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3:とんだ来訪者

初回投稿本日の四話目(21:10)

息子の機転のお陰でなんとか時間を稼げた、あとは村長達に丸投げすれば良いだけとリチャードは迎えに向かいかけて戸惑った、息子と娘がご令嬢の左右に居るではないか戸惑うのはリチャードだけではない村長や集まってきた村の上役も一緒だ

「こちらは妹さん?」

「はいナイラと申します、そちらに見えているのが村長、その隣が我が父リチャードになります」

まるで最初からエスコート役に決まっていたかの様に淀みなく振る舞う息子に開いた口が塞がらない

「あまり似てないわね」

失礼な発言だが咎められる者はこの場には居ないだろう

「ウェネルヒアお止めなさい失礼ですよ」

いや居た、その物言いから令嬢の母親であることは言うまでもない御婦人が続いて降りてくる、これで全員で十四人と随分とコンパクトな一団に収まっている

「可愛らしいエスコートですこと、初めまして私はこのコテニック領領主ペネイデス・マーフィードが妻シャルデリア・マーフィード、そして我が娘ウェネルヒア・マーフィード、しばしの間御厄介に成りましてよ」

「ウェネルヒア・マーフィードよ」

母に続いて娘も挨拶こちらは可愛らしくカーテシーをしてみせたがそれどころではない、なんで領主の妻と嫁がこんな寒村のしかも冬にやってくるのだ、村の一同が呆気にとられていると

「失礼いたしましたそれではウェネルヒアお姫様と呼ばせて頂きますね」

「うぇねるひあお姫様!」

驚き無邪気に喜ぶナイラに微笑むウェネルヒアは

「お姫様はちょっとまずいのよね、さっきまでのお嬢様で良いわ」

「うぇねるひあお嬢様!」

「そうそれで良いわ」

ナイラの頭を撫でるお嬢様

「さ、案内してちょうだい、もうお尻が痛くて仕方がないの」

「ウェネはしたないですよ」

どうやらこのご令嬢世間一般に言う高貴なご令嬢とは違う雰囲気を纏っているこれは一筋縄ではいかなそうだリチャードは考えなければならないことだらけで頭を抱えた


「後生だ便宜は図る、どうかこのままあのお姫様の面倒を見てくれ」

村長は深々と頭を下げてリチャードにお願いをしていた、結局その日一日ウェネルヒアお姫様のエスコート係をした兄妹に滞在中のエスコートを村長から押し付けられそうになっている最中だ

成り行き上仕方がなかったとはいえ礼を欠けば向こうの気分次第で首が飛ぶ様な相手のエスコートなど自分の子供にやらせたい親なぞ居るものか、其の為の上役ではないか丁重にお断りするのだが受け入れてもらえない、両親も連れて村を出て行こうかとも考えたが真冬に村を出るのは自殺行為、困り果てていると

「便宜ってどんな事をしてもらえるんですか?」

「ロイは黙っていなさい」

自分の命が掛かっているというのに何処吹く風

「でも父ちゃんこのままじゃ村ごと滅ぶかもよ?」

滅ぶという言葉に村長の顔色は青くなる

「それは…その…そうかもしれないが…」

「頼む!何でもするどうかあのお姫様のお世話をしてくれ、して下さい」

「お嬢様優しいよ?」

なんで揉めているの?とナイラまで話に乗ってくる、息子も娘も妻に似てしまったと言うしか無い人の懐に入るのが巧妙なのだ

ドンドンと扉がノックされ

「よろしいか?」

村の人間ではないおそらくお付きの者の声

「は、はい」

怯え過ぎに見える村長だがそうではないこんな寒村、領主にとっては有っても無くても、いや無くても痛くも痒くもない一つの粗相で息子の言う通り滅ぶのだ、入ってきた人物はやはりお付きの人

