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「俺らも見にいった方がいいんじゃねえの?」

「俺らも見にいった方がいいんじゃねえの?」


 シンゴ先輩がそう言って立ち上がった。

 さすがに僕らも立ち上がって、扉の向こうを見る。

 一応、キリコたちにも声をかけておこうかな……。リンとミヤビがまだタツキ先輩のことをどう思ってるかはわからないけれど。


「キリコ! リン! ミヤビ!」


 僕の声かけに応じてキリコたちが僕らの方を向いた。

 キリコはなんとか立ち直ったように見える。よかった。


「どうしたのー! アユム!?」

「タツキ先輩とサチエさんが戻ってこない。僕らは探しに行くけど。」

「わかったー! 私たちも行くよー!」


 キリコがそう言ってリンとミヤビを立たせる。

 リンとミヤビもしぶしぶといった感じで立ち上がり、再び三人は僕らと合流した。


「はぁ……。まったく面倒ばかりかける男だ。」


 リンが苛立った感じで言った。

 リンは昔から男子に厳しく当たるところがあって怖がられていた。僕にはそんな感じじゃないんだけど……。


「この先、今までとは違った生態系になってる可能性もあります。気をつけましょう。」


 ミヤビが杖を構えて言う。

 キリコが聖剣を持って先頭に立った。次にリンとミヤビが並ぶ。

 その後にシンゴ先輩と僕。体調の悪いヒメコ先輩にアカネ先輩とユキノさんがついた。


「なるべく離れないようにしよう。」


 僕らはいよいよ扉を越えて次のエリアへと足を踏み入れた。



 扉の先のエリアは鍾乳洞のような壁の道が続き、明かりはあるけれど古いのかところどころ切れていて薄暗かった。

 先頭のキリコが首をかしげて聞く。


「一本道?」

「いや、分かれているところがある。これじゃ、タツキ先輩たちがどこにいったのか……。」


 そんな遠くに行くとは思えないんだけどな……。

 右の道の方が暗く、左の道の方はまだ明かりがあり空気の流れも感じられる。


「ダンジョンの探索と考えれば進むのは左ですが……。」


 ミヤビの言うとおりそれがセオリーだけど、タツキ先輩は用を足しにいったのだから右もあり得るか。


「タツキ先輩は何か明かりは持ってたんですか?」


 僕はシンゴ先輩に聞いた。


「ああ、ダンジョン部の装備に懐中電灯があるから、明かりは持ってたと思うぜ。」

「それなら右にもいけるわけですね……。」


 ミヤビが右側に杖を向けて言う。


「右、行ってみますか?」


 ミヤビの提案に僕らは頷いた。

 少し進んで何もなければすぐに引き返せばいい。

 シンゴ先輩が持っていた懐中電灯で先を照らす。

 足下は水が溜まっているということもなくて普通に歩けそうだ。


「広さも充分にありそうっすね。」


 シンゴ先輩が壁や天井を照らしながら言う。

 壁に明かりの切れた外灯が付いているのも見つけた。

