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7:奴隷

褒美に関する一連のものは以下に決まった

・ナイラの城での雇用役職はお姫様専属の侍女見習い

・領内全関所や契約に使える手形パス

・キャラバンの作成編成許可

・金貨二十枚と領都に事務所兼家を貸し与える

ごちゃごちゃと名目が着いているが上一つを除けば事実上の商会設立許可と言った方が早いだろう、リチャードとしては娘ナイラの件さえ叶えば良いと思っていたのにこれは規模が大きくなりすぎて困っていた、普通にまた商いが出来ればそれで良かったからだ、商会の内容以前に名前すら決まっていないとりあえず判っているのは父リチャードが商会長、八歳の息子ロバートが陣頭指揮を取る実質社長というなんともあり得ない構図だけだ、商会になるからには商業ギルドへの登録も必要になるリチャード自身は商業ギルドに登録してはいるがそれはあくまで下っ端の組合員としてだどんな手続が必要なのかも知るわけも無く前途多難だ


領主の城から領都の宿へ移った二人は今後について話し合っていた

「はぁぁ~」

ため息は商会長リチャードのもの

「父ちゃんため息したって何も変わらないよ」

「俺は達観しているお前が羨ましいよ」

建物と資格は得たがそれだけで成り立つわけではない手足となる従業員が居なければ一歩も動けないし今までと何も変わらぬ仕事しかできない、人を増やしてキャラバンを組織するにも人が居るし少数で決められた場所に配送するにも取引先が要る、なにより商品が必要、要するに問題は山積みということだ

「明日は物件を紹介してくれるという話だったな」

「うん三年間の貸物件その間に今回の資金を1.5倍に出来ればそのまま付与してくれるんだって」

金貨二十枚、一枚でも平民数年分の年収になる金額でも商売となる元手として考えれば投資先次第であっという間に溶けてしまう慎重に考えなければならない

キャラバンを編成して儲けるのが一番無難な手段だがそのキャラバンも野盗や魔物に襲われて全滅となれば負債額は尋常ではない、そして絶望的なのはリチャードには人を集めるためのコネも人望もないこと…


前例も有るには有るのだがリチャード親子の様に報酬として商会に成り上がるというケースは少ない、本来はそれなりにコネクションも実績も資産も有って商会として商業ギルドに名を連ねる物だからだ、商人としての実績もろくに無いこの場合事務所を貸し与える期間の三年間は準会員という特例措置を受けることも出来るのだが保障金として金貨二枚の支払いが必要になる

支払って特例措置を受ける場合は会合や年会費などの参加や支払いが免除されるといった具合で三年間はある程度縛り無く活動ができるというメリット、その代わり仕事を商業ギルドから回してもらえないというデメリット


