5 謁見
その後、あたしは半ば無理やり王前に引きずり出されることとなった。
もうワックテカ状態の執事長には、エスパダスの聖剣はスケッチ等が残されていなかったものの、文献から推測された予想図が何通りかあるとか、生きているうちに聖剣が見られて嬉しいとか、そういう話を廊下で聞かされた。
いきなりの面会だが、エスパダスの王は代々ゆるい態度で有名で、使用人とか城の関係者なら割とすぐ顔を合わせることができる。
側近を通してのアポは必要だ。それにしても『今からいいですか?』『いいですよー』ってなもんで、簡単な感じだ。
呑気な国民性ってのもあると思うけど……。
しかしそれにしてもちょっと不用心すぎないかな。謀反なんかを起こすつもりは毛頭ないけど、あたしなんか今日剣持ってるよ?
そんなこと考えてるうちに王の間に到着した。剣の一時預かりとかもなく、そのまま通された。
部屋を半分に割るように赤い絨毯が敷かれ、精緻な装飾が施された壁、天井に吊るされたシャンデリア……エスパダス王国一金がかかっている部屋と言うだけあり、城で働いてなかったらあたしには一生縁がなかっただろうと思うような場所だ。
「王様、ただいま参上致しました」
赤い絨毯をたどって……部屋の奥の玉座に鎮座する、王冠を被った初老の男性が王様。その隣の、ルティナ様をそのまま大きくしたような美人が女王様だ。
ルティナ様とはそれなりに仲良しのあたしだけど、まだ王様と女王様には会う度ビビってしまうところがある。歳が離れてるからかしら。
「じいや。話というのはなんだい?」
「じいや呼びはおやめくださいませ、王様」
王様は執事長には小さい頃から面倒見てもらってたって話だ。執事長は困ったように注意するが、女王様はそれを見て笑う。
「まあまあ、いいじゃない。それで今日は、レイデさんもいらっしゃるのね。お話は彼女のことかしら?」
「そうです。……先日、裏庭の倉庫の鍵を発見したと報告致しましたが……本日この彼女掃除をさせましたところ、なんと今度は彼女が聖剣を発見致しました」
「ええええ!! 聖剣ンン!? 見せてくれるかな」
王様は執事長の言葉に目ん玉飛び出しそうな勢いで驚いた後、何事もなかったかのようにあたしに笑顔を向けた。
「……こちらです」
捧げものをするかのようにあたしは剣を両手で持ち上げて見せる。王様は、おお……てな感じで目を輝かせていたが、女王様は値踏みでもするかのように目を細めたのがわかった。
「……たしかに特徴は一致していますが……聖剣であるという証拠は?」
「では……王様と女王様、この剣が鞘から抜けるか試してください。これが本当に聖剣なら、選ばれた聖女にしか抜けません。……レイデ、剣を貸してください」
あたしは頷いて、執事長に剣を渡した。そのまま執事長から王様たちに側近を通して横流しして、結果はお察しの通り。
最終的には王様と女王様でそれぞれ端っこ持ってんぎぎぎ……って引っ張ったりしてコントみたいになってたけど、やっぱり剣は抜けなかった。
「……すごいねえ……全く抜けない……」
「もう……十分、堪能したわ……。……さあ……レイデさん、抜いて見せて……」
「……承知しました」
2人は再び玉座に戻りぜえはあ言っていた。ちょっと心配になりながらも、ドキドキしながらあたしは再び頷いた。
……さっきの2人の姿を見てると、あまりにも抜けなさそうすぎるから、あたしが試す時も全然抜けなくなってたりしたらどうしよう。とか不安になっちゃったりして。
あたしは剣の柄と鞘を掴んで、ゆっくりと力を込め引っ張った。シャキンという音を立てて剣はあっけなく抜けた。
「……」
しかしなんか微妙な空気になったから、完全に抜いた剣を鞘に戻して、もう1回抜いて、そしてまた戻して見せた。
「これは……本物だね」
「……そのようね」
さっきまではしゃいでいた王様も剣を抜くのに疲れたのか、一拍置いてから静かに女王様と目を合わせて頷いた。
「ではやはり、エスパダス王国二代目の聖女は彼女ということに?」
「そうなるね」
執事長の確認に、王様はしっかりと頷いた。
「……エスパダス王国二代目聖女、レイディーン・マリアライト! みんな拍手!」
そんなでかい声で宣言せずとも聞こえますって! 王様が高らかに言い放った瞬間、部屋にいた側近や兵士たちがあたしを見て拍手し始めた。
「おめでとうございます、レイデ!」
「今度パーティーにしましょうね」
執事長まで。女王様そんな、恐れ入ります……。
しかしそんなに言われても……大層なものじゃないし……とかなんとか思いつつも、こう持ち上げられるとついつい良い気になっちゃうのだった。だって小物だもん。
「い、いやー、それほどでも!!」
たまたま剣見つけたのがあたしだったからって可能性もあるけど、とりあえず照れとこ。
しばらく拍手の中で後頭部かきながら笑ってたら、扉が開いてルティナ様が入ってきた。
「あれ? みんなどうしたの?」
「あらルティナ。レイデさんが聖女になられたのよ」
「ど、どういうこと……?」
ルティナ様は頭にはてなを浮かべていた。そりゃそうだ。いきなりそんなこと言われたって理解に苦しむ。
「……今朝、執事長からお話があるって教えてくださったでしょ? その時、倉庫の掃除をすることになったんですけど……その、裏庭の倉庫に聖剣があって、それにあたしが選ばれたみたいなんです」
「そ、そうなのね」
改めて説明してみると一日の間に色々ありすぎだ。人生変わりつつあるかもしれないのに実感全然ないし。
聖女ってカッコイーけど実際何する人なの?伝説では厄災を打ち倒したってことになってるけどそんなもん今ないのに。
あと今の説明でわかっていただけたかな。なんとなく納得したような顔に見えるので、多分大丈夫だと思うけど。
「……そうだ、ルティナ様も抜いてみますか?」
「え?」
ルティナ様はあたしの提案を聞いて、何気なく剣に視線を落とす。
……しかし、その瞬間ルティナ様の顔色が変わった。 ……ように見えた。
「……遠慮しておくわ。貴重なものみたいだし、わたしは非力だから落としたりしてしまったら大変だもの」
「そうですか」
それを誤魔化すかのように、ルティナ様は僅かに早口気味に答えた。あたしは何も気付かないふりをした。