第8章~第10章~森の守護者と恐れられし影~
この物語は、異種族との恋愛や冒険を通じて、キャラクターたちの成長と幸せを描きたいという思いから生まれました。
主人公フィンが、様々な異種族の女性たちと出会い、葛藤しながらも前に進む姿を、読者の皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。
彼女たちの個性や絆を丁寧に描きつつ、フィンと共に笑い、悩み、冒険する体験を共有できれば幸いです。異種族ファンタジーが好きな方は、ぜひこの世界へお越しください!
第8章:静寂と魔物の影
———【時は遡り】———
フィンが異種族混合パーティの戦場で戦いに挑んでいた頃――
大森林の奥深く。空は曇り、風もなく、ただ木々の間を吹き抜ける風の音と、遠くから聞こえる動物たちの鳴き声だけが静けさを保っていた。
大森林の中で、比較的村に近い場所にある広場には、どこか温かみが残る空気が漂っていた。普段、この場所は静寂に包まれており、村人たちが時折集まり、談笑を繰り広げる場所であった。しかし、今日はその静けさが一変する。
突然、遠くの木々の間から、かすかな物音が響いてきた。それは、ただの風の音ではない。何かが近づいている音だ。
その音の主は、森の中でも滅多に姿を見せない魔物だった。鋭い爪を持ち、耳をつんざくような吠え声を上げながら、狼のような姿をしたその魔物が、今まさに広場に向かって歩いてきていた。
その魔物は、村の子供たちにとって恐怖そのものだった。大きさこそ大人ほどの高さはないものの、その威圧感と鋭さに、子供たちは恐れを抱いていた。そして今、その恐れが現実となった。
広場で遊んでいた子供たちの一団は、遠くから魔物の足音を聞き、瞬時に恐怖を感じた。最初はただの風だと思ったが、次第にその音が大きくなり、やがて目の前に現れる。その目に映ったのは、今まさに獲物を探しているかのような魔物の姿だった。
子供たちは必死にその場から逃げ出した。しかし、彼らの足は速くなく、魔物の鋭い牙が迫ってくる。
その時、静かな森の奥から、ひとつの影が姿を現した。それは、恐怖を与えるほどの存在感を持つものだった。姿勢は低く、奇妙に曲がった足が鋭い爪に変わり、身体の一部は毛のような質感を持ちながら、背中にはおぞましいほどに巨大なものが背負われていた。それはまるで、魔物のような影を作り出しながら、ゆっくりと近づいてきた。
だが、その存在が近づいてくると、子供たちはその姿を見てさらに恐怖を感じた。あまりにも異質すぎて、近づくことさえできなかった。
その時、奇妙な存在が魔物に対して脚を一突きに放った。その動きが予想外だった。魔物が襲いかかる瞬間、その脚の力で魔物を食い止めたのだ。
子供たちの目に映ったのは、ただの恐ろしい魔物ではなく、見慣れない、巨大な影が魔物に立ちはだかった。それが魔物に対して何らかの反応を見せ、すぐに魔物を引き裂いた。まるで魔物を相手にしないかのように、その存在をあっさりと圧倒した。
子供たちはその場で立ち尽くし、ただ震えていた。しかし、恐怖が頂点に達した瞬間、彼らは耐えられなくなり、我先にと一目散に走り出した。足元も覚束なく、ただただ村へ向かって走ることしか考えられなかった。彼らは振り返ることなく、恐怖に駆られて必死に逃げ続けた。
村に到着するまで、子供たちはその恐ろしい出来事の余韻に捉えられながら、息を切らして走り続けた。村に辿り着くと、彼らは慌てて大人たちにその出来事を伝えようとしたが、言葉がうまく出なかった。焦りと恐怖が入り混じった彼らの話を聞いた大人たちは、次第に状況を理解し、すぐに動き出すことになった。
「お供え物…最近していなかったか?」
という声があちこちから上がる。長い間、村ではこのような魔物の出現は見られなかったが、それでも村人たちは何度も伝承を聞いていた。過去、魔物が現れた際に、神への供物が足りていなかったために出現したという話を。
そのため、村人たちは急いで森の広場近くのお供え場所に向かった。しかし、そこには供物は一切置かれていなかった。「やはり、お供えしていなかったか…」と、誰もが心の中で思った。
その後、村人たちは震える子供たちを連れて、急いで魔物が現れた森の広場へ向かった。
———【ほんの数刻前】
奇妙な存在は、倒した魔獣の死体を前に思案していた。その巨大な体躯は、血の匂いを漂わせながら地面に横たわっている。
(さて...、どうしましょ?)
