かったのも1つの成果であろう。相手の弱点とかを見つけてリタイアすれば、次のオフェンスフェーズに繋げることもできるんだけど、その点はディフェンス陣に上手く守られてしまったということで。


となると次にアタッカーが考えなければいけないのは、どういう状況でオフェンスアウトになるかということだ。突破は諦めても、それはこのターンだけの話。次のターンにおいて少しでもフロアを踏破する可能性を上げる行動をとらなければいけない。

例えば、なるべく良い位置でリタイアしてアンカーポイントを置くとかがこの場合は当てはまる。


「どうしようか」

「我は諦めておらん」

「脳筋は黙ってて。ニジュとシグリと考えるから」


僕は素直にアンカーポイント作ってリタイアしたいけど。

実はもう1個あるんだよな。良いオフェンスフェーズの終わらせ方って。


「セラテガさんをアウトにする、くらいかしら」

「それしかないか」


セラテガっていうのはオルセラ先輩とオルテガ先輩のことだ。2人を共通因数で括るとセラとテガが残る。双子で見た目もほぼ同じだからね。


オフェンスがディフェンスアウトを取ると、ディフェンダーは以降のディフェンスフェーズから除外される。次ターン以降、ディフェンスが減るわけなので、フロアを踏破できる可能性は当然上がる。アンカーポイントを置くことなんかよりもよっぽど利得が大きい行動だ。


「問題はどうやってディフェンスアウトを取るかだけど」


現在、ディフェンダーの陣形はほとんど判明していない。

強いて言えば、西側サイドにオルセラ先輩オルテガ先輩がいたことくらい。ニジュがディフェンスアウトのターゲットとしてオルセラ先輩たちを挙げたのも、僕が2人と遭遇したためだろう。


「オルセラ先輩たちは西側にいるんでしょうか?」

「いえ、もう移動しているでしょうね。シグリをアウトにするためにリオが一時的に送り込んだだけだと思うわ」


ディフェンダー側としてはチェッカー先輩がもたらす情報によってアタッカーの位置が全て割れている。僕は1人で突出していたわけなので、マヌケなスカウトをアウトにするためにそこそこの戦力を割いたとしても問題ない。ディフェンス網の穴を突くような動きはアタッカー側の誰も見せていなかったからだ。


守備専門のオルセラ先輩たちは、相手の主力を迎え撃つように配置されることが多い。戦力的な話でいうと、単独行動のアタッカーを狩るには過剰である。

つまり2人をおびき出そうとするなら、こちらも主力を出さなければいけない。最低でもガレオン先輩かニジュを送り込む必要がある。


「こちらの戦術を考えましょう」

「ガレオンなら、あの2人の攻撃も防御魔法で相殺できるよ」


ガレオン先輩は秋海棠高校の守護神である。防御魔法は得意中の得意だろう。いくらオルセラ先輩たちが高威力の魔法を連発してくるとは言え、ガレオン先輩の防御魔法がスピードで負けるとは思えない。だってあの人、プルル先輩の狙撃を防御魔法で防いだんだよ? 意味わからない反射神経してるじゃん。


「ただガレオンでもイーブンにするところまでだろうね」

「さすがにディフェンスアウトまでは難しいかしら」

「それもだし、プルルが狙撃してきたら防げないかもしれない」


例えばディフェンス側が攻撃のタイミングを揃えてきた場合、ガレオン先輩はオルセラ先輩たちの魔法とプルル先輩の銃弾を同時に防ぐほどの余裕はない。その攻撃を掻い潜ってオルセラ先輩たちをディフェンスアウトにするのは、更に難しいプレーだ。


「とりあえずアタシも行くわ。ガレオンさんがセラテガさんの攻撃を抑えてくれるなら、その隙に私が2人をアウトにできる」


オルセラ先輩とオルテガ先輩は2人揃って威力を発揮するプレイヤーだ。最悪片方だけでもアウトにしてしまえば、脅威度は半減以下にできる。


「プルルの狙撃は、ボクが囮になろう。ボクがディフェンスブレイクすれば、スイーパーは対応せざるを得なくなる」


ヘッケル先輩はガレオン先輩たちとは別行動でディフェンスブレイクを狙うようだ。ブレイカーがディフェンスラインの裏を狙ってくればスイーパーのプルル先輩が対処しなければならなくなり、前線へ援護射撃を行う余裕がなくなる。


まとめると戦術は以下の通りだ。

ガレオン先輩とニジュは中央を進む。

ヘッケル先輩は別行動でディフェンスラインをブレイクし、スイーパーのプルル先輩のターゲットになる。

ガレオン先輩は迎え撃ってくるであろうオルセラ先輩、オルテガ先輩の高威力魔法を防ぐ。その隙を突いて、ニジュが2人のディフェンスアウトを狙う。


僕は?

