表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャが競技ダンジョン部に入ったら?  作者: 久能のの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

初心者が合宿に参加してみたら? 2

誤字報告ありがとうございます

この場を借りてお礼申し上げます

さあ、練習の開始だ。

僕にとって、初めての部活の合宿。普段行っている放課後練習とは違って一日中競技ダンジョンのことだけを考える日々。僕、一般入試で高校入ったんだよなぁ。あまり考えずに高校選んだので、2ヶ月後にこんな生活してるとは全く思ってもいなかった。


オフェンスフェーズ用の扉を潜ると、そこはジャングルだった。変な言い方だけど、ぶっちゃけ見慣れた景色でもある。秋海棠高校は密林テクスチャが得意だから練習でもよく使う。

アタッカーの4人で列になり、屈みながら進む。先頭を進むのは僕だ。


「倒木が多いわね」

「これ、守る側からも遮蔽にならないですかね。チェッカー先輩見えてるのかな」


と、僕が言い終わった瞬間。いくつかのことが同時に起こった。


「おっと」と言いながらガレオン先輩が僕の胸辺りに防御魔法を展開した。

キィィィィインと高い音がする。練習で何度も聞いているから分かる。これは防御魔法が金属を弾いた音だ。

少しだけ遅れてダンジョンの奥の方からズガーンと音がする。大口径砲の発射音だ。プルル先輩が銃弾を発射した際の音だろう。銃弾は音よりも速く進む。


「な、何事なの?」

「プルルだよ。ここ、チェッカーから見えてる」

「嘘でしょ……」


ニジュが驚くのも無理はない。だって僕たちは2階層に入ってから大して進んでいない。後ろを振り向けば、まだスタート地点が見えている。

見通しの良いテクスチャならまだしも、信じられない距離と精度の狙撃だ。1階層と比べれば狭いとはいえ、2階層もそれなりに広さはある。ホエールズとかは2階層にクジラを配置して戦ってるんだから。


チェッカー先輩とプルル先輩は幼馴染で、連携はバッチリだ。プルル先輩は自分が見えていないターゲットに対しても、チェッカー先輩のサポートを受けて正確な射撃を行うことができる。

この密林テクスチャは最初から無風だった。風の影響を受けない環境であれば、プルル先輩が補正などを行う必要もなく銃弾は直線で飛ぶ。2階層程度の広さであれば、2年生コンビにとってはほとんどが射程範囲内となってしまうのだ。


というかその前に、ガレオン先輩、この視界の悪いジャングルの中で音速の弾丸に防御魔法を合わせたよな? そっちのほうがどういうこと?


「どうやって進むんですか、これ」

「チェッカーさんから見えるってことは、シグリからも見えるってことじゃないのかしら?」

「無茶言わないでくださいよ」


向こうは100メートル先に落ちたコインの表裏を当てるようなバケモンだぞ。ジャングルで視界がほとんど塞がれていたとしても、僕らが踏みしめた草木の動きや服に引っかかった枝の動きを見て、チェッカー先輩はアタッカーの位置を割り出せる。チェッカー先輩は動かないからこっちから向こうの位置はわからない。いや、動いてたとしても絶対わかんないけど。実際、射撃で後方へ吹っ飛んだであろうプルル先輩の位置もわかってない。


「あ、でもプルル先輩の距離は分かるかもですね」

「どこよ?」

「えーと、銃弾が届いてから射撃音が聞こえるまで、何秒でした?」

「知らないわよそんなの」


じゃあ分かんないか。

雷がピカッと光ってからゴロゴロなるまでの秒数を測ると、音が空気中を進む速度を用いて雷の発生した位置までの距離が測れる。同じように射撃音を使って距離を計算しようと思ったんだけど。

そもそも100メートルとかなら0.3秒くらいしかないので、コンマ何秒を体感で測るには誤差が大きすぎる。


まあでも、プルル先輩はスイーパーだから基本的に他のディフェンダーよりも奥にいるだろう。チェッカー先輩の視野なら接敵しそうになるまでスイーパーを前に出しておくこともできるが、リスクは付きまとう。スイーパーって本来はディフェンダーが抜かれたときの保険的なポジションだから、そこまでアグレッシブに前進させる必要はないのだ。


