初心者が練習試合に参加してみたら? 7
結局、僕は途中でアウトになってしまい、チームもホエールズに逆転を許してしまった。ディフェンスアウトになった後、オフェンスフェーズでも出番が終わっていた僕は何もすることがなく、かと言ってベンチにいた選手と交代するわけでもなく、手持ち無沙汰な時間を過ごしていた。
僕が出場した練習試合1試合目が終了し、すぐにメンバーを入れ替えて2試合目が始まった。1試合目の間は補講を受けていたニコル先輩も合流し、秋海棠高校の本気のメンバーでメジャーリーグユースチームのホエールズに挑む。僕はベンチメンバーの17人に入っていないので、観客席から試合を観戦することになった。
「おーっす。おつかれ」
「あ、お疲れ様です」
同じくベンチ外になったのは同じく1年生のパドロだ。ディフェンダーは人数が多いので必然的に誰かがあぶれてしまう。
「どうだった?」
「いや、全然です。何もできませんでした」
「初心者ならそんなもんよ。てか相手世代別とかいるのに、むしろ頑張ったほうでしょ」
世代別というのはアンダー世代の代表選手のことだ。スカウトの太峰氏もそうだが、他にも世界最高峰のメジャーリーグは世界中の若き才能を集めているし、若手の有望株も次世代のスターを目指して武者修行に来る。筑吹王国は裕福な国で、当然その国で人気のあるメジャーリーグにはお金が集まる。メジャーリーグでの成功は選手としての最高の夢でもあるのだ。
「オレなんて、推薦で入ったのに2試合目ベンチ外よ? 試合に出れると思って秋海棠来たのにな」
パドロは県内の他の強豪校と秋海棠を比べて、ディフェンダーの選手層が薄いからこの学校を選んだと言っていた。それなのに最初の練習試合でいきなりベンチ外になり、不甲斐ない気持ちを感じているのだろう。いつも明るくて同級生のムードメーカーであるパドロが落ち込む様子を隠そうともしないのは、それだけメンタルに余裕がないということかもしれない。
試合は現在、秋海棠高校のオフェンスフェーズが行われている。ホエールズユースの1階層は河川テクスチャで、川を挟んで魔法合戦が展開されている模様。アタッカーに起用されたニコル先輩は、スカウトのチェッカー先輩が指差したところへえげつない魔法をバンバン放っている。河川の反対側で逃げ惑うホエールズユースの選手たち。よく見れば見るほど一方的な虐殺でしかない。
「てかシグリってなんで敬語? オレら同級生なんだから、タメ語でいいよ」
「あー、その。人と話すの得意じゃなくて……」
「でも敬語だとなんか距離感じるし。仲間なんだから軽い感じで行こうぜ」
敬語は自分と相手に身分の差があることを明示する話し方だ。クラスメイトとかに敬語で話すと相手も『自分と距離を置きたいんだな』って察してくれるっぽくてあまり話しかけられなくなるから、クセで敬語で話すようになってしまった。
「じゃあ、パドロくんだけ」
「オレだけじゃねえよ。リオも、アルタムも、ニジュもミウアも全員だ」
「ハードル高いなあ」
特にリオとニジュはトゲトゲしてるから怖い。今日も試合中ニジュに怒られたし。本人は怒ってるわけじゃないって言ってたけど。
「ミウアは? ミウアも大人しいし、シグリでも話できるんじゃないか?」
「ミウアさんは可愛いから緊張しちゃう……」
「それニジュが可愛くないって言ってる?」
「言ってないんだよなぁ」
ニジュも可愛いと思います。本当です。
チクったりすんなよ? マジで。
「むしろパドロ……はどうやって人と仲良くなってるんで……なってるの?」
「普通にやってるだけなんだけどな」
「……僕が普通の話し方できるとでも?」
「なに開き直ってんだよ笑。でもそうだな、相槌のコツみたいなのはあるかもしれん。会話のさしすせそ、とか」
「さしすせそ?」
「『さ』は『さすがだね』、『し』は『知らなかった』、『す』は『すごいね』、『せ』は『センスいいね』、『そ』は『そうなんだ』。この中からいい感じのやつを選ぶだけで、相手が勝手に話し続けてくれて会話してる感じになるってやつ」
「し、知らなかった」
「できてるできてる」
「せ、センスがいい」
「ん? 自画自賛したみたいになっちゃってるぞ」
