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聖女マストダイ  作者: 深山セーラ
第一章 旅立ちの時
3/28

3 秘匿

 今いるのが5階だから、倉庫に行くには1階まで降りなきゃいけない。


 途中1階の物置部屋に寄って、大っきいゴミ袋を何枚かと、倉庫の中は暗いだろうから灯ももらっていく。


 裏庭に出る扉に続く廊下を歩きながら、つい色々考えちゃう。


 ……よくよく考えたら、100年締め切ってた城の倉庫を使用人1人に開けさせるとか、ちょーっと不用心な気もするけどー……。


 ここで勤め始めて5年くらいだし、信用されてるってことなのかな。そうだったらうれしいなあ。


 ……うん、そう思っとこう。


 裏庭の扉を開けると、眩しい朝日が差し込んできた。さっきも思ったけど、今日はいい天気だ。雲ひとつないし、ぽかぽかしてるから午後はねむくなっちゃいそう。


 木々が風に揺れてさわさわと音を立てる。倉庫は城の裏の方にあるんだけど、ちょっと奥に進むとすぐにあるはずだ。あたしはわくわくしながら道を歩いていった。


 少し行くと庭の端に小さい一軒家くらいの倉庫が建ってるのが見えた。外側の掃除は定期的にしてるって話だから、壁も屋根も鮮やかに塗り直してある。


 扉の近くに寄ってみる。……鍵穴にホコリが。


 倉庫の根元に生えっぱなしだった猫じゃらしを引っこ抜いて、それでホコリを取った。猫じゃらしをポケットから出した鍵に持ち替えて、そっと鍵穴にさした。


 ……古い鍵だから、乱暴に扱ったりしたら折れちゃうかもしれないし。慎重に……


 ゆーっくりと鍵を回す。カチャって解錠の手応えを感じたあと今度もゆーーっくりと鍵を引き抜いた。


 取っ手をぐい、と引いた。しかし開かない。


「え? あれ? ……お?」


 開き戸かと思ったら引き戸だった。この見た目で!? 100年開いてないだけあって、扉を引っ張って横にスライドさせるとゴリゴリゴリ……って地面と扉が擦れる音がして怖すぎる。


「んん゛……ッ」


 取っ手はそんなに簡単にとれそうなかんじじゃなかったから、力ずくでこじ開ける。


 ホコリ臭いし、なんかむわっとしたやな空気がこもっている。灯をつけて中を見回す。ごちゃっとしているのかと思ったら、意外とそうでも無くて、しっかり片付いてる感じだ。それに、思ってたよりも物は少ない。


 首だけ突っ込んで中を見てみると、まわりはコンクリート打ちっぱなしみたいな感じで、天井見上げたら模様が怖くてゾワッとか、そういうのもない。よかったぁ~。


 今度は恐る恐る足を踏み入れる。砂埃が僅かにふわっと立ち上がった。


 ……やることは、中身の検品かな。それで貴重そうな物があれば報告、手入れが必要なものは必要な処理をしてからまたしまう……って感じ?


 とりあえず奥の左側の方にある大きな箱を持ち上げてみる。ガチャ……という音が鳴った。じゃあ中身は食器とかかな。


 しかし倉庫の中は暗くてちょっと怖いので、とりあえず物を外に運び出してから箱の中身を見ようかな。その方が明るいしよく見えそう。


「んよいッ……しょ……」


 倉庫の中と外を行ったり来たりして箱を運ぶ。……あ、ギャグじゃないからね。5つ目くらいまで運んでから再び倉庫の中に戻った時、床の変な模様?線?に気づく。


「なにこれ?」


 さっきまでは箱が置いてあって見えなかったけど……砂埃を足で蹴り除けてみると、1mちょいくらいの長方形の床下収納になっているみたいだった。


「まだ全然荷物置けそーなのに。なんで床下収納なんか……」


 荷物は倉庫の床の半分もなかった。つぶやきながらしゃがみこんで、取っ手とかがないか探ってみる。しかしさらにホコリを除けてよく見ると、取っ手とかはなくてただ床に板が嵌めてあるだけのようだ。


