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聖女マストダイ  作者: 深山セーラ
第三章 酒場の流儀
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3 朝食


 ペットOKの宿だったから、ルークは狼姿のまま入れたんだった。出る時は人姿ってのも想定してたから獣人ですってフロントのおねーちゃんに説明はしてあるし、それは大丈夫なんだけど。


 というわけで、ルークがココの家でもらった服はあたしが持ってたの。壁の棚に入れてたのを出してあげたあと、あたしはお着替えシーンをみないよう窓枠に寄ると肘を置いて頬杖ついちゃって外を見た。


 今何時かな、太陽の感じからして8時前くらい? 城で掃除してた時は窓開けて風通して……って毎日朝日見てたから、これくらいはお手のものだ。


「……お腹すいたなー……」


 思えば昨日ココに奢ってもらって以来食べていない。ヤバすぎる、こんなこと初めて。こんなの続いたら旅どころか野垂れ死んじゃうよー。


「ご主人、腹減ってんのけ?」


「うん……」


「そんなら、これ……」


 ルークの手には、密封された袋にいくつか詰められたちいさいマフィン? があった。ときめく。


「え! え! なにこれ!」


「ココん家で服といっしょにもらったんじゃよ、はあいらねーけん持ってけって」


「食べていーの!? ルークは?」


 お腹すきすぎだから、できればくれるって言ってんだしひとつたりとも分け与えたくなかったけど、一応聞いてみる。


「おれァ2日くれなんも食わねえなぁやりつけじゃけんのぅ、だいじじゃよ!」


「ねえどういう意味」


『……2日くらいなにも食べないのには慣れてるから平気だと』


 え、大丈夫なのそれ……でも本人がいいって言ってるんだし、いいか。食べ物が目の前にあると意識しちゃって口の中が潤いまくる。


 ココがくれたのはただのマフィンじゃなくて防災食みたいだった。しかし期限が来月に迫っている。あたしは袋を端の切れ込みからビッッと引き裂いた。


 味がチョコチップいちごプレーンと3種類あって悩もうかと思ったけど、お腹すいてて耐えきれなかったからとりあえず袋の口に一番近かったチョコチップから取り出してかじりついた。


 おいしいすぎる。ほんとに、お腹がすいてるのもあっていままでの人生で食べたなかでおいしかったマフィンランキング1位更新。しかし口の中の水分がありえないくらい奪われる。あとで水道の水飲んでこよ。


「んんんー!!」


「……ご主人、なんて?」


『……おいしい、じゃないか』


 正解。うんうんと頷いては、糖分で頭が急に冴えだし、むしゃむしゃしながら考える……。ねえ、心做しかレイのやつルークにばっか優しくない? 多分ルークが足として優秀だから打算で優しくしてるだけだと思うけど、契約してる以上お前の主もあたしじゃないの?


 ……そういえば、ルークが乗せてくれたから城近くの森からすぐに出られたけど、もしあたしひとり、プラス聖剣一本っていうか一振り、だったら、どうなってただろう。


 城からの追っ手が全く差し向けられないなんてことは考えられないから、きっと森でさまよってたらすぐ掴まって城に……いや、聖剣に操られてその人たちも斬っちゃって返り討ちにしてたかも。もしそうなってたら、嫌だったなー。


 あたしがルークを仲間にしたことはきっと知られてないから、もしかしたらまだあの周辺を捜索してるかもしれない。だってあたしの足で行ける範囲なんてたかが知れている。


 ……もしかしたら、あたしはもう森の中で死んだってことになってるかも。あの近くって確か谷とか洞窟とかもあったし、わりと危険な場所だ。


 そっちの方がいいかなあ、必死になって逃げなくて済むし、なんて思ったけど、あたしが死んだらきっとみんな悲しいと思うし、後から知らされる家族はもっと悲しいと思う。それって可哀想……っていうかなんていうか、みんなが悲しいとあたしも悲しい。


 ……そういえば、倉庫掃除した日に家族から手紙来てた。返事しないと心配するかな?


「……ねえ、ルークと会ってから何日経つっけ」


「まだ3日なんねえよ、ご主人」


「ま、まじ?」


 え、全然経ってないの。……いや、それはそれでいいんだけど。返事出すまであんまり日空けると余計悪いし。


 あたしは3つ目のマフィンの最後の一口を飲み込むと、袋を折ってゴミ箱に捨てた。

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