6 勧誘
……冒険者ギルドって、登録者への仕事の斡旋してくれるらしい。だから冒険者になれば旅しながらお金を稼ぐことができる。
しかし、細かい金額までは知らないけど、ある程度お金出さないと登録できないらしい。今の全財産、23円。どう考えても無理。
「……えー、今やること。お金稼ぐ、図書館行く、手紙出す、服買う、髪は切ったし……冒険者ギルド行くにしても23円しかないし……」
便箋とか服買うお金もないし、消去法で図書館に行くしかない。少し距離があるけど北の方に移動すれば隣町に図書館があるって、宿屋の壁の観光地図に描いてあった。
ここの町もそれなりに活気があるけど、ココと会ったスタッド程じゃない。ちまちま人とすれ違うくらい。メモとにらめっこしながら歩いていると、ルークに肩を掴んで引き寄せられた。
「ご主人っ」
「うわっ」
相変わらず骨と皮と筋肉しかないようなルークの体にくっつくような状態になる。あたしがぼーっとしてて人にぶつかりそうになったとこを助けてくれたっぽい。
「だいじけ?」
「う、うん……」
『前はよく見て歩け。情けないな』
「しょうがないでしょ! 一寸先は闇なんだから! ふつーこんな状況で呑気に歩いてなんかられないわよッ!」
いきなり失業して次の一食すら危ういんだから、全然厳しすぎる。剣はご飯食べないんだから、お気楽なもんだ。
「ねえねえ、お嬢ちゃん。よかったらうちのお店で飲んでかない?」
「えっ?」
頭に来て右手のレイを睨んでたら、誰かに声をかけられた。目の前が急に暗い。顔を上げたら、いきなり目の前に巨乳! 黒いミニワンピースからはみ出しそうだ。
身長2mくらいあるように見える。ヒール抜きにしてもルークと同じくらいの高さで、ずいぶんデカいお姉さん。ワンピースのスカートがめちゃくちゃ短くて、健康的な肉付きの生足が惜しげも無く晒されていた。
ウェーブがかった黒髪を背中に流すように手の甲ではじくと、頭のうさ耳カチューシャが揺れた。彼女は返事を待ってあたしを見下ろしている。
「……あ、え、でも、あたし今お金持ってなくて……」
「大丈夫よ! 一寸先は闇なんでしょ? ツラいことは飲んで忘れちゃいましょ♡」
さっきの聞かれてたんだ……。お姉さんは固まってるあたしの肩を掴んで、豊満な胸を顔の近くにぐいぐいしてくる。なんて強引なキャッチ。身長差を活かした攻撃。ひえー。
「ど、どーすんべ、ご主人……」
「あはっ、そっちのコもおいでよ。サービスしちゃうよォ?」
お姉さんはあわあわしてるルークに向かってばちこーん! と星を飛ばし華麗にウインクして見せた。これにはルークも固まってしまい、あたしたちはドギマギしているしかない。
レイなんとかしてよー! あたしの体好き勝手乗っ取れるんだから巧みな話術で上手いことお姉さんを撒いてくれればいいのに、こんな時に限ってだんまりである。
お金無くても大丈夫なんて、そんな上手い話あるわけがない。逃げよう……と思ったんだけど、お姉さんの力が思ったより強い。肩を掴む手にじわじわと引っ張られて行っているような感覚がある。
「あ、あの……ハレンチなお店ではないですよね……?」
上目遣いに恐る恐る確認すると、お姉さんは一瞬きょとんとした顔をしたあとまた笑いはじめた。お姉さんの胸があたしのほっぺたに当たる。
「そんなんじゃないわ、ちっちゃいコからおじいちゃんおばあちゃんまで楽しめる健全なお店よ!」
ほんとかなあ〜!? キャッチのお姉さんがこの格好じゃ信じられるものも信じられなかった。
……あれよあれよという間にお姉さんに連れてこられたお店。扉を開けると太陽光が射し込む形になる、外よりも僅かに暗い店内。
あたしたちから見て手前にはテーブル席、奥にはカウンター……なんだけど、そこにいるいかつい人たちが一斉にこっちを見る。騙されたっ! こんなんなら無理やりにでもお姉さんを振り払って逃げてくるんだった。ハレンチっていうか、アバランチ。
「2名様ご案内〜!!」
お姉さんがそう高らかに宣言する。店内は男性8割女性2割って感じ。みんなあたしたちを見てなんか言ってる。カウンターの向こうには強面スキンヘッドに腕が丸太みたいな太さの店主っぽい人がいて……これホントに健全な店なのッ!? ねえ!?