さて、僕たちはディフェンダーから一方的に視認されている上に、長距離スナイパーの射程範囲内に入ってしまっている。この状況で僕たちはダンジョンを進まなければいけないのだが、どうすればいいのだろうか。


「射撃は我がなんとかする」

「そうだね。とりあえずプルルはガレオンに任せよう」


てことはガレオン先輩はいつ撃たれるかもわからない音速以上の攻撃を、確実に防ぐことができるということか。本当に人間なんですかねこのゴリラ。


「で、でもこのままだと、僕スカウト行けないですよ……?」

「確かに」


隠密タイプの僕は、偵察のためには相手に近づく必要がある。チェッカー先輩と違って目がいいわけじゃないから。

チェッカー先輩は既に視野内に収めている僕を逃してくれない。僕が他3人を置いて先行した場合、間違いなくプルル先輩の銃弾が僕をオフェンスアウトにするだろう。ガレオン先輩のそばを離れてしまえば防御魔法で守ってもらうことはできないし。


一方で、スカウトを全くせずに攻撃するというのもありえない。

魔法による攻撃は威力を込めた分ラグが生じるため、近接戦闘においては武闘派アタッカーに分がある。要は一発当たりのダメージは魔法の方が高いけど、時間当たりのダメージは物理的に殴った方が高くなるってこと。ディフェンダーに魔術師だけでなく近接戦闘員を配置する理由はこれである。

しかし相手に待ち伏せされた場合、接敵した瞬間に威力が込められた魔法がいきなり飛んでくる。向こうから一方的に視認されているのだから、僕たちが正面から出てくるのに合わせて魔法をドカンだ。


ガレオン先輩、ヘッケル先輩という秋海棠高校が誇る対人戦闘のスペシャリスト2人を擁するとはいえ、アタッカーがディフェンダーの守備網に無策で突っ込んだらかなり厳しい。

それに地形も向こうが作ったものなので、アタッカーにとって不利な位置にディフェンダーは配置されているに決まっている。


「チェッカーを封じ込める必要がある、か」

「だね。どうしようか」


チェッカー先輩は密林の中で不可解な動きをしたオブジェクトを見逃さない。無風の密林テクスチャにおいて何かが動くとき、そこには必ずプレイヤーがいる。

逆に言えば、先輩は草木の動きを判断材料にしているので、例えばアタッカーに風魔法を得意とするミウアがいれば、エリア全体に風を吹かせることでアタッカーの動きを紛れさせることができる。それでもチェッカー先輩は見破ってくると思うけど、視認範囲や精度は下がるはずだ。


「ニジュ、できる?」

「風魔法得意じゃないので……。あっちこっち火つけるくらいなら」

「放火魔だ」

「は?」

「なんでもないです……」


森に火を放てば草木が燃えて延焼するので、魔法を継続して使い続ける必要がなくて効率が良い。森林だけじゃなくて建築物も素材によっては炎魔法が有効だったりするため、炎はオフェンスフェーズで最も重宝される系統の魔法だ。

密林に火が広がれば燃えた葉や枝が落ちたりするので、僕たちの動きに起因するオブジェクトの動きは目立たなくなる。さらに生じる炎や煙は視界を奪うだろうし、めちゃくちゃ燃えれば熱によって空気が温められることで空気が歪んだり、空気の循環が起こる。さすがにそこまで強く燃え広がる前にディフェンダーが邪魔してくるとは思うけど。


「よし、ニジュに任せよう。いいよね」

「異論なし」

「了解よ」


ニジュは後ろを向いて炎の弾を生成してから、フロアの奥へ向かって一斉に放った。後ろを向いたのは炎の弾を自分の身体で隠すためだろう。チェッカー先輩に見られていたら対処されてしまうから。