糸を使って隠す必要はない。ここは人間が襲われていた現場なのだから、見つかったところで構わない。しかし、この肉をどうするかが問題だった。
(食べてみるのもありかしら……? でも、あまり口に合わなさそう。)
鋭い爪をわずかに動かし、魔獣の遺体を押し転がす。その瞬間、微かな足音が森に響いた。
(誰か来る...。)
彼女が次の手を考える暇もなく。
———【時は戻り、現在へ】
広場に近づくにつれ、異様な静けさが周囲を包み込んでいることに気づいた。
その時、奇妙な影は森の奥で足音を聞き、ひときわ強くその気配を感じ取った。すぐに身を隠そうとしたが、無意識のうちに足元の枝が音を立て、その一瞬、木々の間からわずかに姿が見えてしまう。アラクネは一瞬立ち止まり、急いでその場を離れ、素早く森の奥へと身を隠した。
「なんだ、あれ…?」
村人の一人が言った。倒れている魔物を見つけると、少し驚いた様子で続けた。
「きっと、魔物と争った魔獣だろう…。」
彼らは奇妙な影がただの魔物だと思い込み、特に深く考えることなく広場を後にした。倒れた魔物の死体と、争った痕跡を目にして、村人たちはそれが魔獣同士の戦いの結果だとしか思えなかった。
広場を離れ、村に戻る道を歩きながら、村人たちは互いに話し合い、これからのことを少しずつ考え始めていた。小道を進み、やがて家々の立ち並ぶ村へと戻ると、村人たちは集まり、事の重大さを再確認しあった。
すぐに、村の村長が指示を出し、王都への調査依頼を出すことを決定した。王都のギルドにその恐ろしい出来事を知らせ、調査をお願いすることとなった。
その後、村人たちは今後の対応に備え、互いに警戒を強め合うこととなった。村の人々は、再び平穏な日常が戻ったかのように見えたが、警戒心は一層高まっていた。
9章:森の静寂、糸のささやき
———【アラクネの紹介】———
アラクネは、人間と蜘蛛の特徴を併せ持つ異種族で、その姿は恐ろしげでありながらも、冷徹で理知的な性格を持つ者が多い。蜘蛛のような足を持ち、鋭い複眼で周囲を見渡すその姿は、一般的に恐れられることが多い。アラクネは通常、森や地下などの隠れた場所に住んでおり、獲物を狩る際以外はじっと静かに過ごすことが多い。その外見のためか、他の異種族や人間との接触は少ないが、必要があればその強力な力を発揮することができる。
———【舞台は静かな森、アラクネの家】———
大森林の奥深くにあるアラクネの家は、外見からはほとんど森の一部のように見える。木々に覆われたその家は、他の生き物から目立たず、静かな場所である。昼間でも暗い森の中で、ただ静寂が広がっている。
アラクネは、広場から戻ると、その場に立ち止まりながら少し考え込んだ。
「あの魔物…勿体無かったかもしれないわね。持って帰ってくればよかったかもしれないけれど…。」
彼女は魔物が倒されていた広場を思い出しながら、軽くため息をつく。その魔物は強力で、獲物として十分に価値があった。しかし、彼女はそのまま放置してきた。
「でも、あそこで人間に出くわすのも面倒だし、きっと人間たちが処理するでしょ。」
人間の関与を避けたいアラクネは、そう考えて、再び軽く肩をすくめた。その後、彼女は少し考えながら手を伸ばし、周囲に目をやった。
「今日は何をしようかしらねぇ…?」
アラクネという種族は、基本的に獲物を狩る時以外はじっとしていることが多い。彼女もその性質を持っていたが、徘徊型の個体であり、巣を作ることなく、森の中を自由に移動して生活している。どこか寂しげで、また一人で過ごすことに慣れている彼女にとっては、森の中で一人の時間を持つことがとても大切だった。
「ん?あっちにも、人間が襲われている気配があるわね。」
風がふと変わったその瞬間、アラクネは周囲の糸に集中した。無数の糸が微細に震え、音の波動が伝わる。彼女はその震えを感じ取り、森の入り口、あるいは村の近くから異常な気配が伝わってくるのを感じた。争いの音が耳に届き、彼女の体は反応する。
今までの静けさとは打って変わり、遠くから響く音は鋭く、少し高揚感を伴っていた。それは争いの音か、新たな獲物が現れた知らせなのか。どちらにせよ、無視できない。
彼女はその気配を感じ、しばらくその場で静かに立ち尽くす。無駄な動きを避け、状況を冷静に見極める必要がある。
「あら?行ってみようかしら。」
少し考えた後、彼女はゆっくりと立ち上がり、足を踏み出しながらつぶやいた。
気配を感じ取りながら、アラクネは再び森の奥深くに身を隠すようにして足音を殺し、静かにその場所へと向かう。
彼女の目は、無駄なことを避けるように冷徹で、目の前に現れるであろう状況に対して、どんな反応をすべきかを瞬時に考えている。
そのまま、森の中をゆっくりと、しかし確実に進む。どこか遠くで動物たちの声が響き、風の音が時折木々を揺らすが、彼女はそれらに動じることなく、自分の足元を慎重に見つめながら進んでいく。
彼女はこうして毎日を過ごしている。静かな森の中で、獲物を追い、気配を感じ取り、時には人間の動きを避けながら、ただ生きている。そして、その日々の中で、時折こうして気になる何かを見つけると、行動を起こす。そうして彼女は、目の前に現れるすべての出来事を自分のペースで対処しながら、日常を続けていく。