 まったくルートから外れているわけでもなさそうだったが、やっぱりこの先に進むには勇気がいる。

 僕らがこの先に踏み出すかどうか迷っていると、急に真後ろからサチエさんの呼ぶ声が聞こえた。


「あ、あ、あ、あ! み、みんな、ここにいたの! 探したよぉ!」

「サチエさん?」

「戻ったら誰もいないんだもん! お、置いてかれたと思ったぁ!!」

「……あー。」


 ちょっと涙目になったサチエさんが僕らに走りよろうとして転んだ。


「い、痛っ!」

「大丈夫ですか?」

「うう……痛い……。な、なんで私がこんな目に……。タツキくんもどこにもいないしさぁ……。」

「え? 会えてないんですか?」


 サチエさんのその一言に僕らは顔を見合わせた。

 タツキ先輩のすぐ後に探しにいったサチエさんも会えていないなんて。


「サチエさんはさっきの分かれ道、左に行ったんですか?」

「う、うん。だって、明るかったから……。え、え、え? こ、こっちが正解だったの?」

「それで会えなかったということは……。」


 タツキ先輩は右側の暗がりの道に進んだということなのだろう。

 外灯の消えた先、どこまで続いているのだろうか。


「進むしかないな。」


 リンがそう言って、ついにキリコが一歩前に踏み出した。

 シンゴ先輩が足下を懐中電灯で照らして進む。

 サチエさんは最後尾についたようだ。


「あ、ヒ、ヒメコさん、大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です……。」


 ヒメコ先輩の様子を気にするサチエさんの声が聞こえてくる。

 サチエさんから見てもヒメコ先輩の体調は悪く見えるらしい。


「あ、あ、あのね……ヒメコさんに私、聞きたいことが……。」

「……すみません。あとでいいですか……?」

「あ、うん……。た、体調悪いのに、ごめんね……。」

「いえ……。」



 数メートルくらい進むと道の両脇にそこそこの広がりがあるのがわかった。

 シンゴ先輩が左に懐中電灯を向ける。


「変なところに入っちゃったんすかね?」


 明かりに照らされて地面の凹凸が不気味な影を作った。

 ここまでの間にモンスターが出る様子もなく、タツキ先輩に繋がる手がかりも何もない。

 

「この先って、行き止まりっすかね……?」


 シンゴ先輩が雑に動かした懐中電灯が一瞬、少し先の地面に何かが落ちているのを照らした。


「あ、あれ?」


 僕は嫌な予感がしてまた血管が収束するような緊張を感じた。

 シンゴ先輩の懐中電灯の持つ手が震えているのが地面を照らす光の動きでわかった。


「……う、嘘っしょ? タツキ先輩?」


 シンゴ先輩が恐る恐るそれが何か確かめるように懐中電灯で照らす。

 地面に倒れている者の姿を懐中電灯は順番に照らした。

 右手。黒い頭髪。左手。背中。また頭……後頭部だ。赤く濡れている。タツキ先輩の……。


「う、うわあああ!」

「きゃああ!」


 タツキ先輩が頭から血を流して倒れていた。

 ど、どうして!?

