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陰キャが競技ダンジョン部に入ったら?  作者: 久能のの


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14/21

陰キャが友達と遊んでみたら? 2

「ここどこよ」

「僕の家です」

「アンタ、良く行く場所に案内するって言って自宅連れてくるとか、マジでありえないわよ?」

「本当に終わってるぞお前」

「そ、そんなに?」

「電車乗ってそのまま寮帰ればよかったわ」


というわけで僕は3人を連れて家に帰ってきたのである。よく行く場所連れてけって言ったじゃん……。

ここが僕が愛してやまない安住の地、自宅です。

古湊に面白いところなんて無いんだよ。ただの変哲もないベッドタウンなんだから。だから数少ない娯楽施設であるカラオケが満員になってしまうのである。


「まあせっかく来ちゃったし少し休んでいくか」

「そうね」


文句を言われつつ、僕は3人を家に招く。ちなみにミウアは全く文句言ってない。包容力の塊だね。

玄関でガタガタしていると物音に気がついた母親が飛び出してきた。


「シグリ、何事?」

「あ、母さん。同級生連れてきたんだけど」

「は? なんで先に言わないのよ」

「え、知らない。なんで先に言うの?」

「言ってくれたら準備できるでしょうが」


僕は友達を家に連れてくるのが初めてなのである。そんな気が回るわけ無いでしょ。


「急にお邪魔して申し訳ありません。友人のリオ・エリスルラです。シグリくんには競技ダンジョン部でお世話になっています」

「同じくニジュ・ペルヴィカです」

「ミウア・パサンモピラです。ご迷惑おかけしてすみません」

「あ、シグリの母です。ごめんなさいね、狭いですけどゆっくりしていってください。シグリ、あんたにも友達いたのね」

「母親にもその認識されてるのか……」


通知表にも『いつも1人で遊んでいます』と書かれたことがあるからな。『気がつくとどこか行っています』とも書かれたことある。


僕の家は普通の一軒家である。僕の部屋は2階なので、3人を2階へ案内する。

部屋に入ると、今日着ていく服を悩んで試行錯誤した残骸がそのまま僕を出迎えた。結局部活ジャージで行こうと決めたのは昨日の夜なのだが、夜ふかししたせいで今日の朝起きられなくて、集合時間ギリギリに家を飛び出したのだった。


「部屋ぐちゃぐちゃじゃねえかよ」

「きょ、今日だけだから。着る服なくて」

「アンタ着る服なくて部活のウインドブレーカー着てたわけ? 服ならこんなにいっぱいあるじゃない」

「母さんが買ってきたやつだからダサいんですよ」

「あぁ……」


ちらっとドラゴンTシャツが目に入ったのだろう。

服のダサさに納得されても買ってきたのは母だから僕はノーダメージである。そもそも僕の印象はこれ以上悪くなりようもないだろうけど。

服をちゃかちゃかタンスに放り込んでスペースを空ける。ミウアは服を畳むのを手伝ってくれたけど、リオとニジュは勝手に部屋を物色している。


「漫画たくさんあるのねぇ。オタクみたい」


オタクみたいは言っちゃいけないやつだろ。本当に重度な人にそれ言ったら一生のトラウマになるぞ。


「ダンジョンの王様じゃないか。シグリ読んでたのか」

「うん、部活始めてから気になって」


漫画『ダンジョンの王様』は競技ダンジョンをテーマにした漫画で、有名な漫画雑誌で連載されている。僕も競技ダンジョンを始めてからこの漫画のことを知り、気になって既刊をまとめ買いして読んでみた。


「有名な漫画なの?」

「ああ、とても面白いぞ。競技ダンジョンの漫画なんだが、スポ根ではなく頭脳ゲームの側面を深く扱っていてスリルやどんでん返しが楽しめる。物語は中学生から始まっているが、高校、プロと進んでいくにつれて強敵が」

「もういいもういい。それで、主人公のポジションどこなの」

「コマンダーだ」

「あぁ、なるほど」

「何だその目は。俺は主人公と同じポジションだからハマってるわけじゃないぞ。競技者目線でも共感できるシーンが多いし、誰でも面白いと思うはずだ。なあシグリ」

「う、うん。僕は初心者ですけど、序盤のほうで馴染みある話もありましたよ」


試合で失敗して先輩に迷惑かけてしまう話とか、まんま練習試合の僕じゃんって思った。それで普段ポジティブな主人公が凹んでいて、マネージャーやってる幼馴染ヒロインが慰めてくれるところは「はいはいファンタジー乙」って思ったけど。うちの先輩なんか雑魚は反省してねえで練習しろ(意訳)って言ってたからな。