「そう、かしこまらないで貰いたい多少の粗相程度で村に何かするつもりはないのだ」

その()()の裁量がそちらにしか無いから困っているのだがそんな事口が裂けても言えるわけもない

「今日の子供達の事で話があるのだ」

「私達のことでございましょうか」

「ましょうか?」

止める前に動く子供達にリチャードの胃がキリキリと痛む

「おお!そうだそなた達今日はご苦労であったシャルデリア様も大変お喜びであった、そこでだ」

誰の喉仏だかわからないがゴクリと息を呑む音がした

「これからも姫様と共に居ていただけないだろうか、御触書にも書いた様に我らは聖遺物も探さねばならなず人手を割けないのだ」

「光栄な話、勿論でございます」

リチャードが答えるよりも早くロバートが答えてしまう、もうこれは躾がどうこうではなく妻の血がそうさせているとしかリチャードには思えなかった

「そうかそうか!今日一日の動きを見ても部を(わきま)えておるしシャルデリア様の覚えもめでたく頼みたいと思っていたのだがそうかそうか」

「はい、こんな光栄なことは有りません、ですが…」

「なんだ?なにが不服なのだ?」

「いえいえなにぶん田舎商人の小倅でございまして姫様のご要望に答えられぬ事のなきようにご指導をいただけないかと」

「感心」

「は?」

「なにその歳で良い心構えだと思っただけのことよ、良いだろうその様に計らうが故なんでも聞きに来るが良い」

ロイはしてやったりといった顔に見えるがどうにもこのお付きからは村長と同じく押し付けたい空気が滲んでいる、相当厄介なお姫様だとリチャードが途方に暮れたのは言うまでもない


翌日も結局二人がエスコート、リチャードと女性のお付きが護衛お触書に有った聖異物の探索はカモフラージュなだけでなく本当に探索も行われていてご令嬢のの周りには、リチャード、ロイ、ナイラ、お付きのロレンシアの四人しか居なかった女性なのは女性しかついて行けない場所があることも関係しているだろうが身のこなしや隙の無さから言っても適任と言える人物だった


「ロイ、ナイラ早く来なさい」

彼女の向かう先には小さいが川が有り出来れば向かって欲しくない方向

「ウェネルヒアお嬢様御覧ください!ウサギがこちらを見ております」

「え?どこ?見えないわ」

「あちらです」

リチャードの目を持ってしても見えなかったことを考えればこれは嘘だが上手いこと誘導している、これにはロレンシアも感心していたが

「ロバート少年もですが、ナイラ嬢のサポートも見事ですね…」

なにか含みを感じるリチャードだがなんと返せば良いのか窮してしまう

その後もリチャードを除くチームワークで巧みに危険な場所を避けさせる面々、ロバートは最初だけ話題を振るがその後は聞き手に回りナイラはサポートや合いの手が上手いロレンシアは二人の体力では出来ないことを補っていてリチャードだけが空気でボディーガードに徹している

リチャードとしてはそれはそれで構わないのだが気がかりなのはお守り云々ではなく何故彼女たちがここに居るのかという事、村長たちはとにかく粗相をしないという目先の問題しか見えていないが商人をしていればそれなりに貴族というものがどんな事をしているのか知っている、冬などは活発ではないだろうがそれでも年末年始となれば重要な催しもあるはずなのにこんな寒村に居るのは不自然極まりない、聖異物を探しに来ている面々も常に緊張感が漂っているしこちらには伝えるつもりのない得体の知れない何かを感じていた


根城として用意されたのは村で一番大きい村長の家、元々宿屋もない農村では客人を泊めるのは村長の家であることが多かった

「つまらないわ、何処か新しいところに行きたい」

それまで見たこともない農村での生活それに新鮮味を感じていたのは数日が限界だったのかウェネルヒアお姫様は唐突にそんな事を言い始めた

「正直に言うと僕もです」

「でしょう!でしょう!」

ロバートが合いの手を入れると同意を得られたことに得意げにそうよね!と喜ぶお姫様、しかし外は吹雪外になど出るなど論外、何か室内で出来ることで我慢してもらうしか無いのだが