うーん、ここからはもうスカウト必要ないし、ヘッケル先輩と別の方向へ進んでアンカーポイントでも作りに行こうかな。


それぞれの方向へ向かう3人を見送り、僕もあとから森に入る。

ガレオン先輩とニジュは中央を進んだ。ヘッケル先輩は西側。なので僕は東側へ向かう。


これまでと大差ない密林が続く。ところどころ燃えているのまで同じ。

ガサガサと音がして、ディフェンダーが飛び出してくる。


「よう、シグリ」

「あ、パドロ。じゃあリタイアで」

「だよな」


パドロに見送られて、控室に戻る。

少し待機していると、まずはヘッケル先輩が戻ってきた。


「上手くいったんですか?」

「いやー、どうだろう。少し早かったかもしれない」


口ぶりから推察するに、プルル先輩の狙撃ターゲットは自分に向けることができたのだろう。ただ中央を進んだ主力組よりも早く帰ってきてしまったことを考えると、もう少しの間プルル先輩の狙いを中央から逸らしておきたかったかもしれない。


直後にニジュが戻ってきた。ニジュ!?

オルセラ先輩たちをアウトにする役割のニジュがタンクのガレオン先輩よりも先に戻ってくるというのは、作戦を考えている段階では想定していなかった。要するに作戦通りにいかなかったということだろう。僕の考えが外れていないことは、ヘッケル先輩の表情からも伺える。


「失敗?」

「失敗ね。ミウアまでいたわ」


まあそりゃあそうだよね。

競技ダンジョンというスポーツは、基本的に攻撃側が不利になっている。だからアタッカーは何ターンもかけてダンジョンの攻略を行う。

それに今回の状況を考えると、地勢がディフェンダー側に味方をする競技ダンジョンという特性以上に、情報戦で負けているディスアドバンテージが大きい。守備の指揮をしているコマンダーからしたら、スカウトのチェッカー先輩が確実にアタッカーの戦力を報告してくれるから、アタッカー以上の戦力を以て迎撃を行うだけでいいのだ。


おそらく僕たちの奇襲に対して、速いヘッケル先輩には守備範囲の広いプルル先輩を、ガレオン先輩には守備側の最大戦力であった3人の魔術師を、残った僕には余ったディフェンダーを向かわせたのだろう。

ディフェンダーを分散している分、どこか突破されていればピンチになっていただろうが、今回はお互いに手の内まで知り尽くした仲間との紅白戦。


それに主攻に対してメインディフェンダーを当て、ブレイカーにスイーパーが対応するというのはセオリー通りの戦術だ。僕はディフェンダーに止められたけど、ディフェンスをブレイクしていればプルル先輩が対応してきたと思う。


さほど時間を置かずにガレオン先輩も戻って来た。

ちょっと秋海棠高校のディフェンス強すぎじゃないですかね……。こっちは超高校級の選手を3人も揃えているんですけど。僕が足引っ張ってるわけではないと信じたい。


 * * * * *


「今日はこんなところかな。各自明日に備えて休むように」

「うぃ〜」


練習場所は使用時間に制限がある。そのため借りている時間いっぱい練習を行い、合宿所へ戻ってミーティングを行うような日程が組まれている。ミーティングを終えると初日の練習は終わりだ。

練習時間は普段の休日と変わらないが、練習の密度が高かったため疲労感がかなりある。ちゃんと毎日疲れを抜いていかないと後半はキツイどころじゃなさそうだ。


練習の汗を流すとすぐに夕飯だ。同じようにミーティングを終えて戻っていた同級生と大浴場から食堂へ直行する。


「初日からハードだったな」

「シグリは大変だったんじゃないか? あの練習オフェンス側のほうがキツイよな」


競技ダンジョンはオフェンス側のほうが不利である。当然だ、アタッカーは4人、ディフェンダーは最大11人。オフェンスフェーズはディフェンダーを1人でも減らせれば御の字と言われることすらある。

今日の練習では何度もディフェンス側とオフェンス側に分かれて実践形式の練習を行ったが、僕はコアガーディアンのガレオン先輩と一緒に、常にオフェンス側へ入れられた。僕とポジションが被っているチェッカー先輩とヘッケル先輩、どちらもディフェンスでは欠かせない選手である。逆に僕は守備で重要なタスクを持っているわけではなく、必然的にアタッカー役を任されることが多くなる。


それに試合ではディフェンダーをアウトにすれば相手は減っていくが、練習では減ってくれない。練習したい局面ごとにディフェンダーの数は増減させているが、こちらが有利な状況になる練習は基本的に存在せず、終盤は不注意によるミスや足の疲労によるアウトが出てしまった。