「ふーん、シグリはどこまで読み終わったの?」

「出てるところまでは読み終わりましたよ」

「じゃあ貸してもらっていい?」

「あ、大丈夫です。帰りに紙袋かなんか用意しますね」

「シグリくん、私もニジュちゃんと同じ部屋だし読ませてもらっていい?」

「どうぞどうぞ」

「俺のオススメのシーンは高校編の」

「ネタバレしたら殺すわよ」


漫画を貸すってなんか友達っぽいな。

世の中の陽キャはみんなこんな感じなのかな。いや、陽キャまで行かなくとも、友達いない陰キャじゃなきゃこのくらいやってるか。


広がっていた服をしまって、折りたたみのテーブルを出す。母親がお茶とお菓子を持ってきてくれた。

母親はスポーツ選手であるみんなのことを気にしていたみたいだが、ここにいるメンバーはフィジカルにそこまで気を使うポジションではないのでスナック菓子でも何でも大丈夫。なんなら僕が一番カロリー気にしているまである。


「シグリ、なんか遊ぶものないのか」

「えぇ……漫画くらいかな」

「ゲームは? テレビにゲーム機繋がってるじゃない」

「ソロプレイ用のゲームしかないんですよね」


なんせ友達と遊ぶのでさえ初めてだ。レースゲームや格闘ゲームのような対戦ゲームはCPUと戦うしかなかった僕が、パーティゲームのような複数人向けのゲームをやっているはずがない。そもそもコントローラーが1個しかないや。


このメンバーで、漫画やゲーム以外で楽しめるものと言うと、僕には1つしか思い当たるものがなかった。


「今日ってニコル先輩の試合の日でしたよね?」

「そうね。でも地上波で観られるのは深夜かしら」

「あの、僕、試合の配信サービス入ってます」

「マジか!? じゃあ今やってる試合観れるのか!?」

「ライブ観れます」


世の中にはテレビを買ってアンテナと繋ぐと勝手に電波拾って見れるようになる公共放送だけじゃなくて、特別なアンテナやインターネットを介して見れる有料の配信がある。僕は競技ダンジョンの勉強をするために、競技ダンジョンの専用チャンネルに加入した。少し値段は高いが、その分地上波でやらない試合も全て見ることが出来るようになるし、1ヶ月くらいは全ての試合を見逃し配信で観戦できる。なんなら注目度の高かった試合は1ヶ月を越えても見ることが出来る。


「観たいわ!」

「じゃあ、そうしましょう」

「マジか。やっぱシグリんち来てよかったな」


僕はテレビを付けてリモコンを操作する。試合は既に開始しているが、最初から全部見たければ見逃し配信を見れば良い。


「シグリくん、なにか書くもの貸してもらってもいい?」

「あ、そのペンとルーズリーフいいですよ」


ミウアは観戦ノートのようなものを書くのだろう。試合で得た学びを忘れないようにしておくのは大切なことだ。


初めて家に友達を呼んだ日。

競技ダンジョンの試合を観て、試合の感想を言い合いながら時間は過ぎていった。

3人とも超高校級のプレイヤーだけあって、初心者の僕とは全然違うところを観ている。有料配信に加入してから試合をいくつか観てみたが、これほど勉強になった試合もない。


友達がいる人って、子供の頃からこんなに楽しい時間を過ごしていたんだな。友達を作らない学校生活を自分で選んできたつもりだったけど、今までもったいなかったなと思ってしまった。


 * * * * *


シグリの家に行った帰り道。リオは同じくシグリの家を訪れていたニジュとミウアと並んで電車に揺られていた。


ニコル先輩の所属する碓氷ホエールズは、シーズン第9節でメジャーリーグ最強の筑吹ジャイアンツと対戦した。3人の脳裏を埋めているのは、観戦したばかりのその試合についてだろう。


「凄い試合だったわね」

「ああ、壮絶な試合だったな」


メジャーリーグの歴史で最も勝率が高く、最多のリーグ優勝回数、タイトル数を誇る王者筑吹ジャイアンツ。メジャーリーグがある筑吹王国の王都に本拠地を置くクラブだ。対する碓氷ホエールズは秋海棠高校のニコル先輩が所属する、海上での戦いで最強を誇るチーム。快進撃を重ねる今シーズンは暫定首位に立っている。


