陰キャが友達と遊んでみたら? 1
明日は休日なのだが、休養日ということで部活の練習が休みである。
ここ最近は夏に向けて練習もハードになってきたし、身体に疲れが溜まっているのを感じる。ということで僕は家でゴロゴロしようかなと思っていたのだが、何故か1年男子4人で街へ行くことになってしまった。マジでなんで?
街と言っているのは僕たちが暮らす古湊市のターミナル駅付近の栄えたエリアだ。学校がある寂れた漁村エリアと比べると、大都会ってわけじゃないけど駅を中心にショッピングモールのような施設もあって、例えばカラオケのような学生が遊ぶ場所もある。ちなみに僕は電車通学で、家もどちらかというと街の中心部寄りである。
学校の敷地内で寮と学び舎を往復している越境入学勢にとって、オフはちょっと街に出て遊びたいって気分になるらしい。まあ高校生だしね。実家勢の僕は別に街なんか部活後でも少し足を伸ばせば行けるし、特に用事があるってわけではないんだが、パドロに誘われて断ることができなかった。適当に後ろついていこう。
と言うかそれ以前に、僕は同級生と一緒に遊ぶのが初めてだ。土日まで一緒にいるような友達はいなかったから。
他の3人はどんな服を着てくるんだろう。僕はママが適当に買ってきたドラゴンのTシャツとチェックのシャツくらいしかない。小学生でも今どき着ないぞこんなの。
30分ほど悩んだ挙句、部活のウインドブレーカーで行くことにした。入部してから配られた部のウインドブレーカーは、白地の生地で背中に『秋海棠高校』『競技ダンジョン部』と文字が入っている。この辺りなら有名な学校だし、ドラゴンTシャツ着るよりはマシだろうと判断。
* * * * *
僕が普段通学に使っている電車を反対方向へ乗ると街の中心部へ着く。
真っ白のウインドブレーカーは流石にちょっと周囲から浮いている感じがした。だって秋海棠高校って電車で逆方向だもんな。学校行くわけじゃないのになんでこいつ高校のウインドブレーカー着てんだ?って思われてそう。これなら学生服の方が良かったかもしれないと思いつつ、集合場所である駅前の広場で待つ。
それほど待たずに駅から出てくる3人の姿が見えた。みんな寮生活をしているし、当然3人とも一緒に来たのだろう。パドロが片手を上げながら近づいてくる。
「おまたせ。シグリなんでジャージなんだよ」
「い、いや、まともな服なくて」
「マジ? 今日買い行く?」
「お金ないから」
みんなは普通に私服で来ていた。当たり前だよなぁ。
「で、シグリが案内してくれるんだよな?」
「どこを?」
「さあ。この辺の高校生ってどこ行くの?」
「人と遊んだことないからわかんない」
「ウッソだろ……」
早くも行く場所がなくなってしまった僕たちだが、駅前で立ち止まっていても仕方がないので適当に歩き始める。フォワード3人金魚のフン1人のフォーメーションだ。うんこは僕。
「なあシグリ、この辺かわいい子おるん?」
「え、わかんない」
「やけど高校とかはあるんよな? せっかくやし他校の女子ナンパし行こうや」
「ぼ、僕には無理だよ。他のことしようよ」
「なんでや、せっかくの休みやぞ。パドロもナンパ行こうや」
「えー、まあそれでもいいけど。リオどうする?」
「俺は行かない。本屋行きたい」
「あ、僕本屋の場所なら分かる」
本屋はたまに行くことがあるので場所は分かる。漫画を買ったりとか参考書を見に行ったりとかのときは、品揃えの良い駅前の本屋まで探しに来ているから。
「4人やと4人組の女の子見つけんとあかんし、2、2に別れてもええで」
「そこまでしてナンパしに行きたいのか」
「当たり前やろ」
「当たり前ではないんだが。パドロもそっち行くのか?」
「うーん、まあ本屋用事ないし、アルタムが心配だからついて行こうかな。シグリは?」
「僕がナンパ行ったら邪魔でしょ」
「そんなこと……あるな」
アルタムもパドロもスポーツマンなのである程度はモテると思うけど、その後ろから陰キャの僕が出てきたら「この余ったのどうする?」ってなりそう。お荷物ですみません。
「ま、そっちもそっちでナンパしたらええやん。可愛い子捕まえたチームの勝ちな」
「やらねえよ」
ということで僕はリオと本屋へ行くことに。合流して5分で解散とか素晴らしい団結力だね。
パドロたちは駅の中に入っていったので、おそらく駅の反対側にあるショッピングモールを目指しているのだろう。
本屋は駅から少し離れたところにある。僕が歩いていくとリオは無言で着いてきた。
