2 起床
「う〜〜ん……むにゃむにゃ……」
窓の外ではもうお日様がのぼっているのか、瞼を閉じていても明るかった。
『わざとらしいな』
「……ほっといてよ!」
……寝てる時にむにゃむにゃ言っちゃう人って、ほんとにいるのかな。理解不能なことをいきなり言ったりやったりしたくなっちゃう年頃のあたしは、ギャグのつもりでやってたのにレイに無粋なツッコミ入れられたもんだから、怒って飛び起きようとしたんだけど……できない!!
「あ、あれ?」
ルークの腕ががっしとあたしを抱きしめていた。……そういえば途中で目が覚めて、狼のルーク下敷きにして寝たんだった。いつの間にか人になっちゃってるなー、なんて思いながら寝顔を見つめる。
……てかあたし、ルークが変形? 変態? するときのバキバキ音で目覚めなかったんだ。久しぶりに深く寝すぎかも。
思わず視線をちらり下にずらすと、首、鎖骨ときて……ねえ服着てなくない? 気づいちゃう。そりゃそうだ、狼の時は服なんて着ないもん。しまった。月が消えたから勝手に人に戻るんだ……。
……急に暑くなってきた。どきどき……てのもあるけど、服着てない分ルークの高い体温が直に伝わってくるから。一糸まとわぬ姿の男の上に(こっちは服着てるけど)女の子が乗ってるって……誰かに見られたら絶対誤解だ。……いや、レイは既に見てるけど。
「……ちょっと、気づいてたなら起こしてよ!」
『それをして私になんの得がある?』
さっきは起こしてくれたじゃん! あ、もしかしてさっきあたしが挨拶が普通にどうこうとか意地悪言ったから? えーん。
『そもそも寝る前に止めただろう。感謝されこそすれ、責められる筋合いはないはずだが』
それはそう。しかし言い方がいちいち気に障る。
「ルーク!」
「むにゃむにゃ……」
「こいつまじ?」
もう朝なんだから起きないと出られないし。声かけたけど深く眠り込んでいるらしくルークは目を覚まさない。……しかし寝てる時にほんとにむにゃむにゃ言う人初めて見た。寝てるふりの可能性もあるけど。
「いつまで寝てんのさ! ほら、起きる!」
抱きしめられているから手をあまり自由に動かせない。ぺちぺちとお腹の横を叩くと、ルークは薄く目を開いた。
「んー…………ぬくてぇのー……」
目を覚ましたかと思ったのにそんなこと言いながらもっと抱きついてきてこの始末。ぬくてぇって……ぬくたい……ぬくい……温い……あったかいってこと?
「起きてよー!」
せっかちなあたしが腕から抜け出そうとじたばたすると、ルークは少し唸ってぱっちり目を覚ました。
「ぅ〜〜……ん……、……うわっ! ……ご主人ッ!?」
がばっ
「ぐえっ!!」
相当びっくりしたのか、ルークが飛び起きる時の勢いであたしはあっさり跳ね飛ばされてひっくり返っちゃう。厳しいー。
「……いてて……」
別にそこまで荒ぶらなくてもよくない? って思いつつ腰の辺りを擦りながら起き上がる。とりあえず毛布で全裸を隠しながらのルークは慌てて謝ってきた。左上腕の逆くの字の傷が、きれいに日焼けした肌の中で唯一目立っていた。
「わ、わりい、ご主人! おれ、たまげちまってよ……」
「別にいーよ、あたしが勝手に一緒に寝てたからだもん。月が消えたら人に戻るのも忘れてたし……しかし骨折れちゃってないかな、これ」
「やっぱり怒ってんべ!?」
『……とりあえず服を着せてやったらどうだ』
ごもっともです。