「先輩、負けちゃったわ」

「今シーズン2敗目か。まだ首位だが、ジャイアンツと差が詰まってしまったな」


12ターンに及ぶ激闘の中で、20つのオフェンスアウトと3つのディフェンスアウトを獲得するなど獅子奮迅の活躍を見せたニコル・バルザリー。しかし代表選手などの強力なスカッドを並べる筑吹ジャイアンツの前に一歩及ばず、悔しい結果となってしまった。


「競技ダンジョンに、1人で勝てる選手は絶対にいない」

「そうね。言っちゃ悪いけど、ホエールズの味方は……」

「ああ。ニコル先輩がディフェンスアウトになった後、完全に士気が落ちていたもんな。あれは良くない」


ホエールズの守備の要であるニコル先輩は、当然相手のアタッカーの標的となる。それはこれまでの試合でも同じことで、いつもなんとかしてくれるという信頼感があった。

しかし今日の試合ではジャイアンツに完全に出し抜かれて包囲され、ディフェンスアウトになってしまった。激しい戦闘音と水飛沫が収まった後、そこにエースの姿がなかったことにホエールズの選手たちは目に見えて動揺していた。高校生ながらチームを背負うニコル・バルザリーの初めてのディフェンスアウトは、特別指定登録選手に対してリーグ王者が敷いた特別シフトにしても、そのアウトが試合に与えた影響にしても、高校生離れしすぎていて彼女を語る上でも欠かせないエピソードの1つとなるだろう。


「でも私たちも同じでしょ。夏の大会……」

「俺たちは諦めたりしない。ニコル先輩に頼らずに、絶対に全国へ行く」

「そうね」


弱気になった瞬間に、ダンジョンは敵になる。魔法によって人工的に作られたテクスチャではあるが、過酷な環境には変わりない。

ダンジョンは進む者を助けてはくれない。選手たちは自らの足で、常に道を切り開いていかなければならない。それが競技ダンジョンというスポーツである。


そして、秋海棠高校競技ダンジョン部は死にものぐるいで前に進むしかない状況にある。


「話は変わるが、シグリ、あいつ本気で部活やってるんだな」

「そう?」

「ああ。視聴パス買ってたのもそうだが、見逃し配信ほとんど視聴済みだったぞ」

「ウソでしょ? 何試合あると思ってるの」


リーグ戦はメジャーリーグが1週間に1節か2節開催される。20チームの総当たり戦なので1節は10試合。

競技ダンジョンの専用チャンネルにはメジャーリーグだけでなく、筑吹2部リーグやヨシュアリーグ、その他のいくつかの国や地域のプロリーグの試合も含まれる。

試合は短くても1試合1時間は掛かる。競技ダンジョンには時間制限が存在しないため、余裕で2時間とか3時間掛かることもある。


「いつ観てるのかしら」

「さあ。ミウア同じクラスだよな。学校の授業とか大丈夫なのか?」

「うーん。クラスだと影薄くて……」

「まあ悪く目立っていないならいいんじゃないか」


しかし競技ダンジョンを始めたばかりの初心者が、高校生にとっては間違いなく高額である視聴パスを購入することも、勉強のために何試合もぶっ続けで観戦し続けることも、覚悟のない選手にとってはあり得ないことである。シグリがそれだけ競技ダンジョンに真剣に向き合おうとしていることは間違いない。


「シグリにも言ったほうがいいんじゃないか?」

「言ったほうがいいって?」

「高校総体のことだ」


夏の大会、高校総体。

競技ダンジョンに本気で向き合う仲間なのであるならば、競技ダンジョン部が秋海棠高校で置かれている状況を知らぬまま、大会に挑むわけにはいかない。


全国大会への切符は険しい道のりの先にある。チームが一枚岩にならぬまま、たどり着ける場所では決してない。


「仲間だろ。もう」

「そうね」


何もできないまま、何もできないなりに走り回っていた練習試合。

シグリは練習試合での悔しい結果を受けて、出来ることをやろうとしている。

同じように競技ダンジョンに青春全てを捧げてきたリオたちにとっても、シグリの頑張りには目を見張るものがある。


高校総体のシグリは、きっと何もできない選手ではないだろう。


「もうすぐ合宿だな」

「ええ。合宿が終わったら、すぐに大会ね」


ローカル線の閑散とした列車。街から寂れた漁村方面へ走る列車にリオたち3人以外の乗客はない。

春が終わり、夏の足音が聞こえ始めていた。

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