 ユキノさんが僕の袖を掴む。

 最初はさすがに驚いて固まっていたミヤビが、意を決したという風に倒れているタツキ先輩にゆっくり近づいていく。

 ミヤビはタツキ先輩を観察した後、腕の脈と首に手をおいてから僕らに言った。


「死んでます……。」

「な、なんで?」

「後頭部への打撃……。何かが頭に当たった? いや、近くにそれらしい物はありませんね。では、誰かに殴られた? 誰に……?」


 ミヤビは何かを考え込んでいるようだった。


「そ、そんな……タツキくん、し、し、し、死んじゃうなんて……私がこっちを選んでいれば……。」


 サチエさんがタツキ先輩に近寄ろうとする。


「あなたは動かないでください!」

「え……!?」


 ミヤビがサチエさんに向かって大きな声で言う。


「あなたは容疑者です。あなたならこの人を殺してから私たちが来るまで隠れている時間があった。」

「そ、そ、そ、そんな……! わ、私がそんなことするわけないよ!」

「もちろん白の可能性もあります。まだ動機もわかりませんし。ですが、あなたは何か隠していますね、サチエさん。信用できません。」

「そ、そ、そんなぁ……。」

「他のみなさんもその場を動かないでください。」


 ミヤビが眼鏡をくいっと持ちあげて言った。


「スキル『トラップ探知』。」


 ミヤビの眼鏡が淡く白く光る。

 あ……、ミヤビの眼鏡ってダンジョンアイテムだったんだ……。

 トラップ探知のスキルを使ったミヤビが周囲を見渡す。


「トラップの痕跡……ありませんね。……いや、これは……。」


 ミヤビが倒れているタツキ先輩の下の床の辺りを凝視する。

 それから僕らが立っている辺りの地面と、周囲の壁を見渡した。


「みなさん、ここから離れてください!」


 ミヤビが叫ぶのと同時かそれより早いか、壁が回転して大量の『ゴブリン』が僕らのいるエリアに飛び込んできた。

 ゴブリンたちは手に松明と棍棒を持っていた。


「ま、まさかタツキ先輩を殴ったのはゴブリン!?」


 ふいを突かれた僕らは戦闘態勢に入るのが遅れた。

 キリコとリンだけが襲い来るゴブリンたちを切り倒していった。

 僕はユキノさんを庇いながら慌てて剣でゴブリンの頭を叩く。

 ゴブリンたちの奇声に紛れてサチエさんの声が聞こえる。


「な、な、な、なんで、このダンジョンにゴブリンが……? わ、わ、私はそんなの知らない……!」


 でもそんなの気にとめる余裕なんて僕にはなかった。

 ゴブリンには知能があるし武器も使う。Dランクのモンスターじゃない。


「くっ……。生身でゴブリンはキツいな……。」

「アユムくん……!」


 僕もユキノさんもゴブリンからの攻撃を払うだけで精一杯だ。

 それはシンゴ先輩もアカネ先輩も同じだった。

 キリコとリンは一匹ずつだけど着実にゴブリンを倒していった。

 そうだ。ミヤビは……?


「きゃあっ!」


 僕らから離れたところにいたミヤビがゴブリンに囲まれて、髪をひっぱられている光景が目に入った。


「ミヤビ!」


 やばい! ミヤビは攻撃のスキルを使えない。もともと力だって強くないし、今は生身の華奢な普通の女子だ。


「キリコ! ミヤビを!」

「ミ、ミヤビちゃん!?」


 ダメだ。キリコの周りにゴブリンたちが集まり過ぎている。

 リンはミヤビとゴブリンが近すぎて矢を打つのを躊躇しているようだった。

 ミヤビを襲うゴブリンたちはミヤビにまとわりつき、ミヤビの服を引っ張ったり破ろうとしたりして夢中になっていた。

 

「汚い手で私に触れないでください……! ……あっ!」


 ミヤビがゴブリンに押し倒される。

 くそっ、僕に何かできることは……。

 そうだ。炎の宝珠で使えるスキル。どんなスキルが使えるんだ?

 ヒメコ先輩が使っていたスキルは何だった?


「Dランクの炎スキル……『炎球』。」


 僕は近くにいたゴブリンに対して手をかざしスキルを唱えた。

 ボォウっと一匹のゴブリンの頭が燃える。


「ギィッ!?」


 ゴブリンが断末魔の悲鳴をあげた。

 よし、これなら。

 僕はスキルを連発してゴブリンたちを燃やしてミヤビの元へと向かった。


「ミヤビ! 今行くから!」

「アユム……!」


 ゴブリンに押さえつけられ地面に伏したミヤビが僕を見る。

 はぁ……はぁ……スキルの連発は身体の負担がきつい……。

 ミヤビまでの距離が遠い……!

 僕を見るミヤビがふっと笑った気がした。


「アユム。どうか私のために無茶をしないでください。」

「ミヤビ……!?」

「これを渡しておきます。私は大丈夫ですから。」


 ミヤビはそう言うと、かけていた眼鏡を外して僕のところに向かって放り投げた。


「ミヤビ!? 何を……!?」


 淡い光に包まれたミヤビが手を伸ばして、タツキ先輩が倒れている場所の床を押したように見えた。


 ドオーンッ!!


 次の瞬間、轟音と共にタツキ先輩を中心にミヤビがいた周辺が爆煙に包まれた!


「う、うわあ!」

「ギィ!? ギィ!?」


 ミヤビに取り憑いていたゴブリンたちの残骸が周囲に飛び散る。


「ミヤビ!? ミヤビ!!」


 そんな……!? タツキ先輩の死体の下に地雷型のトラップが仕掛けられていんだ……。それをミヤビは見つけて……。

 なんでDランクダンジョンにトラップがあるんだよ!

 いや、モンスターハウスがあったんだ。当然トラップにも注意しないといけなかったのに、僕は……!

 ミヤビ……! ミヤビ……!