「父ちゃん商品なんだけどさ」

「儲けになりそうなものは見つかったか?」

「こんな商売なんてどうかな?」

リチャード親子は事業内容から特例措置を受けることにしたのだった


物件の観覧の帰り道息子と二人領都の路地裏を歩く

「あそこは良い物件だっただろう?何が気に食わないんだ」

「あそこが悪いとは言ってないじゃんキープだよキープ、それに父ちゃん僕らがしようとしてる商売を考えたらあそこはちょっと明るすぎると思わない?」

「ん~そう言われてみると…」

「中心街から少し離れるくらいが丁度良いと僕は思ってるんだけど」

「そうかもしれない」

言いくるめられてる気がしないでもないが確かにメインストリートにいきなり店を構えるというのは確かにハードルが高い気がしてきたのだ

「父ちゃん父ちゃん!」

妄想が捗っている間に目的地に着いたようで息子の声で我に返るリチャードの前にはいかにも胡散臭そうな婆婆が一人

「お客さんかえ?随分と小まいのを連れとるがここがどんな所かは知ってるんだろうね」

「ああ知っている、しかし本当にここは合法なんだよな?」

「バカを言っちゃいけねぇよこんな所にあるのは法が許しても人ってのは感情が許さないってもんのせいさうちは真っ当な商いしかしちゃいないよ」

「すまないこういう場所に来ること自体初めてでな」

「お前さんたちこそモグリじゃないって証拠は有るのかい」

気に触ったのか売り言葉に買い言葉じゃないが婆婆をヒートアップさせてしまったようだ

「お姉さんこれ」

そう言ってロバートは褒美に貰った手形を渡す

「ガキが気回すんじゃないよ、ま悪い気はしないがね…ってあんたこりゃあ領主の直下の手形じゃないかい!」

効力としては商業ギルドの発行する手形と変わりないのだが領主直下の手形は多大な貢献をした者にしか贈られない代物、要は箔が付いている手形だった

「着いて来な」

言葉使いは変わらないが雰囲気の変わった婆婆に連れられて地下へと降りていく

「それでどんな奴をご所望なんだい特別に案内してやるよ」

「ん~とね」

「ちょっと良いかい?この商いの責任者はあんたかい?それともこのチビスケかい?その辺はっきりしてくれるとありがたいね」

「父ちゃんが商会長で僕が店長、でこの商いは僕が主導で責任者は父ちゃん」

「そうかい親切にありがとうよ」

深くは追求しないでいてくれるのもこの商売柄なのかもしれないなとリチャードは学んだ

「それじゃあ改めまして店長さんどんな奴をご所望なんだい」

「えっとね~」

まるで子供がおもちゃを買うような空気だが実際ここで買うのは奴隷、人種、亜人種、魔人、中には希少な種が居ることも有るがそれはタイミングと金次第、事情は様々犯罪奴隷も居れば金がなくて泣く泣く自ら奴隷になった者や親に売られた者に孤児も居る、居ると言うよりも大半が孤児と言っていい

奴隷、言葉だけで聞けば最底辺だが奴隷の地位は買い主に依る買い主が貴族ならそれに準ずるし、もしも王族に買われれば貴族も横柄なことは出来ない、それは王家の所有物を傷つけるようなもの身分上は最低でも平民に

「奴隷の分際で!」

などと呼ばれることはまず無い、何故なら奴隷を買う人物はそれなりに金を持って地位の有る人物だからだ


だがそれは買われたあとのこと今は布切れを纏っただけで檻に入れられた奴隷でしかない

「こいつは最近入ってきたばかりでまだ活きが良い歳も十二でこれから伸びる、ただ性格には少し難有りだね」

前世の記憶が有って父親であるリチャードには知ってはいても気分の良いものではない、檻の中に入れられている子供が自分の子供であったらと思うと気が狂いそうになる、絶対に商売を失敗出来ないそう思うからこそ聖異物探しを諦めて真っ当で地道な商いを…そう思っていたのにやはり元の商人に戻るべきではと逡巡(しゅんじゅん)してしまう

「父ちゃん!ちゃんと見てよ父ちゃんの部下になる人探しなんだからね」

「すまんすまん」

しかしリチャードは同情から選んでしまいそうで申し訳ないが選ぶ基準を持っている息子に一任してしまいたかった

「具体的に欲しい人材は考えているのかい?」

中々決まらない所為か婆婆が聞いてくる

「腕っぷしが必要だからさっきの兄ちゃんはキープしてるよ、腕っぷしの立つ人と人と話すのが好きな人でしょあとは勉強~は分からないから記憶力の有る人か種族がいいかなその三人が最初の契約をしたいんだ」

「坊…店長そりゃあ値が張るよ下手すりゃ一人で金貨1枚は下らないよ」

「構わないよ、それに即戦力と言うより育てられる人材がほしいな」

「ん゙~どうしたもんかねぇ、一人…と言ってもいいのか一応居るには居るけど傷物でね」

そう言って奥に連れて行かれると

「この子は!」

「ああ四歳のケンタウロスの子供でね、戦争孤児さ一度貴族に売れたんだが走れないといちゃもんを付けて返されたのさ調べてみりゃ脚を骨折しててね大方無茶な事でもやらせたんだろうさ、してやられて泣き寝入りさ貴族が着けた名前はターロス、センスの無い名前さね今なら金貨一枚だよどうする?」

「骨折というのはどの程度なの?」

「ちゃんと看病すれば治るらしいが治るまでに相当金が飛ぶね、だからこの状況と値段なのさ」

ケンタウロスとなれば希少種それも子供本来なら金貨五枚相当で有ることを考えれば相当安いケンタウロスは成長も早く十歳には大人になるため子供は特に珍しい、しかしいつ治るか判らないとなればいくら掛かるかも判らない下手をすれば足が出てしまう、汚れた包帯が巻かれていて痛々しい子供の姿にリチャードは思わず買うと言いかけて留まる慈善事業ではないのだ