それが彼女の、アラクネという存在としての過ごし方だった。
10章:大森林の影
———【ところ変わってフィン】———
フィンは、王都で受けた調査依頼を果たすべく、大森林へ向かうことになった。依頼の内容は、村で発生した異常事態の調査だったが、詳細な情報はほとんど与えられていない。急を要する問題らしく、王都から村まで馬車が急遽手配されたため、フィンはその便に乗ることとなった。
馬車の中、揺れる車内でフィンは持ち物を再確認していた。冒険者としての基本的な装備は問題ない。剣、弓、ナイフ、さらに軽食と水。地図も確認し、目的地が間もなく到着することを確かめる。全てが整っている。しかし、依頼内容の不明瞭さに少し不安が残る。
「一体、何が起きているんだろう…?」
フィンは心の中で呟きながら、窓の外に目を向けた。馬車は大森林の端に差し掛かり、周囲の景色が徐々に森の影に包まれ始めた。人里離れた森の中を走る馬車は、まるでこの地の孤立した村へ向かうための、唯一の道のようだ。
馬車はゆっくりと揺れ、道が悪くなるにつれてその揺れも大きくなる。木々が枝を大きく広げ、時折薄暗くなった林の中を通り抜ける。フィンはその景色に心を落ち着けつつも、目的地へ急ぐ気持ちを抑えきれなかった。
「たどり着けるのは、もう少しだ…」
フィンは再び荷物の確認をし、心の中で準備を整える。どうやら、この村は最近何か異常が発生しているらしい。しかし、何も知らされていないことには、多少の不安がある。それでも、どんな問題が待ち受けていようと、依頼者からの信頼を裏切るわけにはいかない。
馬車がさらに進んでいく。フィンは少し目を閉じ、深呼吸をしてから再び窓の外を見る。ゆっくりと進んでいた馬車が、やがて目的地に近づいてきた。
そして、ついに村が見えてきた。
———【村に到着】———
馬車が村の外れに到着すると、フィンは車から降り、周囲を見渡した。村は思ったよりも静かで、どこか不穏な空気が漂っている。家々は通常通りに見えるが、人々の動きは少なく、家の周りには護衛の姿もちらほらと見受けられる。村の長と思しき人物がフィンに向かって歩み寄り、静かに挨拶を交わす。
「お待ちしていました、フィン様。ようこそ、我が村へ。」
その言葉に耳を傾けつつ、フィンは目の前の村の様子を注意深く観察する。対魔物の警戒態勢が整えられていることが、何よりの証拠だった。
フィンは村長に礼をし、丁寧に挨拶を交わした。
「村長様、はじめまして。フィン・クロウリーです。お世話になります。」
村長は微笑んで頷きながら答えた。
「フィン様、ようこそ。この度は、お願いしたいことがあります。」
フィンは少し身構える。村の雰囲気からして、何かただならぬ事情があるようだ。
「何か問題があるのですか?」
村長は深いため息をつき、目を閉じて言葉を続けた。
「実は、先日森の広場で子供たちが魔物に襲われそうになったんです。幸い、子供たちは逃げ帰ってきて無事だったのですが、その魔物が何者だったのかは分かっていません。それに、子供たちの話だと、何度か不穏な気配を感じたとも言っていました。今後も同じようなことが起きるかもしれません。」
フィンは村長の言葉に頷いた。魔物の正体を解明し、再発を防ぐためには早急な調査が必要だと感じた。
「分かりました。森の広場を調べてみます。」
村長は感謝の意を込めて頷き、軽く頭を下げた。
「よろしく頼みます。」
フィンは村長と別れ、村の外れに向かって歩き出した。村の周囲は静かで、警戒の色が強く感じられた。村人たちの目線が背中に刺さるが、気にせず進んでいく。
森の入り口に足を踏み入れると、木々の間から漏れる光が道を照らし、風が木々を揺らす音だけが響く。時折、鳥のさえずりも聞こえるが、どこか陰鬱な雰囲気を感じさせる。
ほどなくして、森の広場に到着した。広場の端に魔物の死骸が転がっているのを見つけ、フィンはその死骸に近づいた。魔物は獣のような姿で、鋭い牙と爪を持っている。皮膚は黒く、異常な姿をしていた。戦った跡があることから、何かしらの危険な魔物だったことが伺える。
「これは…。」
フィンは無言で死骸を見つめ、思案する。
「広場の奥に、魔物の巣があるのかもしれない。」
そう考えたフィンは、再び足を進める。広場を越えて森の奥へと向かいながら、これから待ち受けるであろう未知の状況に備えて、冷静に考えを巡らせる。とにかく、今は一歩ずつ進むことが最も重要だった。
『フィン君を待ち受ける物とは一体!?次回、こうご期待!』
拙い部分も多かったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
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(例:フィン君かっこいい!面白かった!や、2作目ならこんなもんやろ、面白くなかった、ベタすぎ等)
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