放たれた炎の弾は広範囲に広がって着弾した。炎が草木に燃え移ったかはここからではわからない。

ニジュはそのまま休まずに炎弾を飛ばし続ける。さすがにこれだけ魔法を放てば、いくつかは森に燃え移っただろう。


「奥の方消えてるね」


木に登ってフロアの奥を探っていたヘッケル先輩からの知らせが届く。本当はこういうのも僕の仕事なんだけど、ヘッケル先輩は身軽で木に登るのが得意なので代わってもらった。


「奥の方に放った魔法、途中で消えてて届いてない」

「早いわね。ミウアかしら」

「防御魔法とかですか?」

「いや、アタシの炎弾は防御魔法だと跳ね返って森の中で爆発する。空中で消えてるってことは、そこで鎮火されているってこと」

「そろそろ危ないから降りるね」


ヘッケル先輩が空から降ってきた。プルル先輩からの狙撃を気にしたのだろう。

身長の何倍もの高さから飛び降りても平気っぽい。身軽にも程がある。


「手前の方にある木はところどころ燃えてたよ」

「森まで鎮火される前に、さっさとスカウト行きなさい」


ミウアがニジュの魔法をどういう方法で対処しているのか気になるが、僕が考えても仕方ない。魔法に造詣が深いわけではないので、どうせ分からないだろう。

ヘッケル先輩の報告ではいくつか火の手が上がっているようだし、わずかでもチェッカー先輩の視界は奪えたと考えて特攻する。


ミウアに対処されていることが判明しても、ニジュは魔法を撃ち続ける。これは魔法を放つ目的が攻撃のためではなく、相手の視界を奪うことだからである。


先程までとは打って変わって、地表にも風が吹いている。ミウアは風系統の魔法の使い手だ。ニジュの魔法に対しても得意な風魔法を駆使して対処していると思われる。

ヘッケル先輩の報告通り、フロアのところどころで火の手が上がっているようだ。攻撃から防御まで幅広い応用範囲を持つ風系統の魔法であっても、ニジュの炎魔法に全対処することは難しい。ニジュはばら撒くような意識で魔法を使用していたし、おそらく僕がいる辺りだけでなく広い範囲で効果が出ているはず。


地表があまり鎮火されていないということは、ミウアは迎撃で精一杯ということだろうか。奥の方へ飛んだ炎弾は消えているということだったので、陣地がある辺りの密林を最優先で守っているのだろう。


火が燃え続けるにはいくつかの条件がある。例えば酸素と燃える物質が必要とか、温度を維持する必要があるとか。小学校の課外学習でやったけど、古典的な方法で火を付け続けるのって結構難しいんだよね。

なので例えば炎弾は周囲の酸素を除去すれば鎮火できる。1回火が消えてしまえば温度は下がるし可燃性のガスも消えるので再度出火することはないだろう。そもそも空気中の成分を繊細に操作できるのか知らないけど。


つまりミウアも燃えるのに必要な何かを維持できなくなるような方法で炎弾を無力化していると思われる。直感的に考えられそうなのは温度を下げる方法かな? 風系統の魔法が得意なミウアなら、強めの風を炎弾に当ててあげるだけで良い。ロウソクの火を息吹きかけて消すのと一緒。


しかし既に燃えている炎弾が消えるほど温度を低下させるためには、かなり強い風を吹き付ける必要がある。フロアに突風が吹き荒れている様子もないので炎弾の周りなど局所的な部分のみで魔法が発動されているのだとは思うが、先程まで無風だった地表には風が吹き始めている。強い風ではないが、木々は揺れているし、地面の土や葉は巻き上げられている。僕たちアタッカー側の狙い通りである。

風で枝や葉が動けば僕は密林に紛れやすくなる。さらに火が消えずに燃え続けているところもあるので、充満した煙はチェッカー先輩の視界を制限するはずだ。


ズガーンと発砲音が響き渡る。

こちらには飛んできていないようなので、おそらくニジュの方を狙った射撃だろう。

ヘッケル先輩から通信が入る。


『シグリ、大丈夫?』

「いえ、こちらは射撃されてません。そっちじゃないんですか?」

『こっちに撃つわけないから』

『風で逸れてるだけよ。シグリ、気をつけなさい』


ウッソでしょ。まだチェッカー先輩に見られてるの?


