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陰キャが競技ダンジョン部にスカウトされたら? 1

競技ダンジョン。


この世界と地続きになっている別の世界にはダンジョンが存在する。

ダンジョンは国内のエネルギーのほとんどを補っている魔石が取れたりとか……まあ色んな理由で調査、探索活動が今でも行われている。


その異界のダンジョンを攻略する冒険者の育成を目的とし、訓練の一部として始まった競技ダンジョンというスポーツは、現代では本格的に娯楽の1つとしての道を歩んでいる。今では協会によって公認ルールが整備され、プロリーグ主催試合などを通してファンを魅了する大人気スポーツである。


この春、秋海棠(しゅうかいどう)高校に入学した僕、シグリ・ディアマンテは根っからの陰キャである。

いつも教室の目立たないところでひっそりと生活してきた人種で、チームスポーツなんか全くの未経験だ。そもそもチームとかグループみたいなものを避けてきたまである。競技ダンジョンに触れたことも当然ない。


秋海棠高校は全国でも有数の部活動に特色のある学校で、全校生徒はいずれかの部活動に所属する義務がある。とはいえ僕のような普通科の生徒も割合にして半数を超えており、スポーツ特待生が大半を占めるようなガチで全国を目指す部活に一般入学の生徒が入るのは稀だ。


ではなぜ、陰キャな僕がガチの部活の1つである競技ダンジョン部に入ることになったのか。

その経緯を説明をするとなると、語り始めは入学式の放課後まで遡る。


 * * * * *


「入学おめでとうございまーす!! 水泳部でーす!!」

「吹奏楽部でーす!! 一緒にやりませんかー!?」


僕が初めて秋海棠高校の生徒として通学した日。つまり入学式の日。

式が終了したあと、僕たち新入生はこれから1年間を過ごす教室に案内され、ガイダンスを受けた。翌日からの予定を担任教師から伝えられ、正午を過ぎる前に放課後だ。

教室に残って新たなクラスメイトとの距離を縮めようとしている同級生を尻目に、僕は教室を後にする。初日から友達作るとか、ハードル高すぎるでしょ……。陰キャはそのうち引かれ合うのだ。陽キャグループが固まってくると、追いやられた陰キャは教室の隅っことかに集まるからね。中学のときも友達が完全にいなかったわけではないので大丈夫大丈夫。


そうして校舎の出口にたどり着いたのがついさっき。僕はまだ慣れない学び舎で帰り道を探そうとし、眼の前の光景に唖然とする。

学校の校舎から正門まで、新入生を部活動に勧誘する上級生で溢れかえっていたのだ。


秋海棠高校は部活動が盛んである。いや、もはや盛んであるという言葉には収まらない。

私立高校である本校は、多くの推薦制度、特待生制度を取り揃え、中学校の部活動で優秀な成績を修めた学生を特待生として入学させている。待遇にも階級があるが、最高ランクのA特待になると学費と入学金の全額免除、寮費無料に加えて月々の生活費までもが支給される。文字通りの特別待遇だ。


それでも一般入学組の学費が普通の範囲に収まっているのは、卒業していった先輩たちがスポーツや芸術の分野において国をまたいで活躍し、学校に寄付をしてくれているからだ。寂れた漁村にある高校でありながら校舎は非常に綺麗で設備も整っており、国内屈指のスカウト網と指導者を揃えている。部活動のために越境入学などをして寮生活を送る生徒も多い。

そんな理由で本校には全国大会で結果を出している部がいくつも存在する。もちろん僕のような一般入学組が入るための、いわゆるガチじゃない部活も存在するが。


当然、どの部活も新入生の獲得に本気である。チームスポーツは特待生だけでチームが組めるとも限らないし、一般入学組にも中学校での経験者は存在する。彼らが心変わりして別の部活にとられてしまわないように、また別の部活から部員を奪うために、新入生へ我先にと声を掛けるべく勧誘合戦が繰り広げられているのであった。


