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4:封印されしもの

初回投稿本日の五話目(22:10)

この世界に現れた聖異物はリチャードが見聞きしただけでも車や兵器といった物に限らず城などの建物まであるという、前世の記憶のあるリチャードからすれば動力源が謎なのだが建物などは信じられないほど明るいという噂を聞いたことも有る、それはおそらく何処かから電気が来ているということだと思ったが中には尾鰭が付きすぎて眉唾なものまで有った

聖異物を手にした者は軒並み国主や領主といった地位を得ているのだとか要するにこの世界の貴族にはその力で成り上がった者が居るということだ夢を見る者が生まれるのも仕方のないことであった

しかしあれほど焦がれた物であったはずなのに今のリチャードは聖異物の調査に突き動かされる様な気持ちは起きなかった、今はこの領主とその娘が寒村にいるという状況の方が異常だからかも知れないが子が生まれる前よりもそういった事に興味が薄れてしまっていたのも事実、なにか悪いことが起きないか周囲の変化を気にする毎日になっていた

「父様?」

「何だその呼び方」

今まで父ちゃん呼びだった息子からの父様は少々気味が悪い

「いや姫様も居るんだし父ちゃん呼びだと何ていうのかなバランスが悪いじゃない」

「そういうもんか…確かにそうかもしれんな」

「慣れてね、それより父様お姫様のことなんだけどやっぱり誰かに狙われてると思う?」

感の良い息子のことだリチャードが感じるくらいなのだから気づいていても不思議ではない

「お前もそう思うか?やっぱりこんな時期に寒村に居るんだから何かしらの事情はあるだろうな」

考え込む息子

「それってさ聖異物も関係有ると思う?」

唐突に出てきた聖異物の話題にリチャードは否定した

「俺としては聖異物に関しては隠れ蓑じゃないかと思ってる、一応探索はしているみたいだがそんな物(聖異物)があるのなら俺の耳に入ってきているはずだ」

なにせそのために商人をしていたといっても過言ではないリチャード、その彼の生まれ故郷周辺で聖異物があるのならば噂位は立つと思ったのだ

「そんなの判んないじゃん、新しい手がかりが見つかったとか」

「しかしだなぁ」

リチャードからすれば子供の頃からずっと探しているのだこの周辺なら尚更だ

「それに聖異物というのは見つけてみるまでどんなものか解らない、そんなものの探索に高貴な人間を連れてくるのは危険なんだ」

「それって言いかえれば危険じゃないって判ってれば連れてこれるってことじゃない?」

どうにも息子に口で勝てる気がしないしびれを切らしたリチャードは結論を急ぐ

「降参だ結局何が言いたいんだ?いい加減教えてくれ」

息子はしばしの沈黙の後に

「あくまでも仮定だけど聖異物を動かすのに必要…とか?」

「そんな話聞いたこと無いがな」

「だから仮定の話!もういい!」

珍しく憤慨してどこかへ行ってしまった息子に子供らしい所もあるもんだと妙な所で安心してしまうリチャードだったが冷静になって考えてみれば何か根拠が有って息子がそんな事を言ったのだと思うべきだった


「全員動くな…音も立てるんじゃない」

リチャードたちは今洞窟の中で動けずにいた、探索チームが見つけたリチャードも知らなかった洞窟、事前調査では危険はないという話もいざ姫様と御婦人を連れて来てみればご覧の通りの有り様、そもそも何故彼女たちを連れてきたのか?彼女達がいるということは勿論我が子達も同行芋づる式しにリチャードもという流れになってしまっていた、現状を考えれば良かったというしか無いのだが

今相手にしている魔物はグラッボス…ワームの変異種というべきか通常ならば数10cm程度の小型の魔物の筈がこの洞窟の環境のせいだろうか?理由は解らないが今の奴は10m近い巨大な魔物と化していてすでに探索隊の二人が殺られた

洞窟の岩の性質が花崗岩に近いせいか地面は崩落した後に風化したせいだろう砂状になっていて柔らかいその上天井は明かりが届かない程高い、奴にとっては潜りやすく動き易い地形そしてこちらにとっては崩落を招きやすく圧倒的に不利な状況