「さしすせそ」
「あー、バグっちゃった笑。まあ慣れれば人と話すのも苦手意識なくなるんじゃね?」
競技ダンジョンはチーム競技である。通信魔法を使って密に連絡を取り、味方と連携することでチームは勝利に近づく。僕もスカウト行って得た情報をチームに共有しないといけないし、いつまでも人と話せないままではいけないと思う。
「ま、次はお互い試合出られるように頑張ろうぜ」
「そうなん……そうだね」
「いい感じ笑」
* * * * *
練習試合が終わった後は、各ポジションごとのグループに別れて反省会を行った。
「みんなお疲れ様。体調悪い人、怪我した人いない?」
「だいじょびー」
「ぷるるもげんき〜」
主力同士の2試合目は天才魔術師であるニコル・バルザリーを擁する秋海棠高校の勝利だった。もちろん2戦目だけ出場したヘッケル先輩やガレオン主将も上手い選手だが、試合を見ているとニコル先輩は別格な感じがする。てか高校生で既にプロなってるんだから別格なのは当たり前か。試合後にはホエールズユースの選手たちにサインを求められていた。
練習試合ではあるが、メジャーリーグ下部組織の実力あるチームに対して、秋海棠高校は良い結果が出せたのではないかと思う。
「じゃあ反省会だけど、まずスイーパーから……」
スイーパー、ブレイカー、スカウトの順に改善点などを出し合う。僕は基本的に端っこでおとなしくしているだけ。議事録とか書いたほうがいいのかな。全然わからん。
「こんなもんかな。じゃあ次の練習から頑張っていこう」
「うぇーい」
「おあー」
「お、終わり?」
僕は反省しないといけないとこいっぱいあると思ったから怒られるのかなと思ってたけど、なんにも触れられずに終わってしまった。チェッカー先輩とプルル先輩は荷物をまとめ始めている。僕はヘッケル先輩を呼び止める。
「せ、先輩。僕は?」
「ん? もう上がっていいよ。疲れたと思うし、今日は休んで」
「そうじゃなくて、試合、全然ダメだったと思うんですけど……」
ブレイカーとしてはオフサイドを取るどころか、ディフェンスブレイクを仕掛けることすらできなかった。スカウトとしては何度か仕事の機会はあったけど、相手の選手にすぐ見つかって結局仲間の足を引っ張ってしまった。2試合目を観戦して思ったけど、僕たちサポート班は悪く目立ってはダメなポジションだと思う。スカウトが目立てば相手に情報が流れてしまうし、ブレイカーが目立つと注目されて動きづらくなってしまう。これは僕のプレーだけが難しくなるんじゃなくて、ヘッケル先輩やチェッカー先輩の動きまで制限してしまう可能性があるのだ。
「今日、僕、何もできなくて……」
「そんな事ないと思うけど」
ヘッケル先輩は帰り支度を終えて様子を伺っていた2年生2人をちょいちょいと呼ぶ。チェッカー先輩もプルル先輩も僕のことを気にしてくれていたみたいだ。
「今日のシグリは80点くらいだと思ってる」
「え、結構高い……」
「ちぇーのちゅうかんテストのごうけいてんくらい」
「プルたんなぜバラすんじゃ……」
「えぇ……」
チェッカー先輩も勉強ダメなタイプか。薄々予想はしていたけど。
「あ、あれ、チェッカー先輩って記憶力良くないでしたっけ?」
「ちぇーべんきょうはばかなんだよ」
「幼馴染さんや、言葉は選びましょうね」
「先輩、練習試合のテクスチャを見ただけで覚えてたから」
「このテクスチャ、ボクたちは去年の大会で使ってるからね。あれだけみっちり練習したのに忘れてたら救いようもないよ」
「ちょっとヘッケるんの言葉にもトゲがありますねぇ」
「プルルが射撃当たってたのも、散々練習して風向きとか地形が分かってるからだし」
「そうなの。オフェンスだとあんなにあたらないの」
「そ、そうなんですね」
「あぁ……ウチの先輩としての威厳が剥がれていく……」
勉強を差し引いてもチェッカー先輩は十分凄いけどな。
「シグリが80点くらいって話、オフェンスもディフェンスも経験してどうだった?」
「何も出来なかったと思います」
「もっと具体的に」
「えーと……」
まずはすぐに相手に見つかってしまったこと。すぐに疲れてしまったこと。アウトになってしまったこと。反省点はいくらでもあると思う。