見慣れた店内に入ったらリオは勝手に目当てのものを探しに行ってしまった。僕は特に買いたい本はなかったけど、せっかく街まで来たので漫画の新刊をチェックしておく。集めている漫画の新刊は出てなさそうだな。金欠なので助かった。
漫画コーナーを1周回って入口の方へ戻ると、リオは既に買い物を済ませていた。店内を見回ったにしては速すぎるし、買う本が決まっていたようだ。
「なに買ったの?」
「競技ダンジョンの雑誌だ」
競技ダンジョンダイジェスト……? そんな雑誌まで出ているのか。
「2冊?」
「ああ、こっちはメジャーリーグので、こっちはヨシュアリーグのだな。メジャーリーグの方はニコル先輩のインタビューが載ってるぞ。お前も読むか?」
「うん」
「なら部室に持っていく」
ヨシュアリーグというのは僕たちの暮らすヨシュア・アキノバ王国内のプロリーグである。メジャーリーグと比べるとリーグに属するチームや選手の質は少し劣るが、れっきとしたプロリーグである。ヨシュアで活躍してメジャーリーグへ移籍していく選手もいるし、逆にメジャーリーグから助っ人としてヨシュアへ移籍して来る選手もいる。隣の国だからね。ニコル先輩もヨシュア・アキノバ王国で暮らしながら、メジャーリーグの試合や練習のたびに隣国の筑吹王国へ通っている。
「ちなみに今月号の付録はコマンダー向け戦術ドリルだ」
「……なにそれ?」
「テクスチャ、アタッカーとディフェンダーの構成、試合展開などが書いてあって、実際に一流のコマンダーがどんな戦術を用いて守ったのかをクイズ形式でドリルにしたものだ。一流のプレイヤーがどのような判断を下すのかを学ぶことによって、プロの思考を取り入れることが出来るようになるし、実戦で迷ったときにも似た場面を知っていれば参考にすることが出来る」
「す、すごいね」
「ちなみにスカウト用の問題とか、ブレイカー用の問題とか、コマンダー以外にも色々あるぞ」
「知らなかった」
すごい。僕、会話のさしすせそが使いこなせてる!
リオは戦術オタクだから相槌打っていれば勝手に話し続けてくれるんだよな。
「次どこ行く? 本屋付き合ってもらったし、シグリの好きなとこでいいぞ」
「え、えー……僕は行きたいところないけど」
「わざわざ街まで来たのに、本屋だけ行って帰るのもな」
「じゃ、じゃあ……」
なにかいい案はないかと周囲を見渡すと、視界の端に印象的な赤髪が映った。普段の髪型とは違っているが、あの烈火の如く渦巻く赤髪は間違いない。
「ニジュさんだ」
「は? お、本当だ。ニジュとミウアじゃないか。おーい」
リオが声を掛けると、向こうも僕たちに気がついた。
学校では後頭部にまとめられているニジュの癖っ毛だが、今日はナチュラルに降ろされている。後頭部で束ねていても肩甲骨辺りまで到達する長さの赤髪は、今日はヘアゴムから開放され自由を得たかのように靡いており、さながらニジュが纏う業火のように見える。
ミウアはショートボブなので今日も見慣れた装いだが、普段はつけていないヘアピンでおでこを露出させている。整った顔が目立つようになり、普段より明るい印象を感じた。
「お前らも街に来ていたのか」
「ええ。よく見つけたわね」
「こっちには優秀なスカウトがいるからな」
「ニジュさんの髪の毛が目立ってただけですよ」
「あ、お前、女子には敬語ってマジだったんだな。パドロが言ってたけど」
「なによそれ」
「ニジュは怖いからタメ語無理なんだと」
「言ってないんだよなぁ……」
無茶苦茶な尾びれついてるじゃん。パドロまじ許さんからな。僕は学校で会話したことある人が限られるので、犯人の目星は一瞬でつけられるんだぞ。
「で、お前らは何してたんだ?」
「カラオケ行こうとしたんだけどね。いっぱいで入れなかったわ。アンタたちは?」
「本屋から出てきたところだ」
「リオ、パドロとアルタムと一緒に出かけるって言ってなかった?」
「駅のところで別行動になった。あいつらこの辺の女子高生ナンパしに行っちまった」
「バカねぇ」
別れ際にアルタムはナンパして可愛い子を捕まえたほうが勝ちと言ってた。ニジュとミウアより可愛い女子がそこらへんで簡単に見つかるはずないし、僕たちの圧勝ということでよろしいか?
「しかしカラオケがこんなに混んでるとは思ってなかったわ。ミウア、どうする?」
「私はなんでもいいよ」
「うーん。そういえばシグリってここらへん地元よね。よく行く場所とかないの? 案内しなさいよ」
「えぇ……」