ワーム種には眼が無い有ったとしても退化していて殆ど見えない、代わりに聴覚が鋭く僅かな音にでも反応して襲ってくる

「ロイ…ロイ…何してる」

小声でそう問いかけるのは松明の心もとない明かりでははっきりと見えないが息子が何かしようとしている姿が薄っすらと見えたからだ

「音…向こう…」

手に何かを持っている

()せ止めるんだ」

声を大きく出せない代わりに口を大きく開いて口の動きで言葉を伝えようとするがこの暗がりで伝わっているか解らない

()せ」

石を投げた所で一時しのぎでしか無いそれも子供の腕力では大した距離も稼げない

「…の……力を…」

「止すんだ!」

思わず大きな声を上げてしまったがもう遅い投げた石は洞窟の闇の中へと一瞬で消えた

カッ カッ カツンカツン

一体何処まで飛んだのか石は子供の腕力とは思えない程高く上がったらしく音を立て続ける


キシャァァァ


グラッボスが鎌首をもたげて姿を表したが頭はこちらに見向きもせずに上空を見つめそのまま飛び上がった

「ロレインさんお願いします」

「天の恵みを地にもたらし給え水恵(すいけい)!」

こんな場面で農業に使われる雨を降らす魔法を使ってどうするのか、考えても仕方がないリチャードは弱点の頭部目掛けて剣を抜いたが

「みんな目を瞑って!聖なる陽の力よ闇を退け給え光陣(こうじん)

今度は姫様が明かりを灯す、二つとも日常使いの魔法で攻撃力は無い

「一体何をしているんだ」

余計な事ばかりする子供達とロレンシアに怒号を飛ばしかけてた所で

ギャシャァァァ

グラッボスは地面に倒れのたうち回る地面に潜る様子はない、いや水を含んだ砂のせいで潜れないのだ狙い辛いが地面の中に比べればなんてことはない、剣を突き刺し絶命させる

「見て母様やっつけたわ」

「お嬢様流石です」

婦人とリチャードの二人がほぼ同時に各々の子供をひっぱたいた

「「な、んで」」

見事に子供達の声が被る、婦人は娘を抱きしめ

「どうしてリチャードの言うことを聞かなかったの」

「だって…」

「もし失敗していたらあなたはみんなの命を危険にさらしていたのよ!」

怖かったのだろうリチャードの脚にしがみつくナイラ

「俺が言いたかったこと判ったか?頭の良いお前のことだ退化した眼なら光に弱いと感づいたんだろう、だがな、もし完全に眼が見えなかったらどうするつもりだった?」

「それは…」

ロバートは声を殺して泣くナイラを見て俯いた

「それと魔法だ何処で覚えた?」

「お嬢様と一緒にロレンシア様から教えてもらいました」

ビクリとする息子の頭を撫で

「別にその事で怒ったりはしない、ただこれからはちゃんと俺に教えるんだ、お前に出来ることを知っていれば俺も怒らなかった道理は通っているだろ?」

実際に最初から子供達が魔法を使えて作戦を知っていればリチャードは怒るつもりはなかった

「ロレンシア、あなたもあなたです!魔法のこと何故言わなかったのです」

婦人の方はまだ収まらないようであったが

「シャルデリア様まだ安全と決まったわけでは有りません部下をお叱りになるのは後でお願いします」

命有っての賜物、探索隊の面子にも睨まれたが無礼は二の次だ、そもそもお前たちがしっかりしていればこんな事にならなかったはずなのだから

落ち着きを取り戻し警戒しながら洞窟を進む、安全だからなどと言う奴らの言葉を信じるべきじゃなかった、せめてナイラだけでも家に置いてくるべきだった後悔の念が湧いてくる

キャラバンで団体行動には慣れたつもりだった、皆で支え合わないとやっていけなかったからこそ役割分担も明確でキャラバン(団体行動)の利点を知った、しかしこいつは別物だ探索メンバーに領主の妻と娘に実の子供達護るべき存在しかいないのだ

何故探索に彼女達が同行しているのか理由すら未だに教えてもらっていない、子供達は人質同然で護らざるを得ないなんて不条理極まりない、聖異物という言葉にノコノコと釣られ暢気に

「こんな場所があったのか」

と来てしまった自分も腹立たしい、布を貸してもらいナイラを自分の体に巻き付けた動きづらいが娘を見失うよりはよっぽど良い

どれほど歩いただろう奥に向かうに連れ洞窟には至る所に純度の高い魔力石、これ一つで一年は暮らせるのではないかという品だが彼らは見向きもせずに奥へと進むやがて壁にぶち当たった、明らかに人工的な物だがリチャードが前世で知っているような物ではないもっと禍々しく見える代物、壁にはうねるような模様がびっしりと描かれ壁自体淡く光すら放っていた、どうやらここが目的地のようだリチャードは布を解いてナイラを降ろしてやる

