想い続けた初恋 After ー 第三王子アレクシスのその後
『短編:想い続けた初恋』
https://ncode.syosetu.com/n0788jq/
を読了後にお読みください。
アレクシス・ルーウェン第三王子は、宰相レンティス・アーデンとリアナ・エリンドールの結婚が正式に決まった翌日、晴れやかな顔で王宮を後にしていた。
「やれやれ。これで僕の出番は終わりだな。」
王宮の廊下を歩きながら、彼は満足げに伸びをする。
もともと結婚に関心がなかったアレクシスにとって、リアナとの婚約破棄はまったく問題ではなかった。むしろ、「お互いに無駄な時間を費やさずに済んだ」と思っていた。父王に婚約解消を告げたときも、アレクシスはあっさりとした態度でこう言ったのだ。
「結婚のことは全部父上に任せるよ。僕は政治も社交も興味がないから。」
その無責任な宣言に、王は頭を抱えた。
「お前はもう少し王子らしく振る舞えないのか?」
「王子らしさなんて、時代遅れだよ。」と、アレクシスは飄々と答えた。
婚約解消後、王宮での彼の自由さはさらに増した。父王は「もう次の婚約候補は探さない」と宣言し、アレクシスもそれに何ら異論を挟まなかった。
代わりに彼が夢中になったのは、「自分の好きなことを見つける旅」だった。
「さて、少し外の世界を見に行くか。」
アレクシスはその足で、たった一人で小さな荷物をまとめ、旅に出る決意を固めた。兄たちが政治と王位継承に取り組む中、彼は何もかもから自由になりたかった。肩書きも、責任もない、自分だけの時間を探す旅だ。
アレクシスの旅は、彼の予想を超える充実したものになった。
各地の市場を巡り、時には酒場で歌い、騎士団の訓練場に飛び入り参加することもあった。彼は多くの人々と出会い、彼らの人生を垣間見ながら、王宮の窮屈な世界を忘れていった。
あるとき、小さな村で美術品を修復する女性と出会う。自由奔放で、どこか自分と似た風を持つその女性に、アレクシスは次第に心を惹かれるようになった。彼女は王族だと気づかずに接してくれる数少ない人で、ありのままの自分を受け入れてくれることに心地よさを感じた。
「結婚なんて興味がない」と言っていたアレクシスだが、彼女と共に過ごす時間が増えるにつれ、少しずつ考えが変わっていった。
「もしかすると、結婚も悪くないかもな……」
ある夕暮れ時、村の丘で彼女と肩を並べて座りながら、アレクシスはぽつりと呟いた。
旅から数年後、久々に王宮へ戻ったアレクシスは、すっかり別人のようだった。自由を謳歌し、自分の道を見つけた彼の表情には、かつての退屈そうな影はもうない。
「お前が戻ってくるとは思わなかった。」父王は驚きながらも、少し嬉しそうに言った。
「まあ、色々あったけどね。」アレクシスは笑みを浮かべた。「ただ、結婚のことはもう自分で決めるよ。今度は父上に丸投げしないから安心して。」
その言葉に、王は思わず吹き出した。「お前がそんなことを言う日が来るとはな……。」
アレクシスは再び王宮を離れる前、宰相とリアナ夫妻を訪ねた。宰相レンティスは相変わらず冷静な表情だったが、彼の隣で幸せそうに微笑むリアナの姿に、アレクシスは安心した。
「お二人が幸せそうで何よりだよ。」彼は冗談めかして言った。「あのとき婚約を解消して本当によかった。」
リアナは微笑みながら、「殿下のおかげです」と礼を言った。レンティスは少し照れくさそうにしながらも、静かに頷く。
「僕も新しい旅に出るつもりだ。今度は誰かと一緒に。」
そう言い残し、アレクシスは軽やかに手を振って去っていった。
アレクシスは、自由と愛を求める旅の中で、自分らしい人生を見つけた。王宮のしがらみに囚われることなく、彼は自分の足で未来を切り開いていく。
そして、その未来には、彼の隣で笑い合う新たな伴侶との幸せな生活が待っているのだろう。
物語の終わりに、王宮の空は穏やかに晴れ渡り、アレクシスの笑顔が光の中で輝いていた――彼の新たな未来を祝福するかのように。