「父ちゃんこの子買うよ良い?」

感情に流されないと思っていた息子の一言に驚くリチャード

「父ちゃん酷くない?僕のことなんだと思ってるの?」

傷ついたと言わんがばかりの息子に謝る父

「それに治ればケンタウロスはすっごく強いんでしょ父ちゃんのパートナーならそれくらい強い子じゃないとね」

にっと笑う息子はどうやら同情だけではないらしい計算高い子だ奴隷契約の魔法の印を結び契約を終えるとできるだけ痛くないようにと荷馬車に乗せた

「お姉さんまた来るね」

結局この日はケンタウロスの子一人と契約して終わった本来は数人と契約して帰るつもりだった荷馬車はケンタウロスの子にとって十分なスペースになった

「父ちゃんちょっと待って」

馬車を疾走らせる前に息子が止める

「ちょっとごめんよ、えっとターロスだったよね」

ビクリと体を震わせる子供どうやら名前が嫌というか嫌なことを思いださせるのだろう

「名前は後で考えようね、それで脚を見せてほしいんだけど良い?」

虚ろな目で脚を見せるケンタウロスの子ブルブルと震えている身体には恐怖が染み込んでいるのだと知り合って間もなくとも判るこんな子供に一体どんな酷いことをしたのかとリチャードの拳は強く握りしめられる

「ごめ…ごめんなさい、ごめ…」

急に謝り始めた子供よく見れば床が濡れている漏らしてしまったのだ

「大丈夫、大丈夫、酷いことなんてしない」

言い聞かせるように自分を落ち着かせるようにリチャードは言葉をかけた、息子は包帯を巻き取りブツブツと何かを呟き始めると子供は益々震え上がってしまう、魔法で酷い事をされたのだろう事は察しが着く

「父ちゃん固定できない、お願い可愛そうだけど脚を抑えて」

息子が酷いことをしようとしていないのは判るがケンタウロスにはそんな事わからない、大きな男の手が迫ってくると目を瞑ってしまう、リチャードが触れれば更に痛むのを歯を食いしばる

「…?」

いつまで経っても訪れない痛みにやっと目を開けた彼の眼には自分の足が土の様な物で固められていた、動かせないからか痛みも前よりも少なくなっている

「ゆっくりと宿に向かうから痛かったら言ってね」

何が起きているのか解らずぱちくりと瞬きするケンタウロスの子供

「よっこいしょ」

宿に帰るとリチャードが一人で子供を降ろす、子どもとはいえケンタウロスは重いはずなのだが普通に子供を抱くかのように軽々とそして優しく地面に降ろした

「ちょっと待ってろよ」

流石は領都のそれも領主のお墨付きの宿だ他種族のための部屋まで有る、再度リチャードに抱き上げられたケンタウロスの子供はふかふかの藁の敷き詰められた個室に通された

「飯は食えるか?それとももう寝たいか?」

言葉は少ないが大きくてやさしい手に撫でられると緊張が解けケンタウロスの子供はいつの間にか眠りについていた、目を覚ますと柔らかい藁の上夢じゃないんだとケンタウロスの子供は泣いてしまう次の日も次の日も朝起きては現実だと感じて泣いた

「そろそろ名前を決めようと思うんだけど何て名前がいい?ターロスは論外として」

その名前だけでブルルと体が震えてしまう子供、これは一刻も早く決めてやりたいとリチャードの心は逸る

「二人に決めてもらいたい…です」

言っても良いのかと恐る恐るといった感じで口ごもりながら伝えてみれば

「じゃあどんな感じが良い?優しそう?それとも強そうな感じ?」

「強そうな方が良いと思うぞ」

ぐいぐい来るロバートと言葉少ないリチャードどうやら喋って良いみたいだ

「強そうな感じが…いいです」

うんうん唸りながら必死に考え込む二人

「とりあえずでも…いいです」

「そんなの駄目だよ!名前は大切!」

「うん大切だ」

そう言ってまた考え込む二人、やがてリチャードが

「嫌だったらまた考えるから断ってくれても良いんだがアーノルドはどうだ?」

「あーのるど…」

「やっぱり嫌か」

「ねえ父ちゃんそれって何処ら辺が強そうなの?」

「アーノルド…僕の名前、良い!僕アーノルドが良い」

「そうか気に入ってくれたか、よし今日からよろしくなアーノルド」

「ねえねえ何処ら辺が強そうなの?」

納得がいかないのかしつこいロバート、どうせ言葉では勝てないからか無視を決め込むリチャード

こうして新たな従業員アーノルドと共にリチャード商会は門出を迎えたのだった

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