「外せないかな……」


 そう思って辺りを見回すと、革のケースに収納されたノコギリが近くの箱の裏と壁の間に置いてあるのに気づく。


 ひらめいたあたしは、床下収納の板と床の隙間に、ケースから出したノコギリを差してグッと力を入れた。すると板がガ……と音をたてて少し浮いたので、ノコギリを持たない方の手でそのまま起こすようにして退かしてやった。


 板をそのまま床に倒すと砂埃が舞って思わず咳をする。手の甲を手元にやりながら肝心の床下の方を見れば、臙脂色の箱があった。


 一応防腐剤が塗られているような艶がところどころ見られるものの、黒ずんで結構端っこもボロくなってたり。持ち上げようとすると見た目に反してやたら重かったから、じゃあとりあえず開けるだけ開けようって思ったら鍵しまってるし。だめだね。


「ん~~……ッ」


 しかし開かないってわかっててもついつい試しちゃうのだった。箱の蓋を掴んでぐいーーっと引っ張る。すると、パキンという音と共に箱の蓋を持ったままあたしの体も後ろに転げた。


 ……うー、嫌な音。


「げっ、壊れてる……」


 箱にかけられていた鍵が錆びていたせいか壊れてしまっていた。せっかちってほんと得しないよ~。


 ……でもさ、流石に錆びてたからとはいえ普通の女の子がちょっと引っ張っただけで金属がこんな簡単に壊れたりする? 元々近いうちに壊れる運命だったのよ。そういうことにしておこう。


 箱の中には薄い紫の紙……布? に包まれた何かがあった。それを今度は破れないよう、箱のそばに座ったまま慎重に除ける。


「これは……剣?」


 紙のしたに覗いたのは、鞘に収まった錆びた剣だった。柄や鞘には鱗のような精巧な装飾が施され、ボロボロの箱に突っ込まれてた割には素人目に見ても価値があるように思える。


 好奇心から恐る恐る剣を手に取る。やたら重い箱だなーって思ったらこれのせいだったみたい。


 膝の上に剣を横にしてのせて、鞘からそっと引き抜く。しかし刃もばっちり錆びていた。


 箱を取り出そうにも無理……っていうか、そもそも箱の下部分は地面にくっつけられてるみたい。あたしは諦めて、床下収納を元通りにしたあと、剣を持って倉庫を出た。


 置いておいたいちばん大きな箱に立てかけるようにして剣を置いたあと、外に運び出したばかりの箱の中身を確認しにかかる。


 とりあえずひとつ手頃なサイズのやつを開けてみるけど……


「なにこれ」


 元は食器かなにかだったらしい、割れた陶器が箱の半分くらいまで詰まっていた。ガラクタじゃない!?


 ……いや、でも100年くらい締め切ってたんだから、食器まとめて仕舞ってあったのが地震とかで割れちゃったのかもしれないし。


 城の倉庫に大事に仕舞ってあったってことはもしかしたら結構いいブランドの食器とかだったりして…… とはいえ、割れてちゃ価値もないのかな。


 ブランドの証がお皿の裏とかに印字されてないか欠片を確かめようと、箱の中に手を入れた。……ここには書いてない、これにもない……


「いてっ!」


 しばらく探してたらうっかり破片で指を切っちゃった。慌ててエプロン越しにもう片方の手で傷口を抑える。


 血が止まるまで待ったあとはまた箱の中を探る。でもめぼしいものは見つからなかったし、それに触ってみてわかったけど、長期保存で劣化していることを除いてもあまり質のいい陶器じゃないように思った。


 なんでこんなガラクタ大事に仕舞ってあったのかな……昔の人が考えることって、よくわかんない。


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