「待って、アユム!」


 僕がミヤビのいた場所に駆け寄ろうとしたのをキリコが止めた。


「キリコ! ミヤビが!」

「大丈夫! ミヤビちゃんなら大丈夫だから!」

「……え?」


 気付くとゴブリンたちはキリコとリンの手によって壊滅させられていた。

 リンが言った。


「脱出用スキルだ。爆発の前にミヤビが発動するのが見えた。」

「あ……そうか、あの光は……。」


 キリコたちは僕らとは違って緊急脱出用スキルをまだ残していたんだ……。

 地雷型トラップは触れただけでは作動せず、対象が離れた瞬間に爆発する。押したミヤビが脱出してトラップの上から消えたから爆発したのか。

 なら、ミヤビは無事……。よかった……。

 キリコが僕の頭を撫でながら聞いた。


「アユム、安心した?」


 リンがフッと笑って言った。

 

「アユムがそんなに心配してたなんて知ったら、ミヤビはきっと喜ぶと思う。」

「……リン、からかわないでよ……。」


 僕は急に恥ずかしくなった。

 ミヤビが投げてよこした眼鏡を拾う。

 確かトラップ探知のスキルが入ってるんだっけ?

 眼鏡をかけてみると周囲がぼやけて見えた。

 これ、度が入ってるじゃないか……。ミヤビのやつ、ダンジョンアイテムを普段使いしてるのかよ……。

 さすがにかけるわけにはいかないので胸ポケットにしまうことにした。トラップ探知のスキルは別に眼鏡にしてかけないといけないわけではない。



 倒されたゴブリンたちが煙になって消えても、後に残された僕らは疲弊していた。

 それはタツキ先輩の死という現実も大きかった。

 タツキ先輩の死体はトラップの爆発に巻き込まれたせいで無残な姿で残されていた。


「……なんなんだよ! 俺らも殺されるのかよ!?」


 シンゴ先輩が叫ぶ。


「う、うう……。もう帰りたい……。」


 アカネ先輩が膝を抱えて泣いている。

 ヒメコ先輩についていたユキノさんがヒメコ先輩に声をかける。


「ヒメコ先輩、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ、はぁ……。タ、タツキくんも、林先生も、次は……はぁ、はぁ……。」

「ヒメコ先輩……!?」


 さすがにヒメコ先輩の様子もおかしくなっていた。

 相当、精神的にまいってしまっているように見える。

 サチエさんも黙ってゴブリンが出てきた壁を見つめているのが不気味だった。

 ミヤビはサチエさんを容疑者と言ったけど、結局タツキ先輩を殺したのはゴブリンだったに違いない。

 もしかしたら林先生を刺したのも……。

 ダンジョンマスターはDランクダンジョンのルールを曲げてまで僕らを殺そうと言うのだろうか?

 いったいなぜ……。


「コン。ミヤビと連絡取れないかな?」


 あの時、ミヤビが僕にいずれすると言っていた話は何だったのだろう?

 ミヤビは何かに気付いていたのだろうか?

 ミヤビが端末をダンジョン内にも持ち込んでいるならコンを通じて連絡が取れると思うんだけど……。


『アユムさん。ミヤビさんの端末はダンジョンの外に置かれたままです。ミヤビさんと連絡は取れません。』

「そうか……。ミヤビは無事なんだよな?」

『はい。ミヤビさんの身につけている機器との接続は感じられます。今は最初のエリアにいらっしゃるようです。』

「……ならいいよ。コン、ありがとう。ミヤビに何かあったら教えて。」

 

 ミヤビと話ができないのは残念だけど、無事が確認できたならそれでいい。

 僕らは早くダンジョンを攻略してこのダンジョンを脱出する。

 ダンジョンマスターになんか絶対に負けない。



-------------

 登場人物


 天童アユム……Dランクの剣。炎の宝珠で炎のスキルも使えるようになる。

 白神ユキノ……鉄のメイス。ヒメコを支える。

 成澤タツキ……後頭部を殴打されて死亡。

 厚田ヒメコ……体調が悪化。精神的にまいっている。

 水野シンゴ……自分も殺されるかもしれないと不安になる。

 日崎アカネ……帰りたいと泣く。

 九藤キリコ……自信を無くすが立ち直る。聖剣でゴブリンを殲滅。

 高井リン……弓矢でゴブリンを殲滅。

 斉藤ミヤビ……脱出用スキルを使い脱落。

 飯田サチエ……ミヤビに容疑者扱いされるがゴブリン出現により容疑が晴れる? 

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カクヨムコン10に参加しています!
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