しかし僕に向かって撃たれたらしい銃弾が付近に着弾した音はしなかった。どこへ飛んだんだろうか。

プルル先輩が明後日の方向へ撃つとは思えない。間違いなくフロアに吹く風の影響を受けたのだろう。


さて、ここからの行動指針についてだが、前提として僕はいかなる状況であってもチェッカー先輩を一方的に視認することができない。僕がチェッカー先輩を発見できる状況であれば先輩は僕を100%発見できるからだ。

スカウトが対峙するスカウトを一方的に視認できない時点で、情報戦において相手を上回ることは不可能である。したがって僕にできる最大限は、情報戦でイーブンに持ち込むことまでである。

情報戦でイーブンとなる状況は、この場合において1つしかない。チェッカー先輩にアタッカーの居場所が全てバレているんだから、僕がディフェンダーの位置を全て明らかにすることだけ。


本来スカウトが相手に居場所を掴まれた状態で行動すると、最優先でディフェンダーにアウトを狙われる。プルル先輩が2度僕に狙撃してきたのがその証拠だ。

しかしフロアに風が吹き荒れる今、狙撃が当たらないのであればどうとでもない。チェッカー先輩にバレた状態でもディフェンダーの居場所を突き止めることはできるはずだ。


チェッカー先輩以外の選手に対してであれば、僕は密林に紛れて見つかりにくく立ち回ることができる。

見つからないようにディフェンダーを偵察し、見つけたらアタッカー3人に報告すればいいだけなので、プルル先輩の狙撃が無効化されている今ならスカウトもできるだろう。

問題なのはニジュの炎弾が止むとプルル先輩の射撃精度が戻ってしまうということだ。まあ基本北から撃たれていると思うので、木の陰などに隠れれば大丈夫だとは思うけど。


「三の列はディフェンダー配置されていないようです」

『おけー。こっちも少し前進する』


ヘッケル先輩たちに偵察結果を伝えながら、フロアを横方向に走査する。

僕が三の列をクリアリングしたため、先輩たちも前進するようだ。


『気を付けなさいよ。さっきからプルル先輩の射撃が止んでいるわ』


射撃が止んでいるんだから、逆に気をつける必要がなくなったのでは?

僕は四の列の走査を始める。2階層のフロアは7✕7なので、ちょうど中間地点である。そろそろディフェンダーに出くわすかもしれないので、慎重に行きたい。


ガサガサという音がして、僕はディフェンダーを発見する。こちらはディフェンダーからは発見されていないので、現時点では一方的に視認している状況。とりあえずヘッケル先輩たちに通信で伝える。


「ディフェンダー2人発見しました。魔術師2です」

『てことはオルセラ、オルテガ姉妹か』

「はい。場所は四の二」


オルセラ・クロマイドとオルテガ・クロマイドは2年生の先輩で、ポジションは魔術師。ほぼディフェンダー専門の選手である。この人たちが単体ではそんなに強くないから、オフェンスのときに1年生の魔術師が起用されているんだよな。

ヘッケル先輩も魔術師2人といっただけで察せたように、双子のオルテガ・オルセラ先輩たちは必ずセットで運用される。今ディフェンスについている魔術師はニコル先輩とニジュを除いた3人。ミウアが含まれる場合は1人か3人になるので、消去法で双子姉妹だって分かったんだろうな。


アタッカーとしての評価は1年生に遅れをとっているが、ディフェンスにおいて双子姉妹は抜群の連携を見せる。特に術式分割という、威力が大きい魔法の発動時間を2人で分割し、高火力の魔法を短い時間で発動させるという超希少なスキルを持っている。威力の高い魔法を高速で連発できるため、ディフェンスにおいては特に重要なポジションに配置されることが多い。

そんな先輩たちが四列という中間地点に配置されている。妙だな。


僕がその違和感に気がつくのと同時、双子の顔がぐるっとこちらを向く。

やばい、完全に目が合ってしまった。バレたな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