教室を出るのが早かった僕だったが、思わぬ足止めだ。陰キャの僕には新入生を喰い物せんと待ち構える上級生をあしらう技術はない。無事に正門までたどり着くためには、正門前の人混みを上級生の勧誘を受けずに突破することがマストである。

陰キャは人の視線に敏感である。ド陰キャの僕も例に漏れず、他人に注目されないように人の死角で生活してきた。今は上級生の視線の多くは校舎の出口に注がれているが、校舎から出てくる新入生がある程度増えれば視線は分散していくと予想される。基本的に部活動に勧誘したい人材というのは誰でも良いわけではなく、身長が高かったり足が速かったり筋肉いっぱいついてたり、平たく言えばその競技で活躍してくれそうな人であるはず。分散した視界の中であれば部活ガチ勢のターゲットに入っていない僕は人の死角を抜けて正門を目指せる。


そう考えた僕はもう一度室内履きの靴に履き替えて、校舎の中へ戻る。

僕もこの学校に入学した以上、どこかの部活には参加しなければならない。中学生の頃は走っている間はひとりになれるという理由で陸上部所属の長距離走専門選手だったけど、この高校の陸上部は全国大会常連の強豪なので気軽に入ると間違いなく後悔することになる。それに中学校は地元の一般的な公立中学校だったから個人競技にしかエントリーしなかったが、人数の多い陸上部は駅伝の大会にも参加する。長距離走るだけでもキツイのに、責任持ってタスキを次走者に繋がなければいけないストレスを考えると胃に穴が開いてしまいそうだ。


掲示板に貼られた部活動勧誘のポスターを見ながらぼっちになれそうな部活を探していると、やっと下校する同級生の数が増えてきた。同級生はもう友達を作ってるようだ。まあ意図的に友達作りの輪を避けた僕は友達作りに遅れたくらいで焦ったりしないけど。

今の所、高校で所属しようと思っている部活の候補は将棋部と文芸部だ。この2つはポスターがめちゃくちゃ小さかった。たぶん熱心に部活をやっているわけでもないし、熱心に部員を集めているわけでもないのだろう。目指せ幽霊部員。


一通りポスターをチェックした僕が再び靴箱へ戻ると、校舎の出口はひどい混雑だった。さすがは部活動全国レベルの高校だ、部活動勧誘も全国クラスなんだろう。

これだけごちゃごちゃしていれば部活の勧誘を受けずに帰ることは可能だ、と判断した僕は靴を履き替えて校舎を出る。

一瞬僕に視線が集まった気がしたが、その気配もすぐに消える。中学校で運動していたとはいえ、僕は体格に恵まれているわけでもないので単なるヒョロガリにしか見えていないだろう。実際単なるヒョロガリでもある。


とはいえ頭数を揃えたい部活や文化部にも注意しなければいけないので、僕は冷静に人の流れを観察してみる。混雑は正門に向かうにつれて酷くなっており、どうやら奥の方は動線が詰まっているみたい?

ここからでは奥を見渡すことができなかったので、人の視線を縫って下校を開始する。

ビラを配る人は無視して通り過ぎれば諦めてくれるので簡単。一枚でも受け取ってしまうと他の上級生も便乗してビラを渡してくるので最初から何も受け取らない。ビラ配りではなく直接勧誘している人は、注意が他の新入生に向いている間に死角へ入る。


誰にも話しかけられずに良いペースで混雑を進むと、正門付近の様子が見えてきた。

どうやら大柄な生徒が一人、新入生を片っ端から捕まえているようだ。その生徒が抱えている新入生を見ると、男子も女子もヒョロガリもチビ助も見境なしという感じっぽい。その大柄な生徒から逃れるべく、帰宅する新入生の流れに逆らう生徒がいるから混み合っているのだ。

スポーツ特待生は例外なくフィジカルエリートである。秋海棠高校には高校年代でもトップクラスに恵まれた体格の生徒が数多く在籍しているが、その中に混じって一際大柄な体躯が目立つのは間違いなく並の高校生ではない。あんな大木のような腕に掴まれたら絶対に振り払えないと思う。