「これは一体…」

「有りましたシャルデリア様こちらへ」

リチャードのつぶやきは無視され婦人がなにかぶつぶつと唱え始める

「…よ…血の……開き給え」

婦人が壁に手を触れ壁が手前に浮かんだと同時に空気が壁の中へと音を立てて吸い込まれ婦人は娘の手を取り中へと姿を消し

「ここで待たれよ」

続いて入ろうとするリチャード達家族は探索隊に制止される、無理してでも入りたいものでもない命令に大人しく従い待つが待てども待てども一向に出てこない母と娘

「いい加減ここが何なのか教えてくれないか」

探索隊の男に声を掛けたときだった

「ロバート!ナイラ!お願い来てちょうだいウェネがウェネが」

切羽詰まった婦人の声

「父ちゃんどうしよう」

「うぇねるひあお姫様!」

ナイラが静止を振り切り中へと飛び込んでしまう

「ナイラ!」

後を追って暗闇に飛びこもうとするリチャードは見えない何かに阻まれ跳ね返されてしまうがロバートはそのまま闇の中へと消えてしまう

「ロイ!ナイラ!畜生どうなってるんだ返事をしてくれ」

闇に向かって剣を突き立てたが無駄だった硬い金属にでもぶつかったかの様に弾き返される

「貴様ら何が起きているのか説明しろ、息子たちに何か有ってみろお前ら全員殺してやる、ロレンシアあんたもだ俺の子供たちを返しやがれ!腰抜けども俺は本気だぞ」

普段寡黙な男剣を握り締めて放つ怒声に空気が震え上がる

「判った話す判ったから落ち着いてくれ頼む」

今までこちらの事を平民と相手にしていなかった隊長らしき男が懇願する、それほどまでにリチャードは殺気立っていた


◆◇◆◇◆◇◆◇


声に反応して中に飛び込んだナイラ、妹だけを危険に晒せない父の静止を振り切ってロバートは暗闇に飛び込んだ


「えっ?」

飛び込んだ先でロバートが見たものは金色に輝く大蛇と宙に浮かび同じく輝く姫様、壁は白一色で清潔な空間、一瞬で暗闇から眩い空間になる不自然な空間

(それが予備の器か?)

異様すぎる空間に理解が追いつかず硬直するロバートに大蛇が喋ったことで更に驚く、しかもそれは頭の中に直接響いたように感じられたが我に返りナイラの姿を探す

「ナイラ!ナイラ返事をして」

「ナイラは娘と一緒よ」

婦人の声に反応すれば輝く姫様の腰にしがみつくナイラが見えた

「これは一体」

「ごめんなさい、娘だけでは器として足りなかった」

「器?どういう事です」

(私から説明してやろう)

金色の大蛇が再び話し始める

(契約者の血を継ぐこの娘だけでは我の力を継ぐには足りんのだ、この娘は耐えきれずに死ぬであろう、しかし貴様も大した器を持っている、そこにしがみつく娘と合わせれば足りるやもしれん)

「契約?僕達三人なら助かるのですか」

(おそらくな、早くせねばそこにいる二人共死ぬぞ)

聞きたいことは山ほどあるしかし時間がない、ロバートが覚悟を決めた途端目の前が光りに包まれて何も見えなくなった


◆◇◆◇◆◇◆◇


視力を取り戻したロバートの耳には父の怒声が飛び込んできた、見渡してみたがもう部屋の中には大蛇は居ない、普段滅多に聞くことのない父の怒声早く安心させなければと声を振り絞る

「父…ちゃん、大丈夫…だから」

「ロイお前なのか?頼む姿を見せてくれ」

「今行くわ」

婦人の声で一気に頭に血が上るリチャード

「あんたにゃ聞いてない」

「お願い今から戻るわだから落ち着いてちょうだいナイラも無事だから」

「無事じゃなきゃ殺してやる」

あまりの無礼に探索隊の面子も腰の剣に手をやるが

「すっこんでろ」

「判った判ったから殺さないでくれ」

一喝するだけで両の手のひらを見せた

「いい?ウェネもロバートもナイラも無事よ全て終わったわ」

「いいから早く姿を見せろ」

暗闇の中から足が出てくる、続いて気を失っているご令嬢に肩を抱いたロバート続いて婦人に抱きかかえられたナイラが姿を表した、それをひったくるようにして奪い返すリチャード

「父ちゃん大丈夫だから…」

とてもじゃないが大丈夫には見えない、ナイラの方は気を失っている

「何をしやがった俺の子供に何をした」

「まずは帰りましょう、話はその後で」

「ふざけるな!今言え」

剣を振り上げるリチャード

「リチャードお願い、子供たちは衰弱しているわ話よりも子供たちが大事、そうでしょう?」

「父ちゃん…お願い…」

震える手で握った剣を突き立て

「クソっ!帰ったら絶対に話してもらうぞ、ぼさっとすんなお前らも手伝えさっさとしろ」

リチャードたちは探索隊の穴をしこたま蹴り上げ洞窟を後にした

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