「村長さんに地下室か屋根裏部屋が無いか聞いてみましょう」

「地下?屋根裏?」

「ええ、お嬢様の邸宅などで言う隠し部屋とでも言いましょうか」

隠し部屋という言葉に胸踊るお姫様は母親にキラキラとした目を向ける

「仕方ないわね、村長さんが許すのなら行ってらっしゃい」

許すも何も言われたら用意するしか無い、比較的汚れていない屋根裏部屋でしたらと村長が言い子供達はロレンシアと一緒に上がっていった、部屋の中にはリチャードと御婦人だけになってしまいリチャードも邪魔にならないようにと部屋の外に出ようとして呼び止められた

「あなたはリチャードでしたね、唐突な要請に応えてもらって感謝するわ」

「はい」

単調すぎる返事にしまったと思うリチャード、息子の様になにか気の利いた返事をするべきだったと後悔するがお構いなしに婦人は話し始める

「あの子は旦那様に似てその行動的であまり私には似てないの、だからどう対処して良いのか困っていたのだけれど本当にあなたの子供達に感謝しているの」

「そう言って頂き光栄でございます」

無難な受け答えしかでてこない自分が憎いリチャードだったがそれが功を奏したのか婦人は尚も話し続ける、内容を聞いていくうちにどうやらご婦人は赤の他人である自分に子育ての愚痴を聞いて欲しかっただけなのではないかと思えてきた

「元気に育ってくれているのは勿論嬉しいわ、でもその元気を勉強にも向けて欲しいの…これは素朴な疑問なのだけど」

そう言って聞かれたのは男手一つでどうやって子供を育てているのかと言うことと子供達はどうやって文字を覚えたのかということ、少々勘違いされているので家族構成について話せば

「その歳で父親と旅をしているの?妹さんと離れ離れなの?でもそれならば妹さんの方はどうやって文字を覚えたのかしら」

正直に壁に書いた文字表のことを教えるとなるほどと納得する御婦人、発音に関してはリチャードとしても謎なのだが触れないでいてくれた、今度本人に聞いてみようか?

ここだけの話しだけれどと教えてくれたのはお姫様は本を見るのも嫌いほど文字嫌いで家庭教師も既に何人か辞めていて困っていたのだそうだもう一つアドバイスと言うか経験談として興味のあるジャンルの本を与えてみては?とだけ伝えた、子供達が返ってくる頃には御婦人は機嫌が良くなっているように感じられた


何日か共に過ごすうちにリチャードの様な平民からすればお姫様は婦人が言うほど子育てに困る様な子供には思えなくなっていた、確かに想像する高貴からはかけ離れているかもしれないが少々お転婆程度の普通の子供だ、貴族だからこそそれでは困るのだろうが…

「うぇねるひあお姉様…ごめんなさいうぇねるひあお嬢様」

呼び間違えてしまったナイラにウェネルヒアはガバっと抱きつき

「良いのよ良いのよ~なんならずっとお姉様でも良いわ、ん~ナイラは可愛いわねぇ」

こんなご機嫌なお姫様を見たことがないのかロレンシアも婦人も目を丸くした、流石にお姉様は婦人に注意されてしまったがこっそりと二人きりのときはお姉様でも良いわとお姫様が告げていた

それからというものお姫様は頑張った姉として妹に情けない所は見せたくなかったのだろう必死に文字を覚える姿に婦人から再び感謝されてしまうリチャードであったが自身は何もしていない所為だろう

「そこはお姫様の努力の賜物ですので感謝は要りません」

と言い切ってしまう、間違ってはいないが空気は読まない男リチャードは健在だった

ブクマや評価をしていただけると作者が大変喜びます!続きを書く活力になりますので


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