今までの勧誘と同じように他の新入生を生贄に通り抜けられないかと考えていると、複数の新入生のグループが目に入った。正門を封鎖しているとは言っても人数は1人。何人も同時に捕まえることはできないだろうと考えて、僕は生贄に定めた新入生グループの金魚のフンになって進む。


「競技ダンジョン部にようこそおおおおおおおおおおお」

「「「うわあああああああ」」」


うわぁ、これはやばい。

競技ダンジョン部を名乗る大柄な生徒は、何人いようがお構いなしだった。今までの勧誘とは違いすぎる。

盾にしていたグループの大半は勧誘、というより誘拐され、僕はなんとか離れたところまで後退する。


競技ダンジョン部ってゴリゴリの運動部じゃんか。しかも数少ない男女混合のチームスポーツ。ヒョロガリ男だからという理由で見逃してくれる様子はなさそうだ。

誘拐まがいの無茶苦茶な勧誘を受けた僕が断れる未来が見えないので、絶対に捕まらずに突破する必要がある。

ここから僕にとれる選択肢は2つ。1つ目は競技ダンジョン部の視認を掻い潜って帰宅する。2つ目は競技ダンジョン部が勧誘活動を終えて立ち去るまで学校の中で時間を潰す。


引き返して校舎の中で時間を潰すのは後でもできる。とりあえず正門を突破する方針で、ゴリゴリのゴリラを観察してみよう。

正門を背に立つ大柄な生徒は、少なくとも僕が彼を視認できる範囲に来てからは1人も新入生を通していない。しかし彼の網にかからずに通り抜けていく生徒もいる。上級生だ。秋海棠高校は生徒全員が部活に所属する必要がある。必然、在校生はいずれかの部活に所属しており、部活動勧誘の対象とはならない。


校門のあたりに集まっている在校生は全て部活動勧誘のための人員だ。運動部であればジャージを着ている生徒が大多数のようだが、制服でここにいる文化部の在校生もいる。彼らになら紛れることはそこまで難しくないかもしれない。

問題なのは学年ごとに異なる制服のリボンを見られると新入生とバレてしまうことと、僕が初対面の人に近づくことが苦手ということ。全く知らないグループに違和感なくこそっと紛れるスキルはない。人の輪の中で浮いてしまうから端っこにいるんですよねぇ。人の輪に入っているように見えて輪に入っていない際どいラインを狙わなければいけない。

正門を封鎖する大柄な生徒の視線を分析すると、特に制服の生徒の動きをよく見ているようだ。新入生は全員が制服を着ているので当然の行動かもしれない。

順当に制服の上級生に紛れようとしても僕は周囲から浮いてしまうだろうし、目をつけられてリボンを確認されたらジエンドだ。であれば取れる方法はその逆しかない。


方針を決めた僕は帰宅を開始する。

僕がカモフラージュに選ぶのは正門に向かう上級生のグループ。それもジャージを着た運動部のグループである。比較的背の高い運動部の先輩たちを盾に使い、競技ダンジョン部から死角になる位置に常に入りながら、正門を目指す。

勧誘対象外と一目で分かるジャージのグループをよく観察しようとはしないだろう。当然その影に入っている僕も見つからないという算段。


目論見は上手く行き、そのまま難なく正門へと到達する。単細胞ゴリラは思考が単純で、見ている方向も素直だったので欺くのはイージーだった。

ふっ、人の視線に怯えながら生きてきた僕を舐めてもらっちゃあ困るなぁ。話しかけられていない時の陰キャは意外と調子がいいのである。


競技ダンジョン部の大柄な生徒は正門に背を向けていたし、ここまで来れば大丈夫。

意気揚々と正門を潜る僕。


その僕の肩がトントン、と叩かれた。


「競技ダンジョン部」

「……え?」

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