「チェッカーはどう思う?」
「んまー、相手に負けるのってミスじゃないし。それは反省するんじゃなくて、練習頑張りゃよくね?って感じっしょ」
「僕もそう思う。プルルは?」
「しー、しぶとくのこってたの。さいごにはアウトになっちゃったけど、なんどもかえってきたのはえらかったの」
「それはプルル先輩とかニジュさんが助けてくれたから」
「ゆうせんじゅんいなの。ぷるる、なんはつもうてるわけじゃないの」
プルル先輩の大口径砲は、撃った時の衝撃もあるし、1発撃ったら次の弾を込め直す必要があるので、どうしても射撃間隔が発生する。つまりプルル先輩は重要な1発を僕の援護に使ってくれたわけだ。あのときは相手が深追いしてこなかったからニジュと合流できたけど、相手の行動次第でプルル先輩は次弾も支援に使ってくれるつもりだったかもしれない。
「実際ね、初心者のシグリが活躍するなんて誰も思ってなかったから」
「ヘッケるん言い過ぎじゃ……」
「そういう意味じゃなくて、シグリは思ってるほど失敗してないってこと」
メジャーリーグの下部組織は強豪チームである。それこそ未来のスターが生まれてくる可能性が最も高い、ポテンシャルを認められた選手たちで構成されたチームである。
一方僕は競技ダンジョン初めて1ヶ月程度のド初心者である。実力が無いことが明らかな選手と言ったところ。
全く通用しないことも、スタミナの管理ができなくてバテてしまったことも、ディフェンスアウトになってしまったことも、当たり前と言えば当たり前なのだ。
「今日は試合と言っても練習試合だからね」
「シグリっちは教えたことフツーにできてたしな〜。反省することないっていうか」
「ぷるるはおこられたの……」
ディフェンスフェーズでコマンダーの指示を待たずに発砲したプルル先輩はラミー先輩に怒られてたし、ヘッケル先輩にも怒られてた。撃って当たるのは分かったから、次からは射撃指示を待って欲しいと言われてたみたい。
まあプルル先輩もアタッカーが絶対に撃ち抜けるところを堂々と歩いてくるのを見て、チームを助けるために撃っただけなので悪意があったわけではない。ただスイーパーに活躍してほしい場面は2階層の密林テクスチャだったので、ディフェンスに射撃手がいることは伏せておきたかったとかそういうコマンダーの戦術的な考えが共有できていなかっただけである。
僕は初めて遭遇する場面に焦ってしまった部分もあるけど、試合の中で修正できていたように思う。そもそもヘッケル先輩とチェッカー先輩には重要ないくつかのことしかまだ教えてもらっていないので、練習でできた基本的なことが試合でできなかったとか、そういう後ろ向きな失敗はなかったかもしれない。
「シグリはこのチームに必要な選手だって、今日分かった人もいるはずだから」
「そうよ。ウチ、去年の夏に先輩が引退してから1人でスカウトやってきたけど、今日はシグリっちが手伝ってくれて助かったし」
入学式の日、部活動勧誘の人混みの中から、僕を見つけてくれたチェッカー先輩と、僕を捕まえてくれたヘッケル先輩。
2人はいつでも僕が必要だと言ってくれる。だから僕はブレイカーとして、スカウトとして、今日も自分の出来る限り頑張ることができた。
でも、ここにいるだけで十分だと言われて満足してしまったら、教室の隅で人に迷惑かけないように生きてきた今までの人生と変わらない。
目線を上げると、3人は真っ直ぐに僕を見ていた。
「シグリ、今日どうだった?」
「もっと上手くなりたいと、思いました」
だから僕は、もっと上手くなりたいと思った。
競技ダンジョン部にいるみんなは、初めて僕を必要としてくれた人たちだから。
ベンチに座ってるだけで十分とかじゃ足りなくて、もっと先輩たちの役に立てるようになりたい。
競技ダンジョンを先輩たちと一緒に楽しみたいし、一緒に喜び合いたい。
先輩たちのように、チームを勝たせられるようになりたい。
だから今日みたいに何も出来なかった自分に、満足したくないと思ってしまった。
「僕、もっと頑張りたいです」
「じゃあ練習だね」
「シグリっちも一緒に、夏の大会に向けて頑張ろ〜」
「は、はい!」