食堂は朝食を食べた場所と同じで、形式もビュッフェスタイルだ。競技ダンジョン部が全員座っても余るほどの席があるが、どの学年も同級生ごとにまとまっている。

食事を盛り付けてから1年生の席に向かうと、ニジュとミウアが座っていた。風呂上がりの美少女は刺激が強すぎるので速やかに離れた位置の座席を確保する。うわぁ、間に1個席空けたくらいじゃ全然良い匂い届いてくるくんかくんか。

2人はまだ食事を取りに行っていないようだ。


「うぅ……」

「ニジュちゃん、頑張って」

「ミウア、明日は変わりなさいよ……」

「何をしているんですか?」

「あ、シグリくん。これはね、魔力回復薬っていうの」

「くっそ不味いのよこれ。でも飲まないと明日の練習までに魔力戻らないし」


リオも食事を盛り付けて戻ってきた。僕とリオは食事が多くないので盛り付けもすぐだ。逆にパドロとアルタムは僕たちと同時に食堂へ来たが、食べる量が倍くらい違うのでまだビュッフェコーナーを物色している。


「なんだニジュ、まだ初日だぞ」

「アンタねぇ。アタッカーにどれだけ負担が掛かるか分かってないわけ?」

「知ってるさ。俺の作ったテクスチャだ」


僕はブレイカーとしての役割が主なので、他のチームメイトと比べてもアタッカーの練習を積んでいる。普段の練習や練習試合で慣れているテクスチャと比べて、今日経験した大会用のテクスチャは段違いに攻めにくかった。それは仲間の特徴を熟知し、最大限に引き出すラミー先輩の手腕だけではない。今年度になってコマンダーに新戦力として加わったリオの力もあるだろう。


「ちなみにシグリは明日もアタッカーだぞ」

「うっそでしょ……」

「嫌ならチェッカーさんより上手くなりなさいよ」


もうそればっかじゃん。みんな絶対チェッカー先輩より上手くなれないって分かっていってるんだよなぁ。でもディフェンスフェーズにはチェッカー先輩の力が欠かせないし、先輩の力を最大限活かせるテクスチャになっているか確認しなければいけないということは理解している。


「ニジュちゃん、手が止まってるよ」

「わ、分かってるわよ」


普段弱みを見せないニジュには珍しく、手を震わせながらチビチビと飲んでいる。


「そんなに変な味なんですかそれ」

「やばいからご飯の前に飲んでるのよ。食べたもん全部吐くわ」

「俺も飲んだことがあるが、そこまででもなかったな。薄めた水糊みたいな味がしたぞ」

「魔力総量が多いほど美味しくなく感じるのよ」


薄めた水糊飲んでケロッとしてるほうも大概おかしいのでは?

リオも簡単な魔法くらいなら使える。通信魔法くらいであれば実用できるレベルだ。

ちなみに僕は全く魔力がなくて魔法は使えない。僕が飲んだらどんな味がするんだろうな。


お盆にご飯を山盛り乗せたパドロとアルタムが戻ってきた。全員が揃うまでご飯に手を付けずに待っていた僕の進歩よ。

正確に言えばニジュとミウアはこれから食事を取りに行くのだが、リオが食べ始めたので僕も食事を始める。ああ、今のところ合宿で楽しいのはこの美味いご飯だけかも。


「全員、この後1年生だけでミーティングするぞ。問題ないか?」

「朝言ってたやつな。問題ないで」


合宿所にはグループミーティングでも使用したようなミーティングルームがいくつか存在する。部屋の扉には未使用・使用中の札が掛けられており、未使用の部屋であれば自由に使用してよい。


魔法回復薬を飲み終わってやっと夕食を始めたニジュとミウアを残し、僕たちは個室へ戻った。1年生男子4人は同じ部屋だし、女子2人も魔術師の4人部屋で同部屋のようだ。


「ニジュさん、いつもあの薬飲んでるの?」


残してきた魔術班の同級生について気になったことがあったので、部屋に戻ってパドロに聞いてみた。


「いや、そんなことはないよ」

「じゃあ今日だけ?」

「練習でいつもより魔法使ったんだと思うぜ。シグリもアタッカー側だったから分かるだろ」


そう言えば先程、パドロが今日の練習について、アタッカー側のほうがキツイと言っていた。僕はディフェンダー側を経験したことがないから知らないけど、アタッカー役を務めた選手は僕も含めて、練習の終盤には疲れが見えていたような気がする。いや、終始元気だったガレオン先輩を除いて、か。

今日何度か僕と一緒にアタッカーを担当したニジュにはかなりの負担が掛かっていたと思う。魔術師の選手はディフェンダーと模擬戦になる機会も多いし、僕が全然スカウトできない対策のために広範囲魔法とか使ってもらったりもしたから。

え、てことは僕がもっとしっかりしていればニジュさんまっずい薬飲まなくて済んだのかな……。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「女子もーちょい時間かかるよな。コンビニ行かん?」

「俺は行かない」

「オレはついて行ってもいいぞ。シグリはどうする?」

「い、行こうかな……」

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