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聖女マストダイ  作者: 深山セーラ
第二章 はじめての街
18/28

8 距離

 あーッ、お風呂入ったあとに同じ下着つけたりするの気持ち悪い!! とはいえ服とか下着なんかは借りられないわけだから、しょうがないんだけど……。


 しかしさっぱり。気分もバッチリ。湿ったままの髪を括りながらのあたしは軽い足取りで廊下を進む。


「ありがとうココ。お風呂上がったよ、さっぱりした!」


「よかった~、どういたしまして!」


 報告すると、ココはにこりとして頷いた。お母さんは肩にストールをかけて、椅子に腰かけたままあたしに向かって会釈してくれた。


「お世話になっちゃってすみません。お大事にしてください、お母さん」


「こちらこそ娘がお世話になって……ありがとうございます」


 お互いに笑顔でぺこぺこしてるうちに気がつく。……そういえば、ルークがいない?


「……あれっ、ルークは?」


「ここにおるよ、ご主人!」


 あたしが出てきた廊下に続くドアとは違う扉からルークが出てきた。


 左手の聖剣はそのままだけど、いつの間にやらもともと着ていたボロから、多少くたびれてるけどさっきまでの服よりは格段に小綺麗な格好に変わっている。


 腰には小さい鞄? もつけてて、まさに冒険者って感じ。


「え! なにその服!」


「これですかいの? あんまりおれがいしけーカッコしとったけんココがくれたんじゃ」


『……あまりにも自分がみすぼらしい格好をしていたからこの服をくれた、らしい』


「えーーっ!! いいの!?」


 レイからの解説を聞いてからようやくびっくりする。


「いいんです。出稼ぎに行ってるお父さんが昔着てた服なんですけど、もういらないからって」


 なんかもうこっちとしては恐縮しまくりなんだけど、相手の厚意を無下にするのって渋いし、ココの後ろでお母さんもうんうんって頷いてるから、もらっておこう。


「レイディさん……もう行かれるんでしょ? お見送りします」


「ありがとう、色々!」


「いえ、こちらこそ」


 ココはもう引き留めることもせずにそう言ってくれた。あたしはお母さんにもう一度お礼を言ってからルークと一緒に外に出た。




 ココの見送りを受けて集落から離れたあと、人気のないところまで来るとあたしは辺りを見回してからルークに声をかけた。もう外はすっかり暗くなってた。


「ルーク、狼になって。次の街まで行って宿見つけなきゃ」


「合点でいッ!」


「……声がデカい!」


「……合点でぃっ」


 小さい声で返事を言い直したルークから聖剣を受け取って、背を向ける。衣擦れのごそごそという音が聞こえてきた。


 ……多分ルークが姿を変える時に見られたくないのは服を脱いでるからだと思うんだよね。だって獣姿のときはもちろん服なんか着ていないわけだから。


 じゃあ脱いだ服はどこに行ったのかって言ったら、それはわからないけど……前着てた服はぺらい布でずいぶんボロボロだったから、小さく丸めたら毛皮のもふもふの中になんとか隠し持てそう。


 森育ちの割には裸見られたくないとかそういう社会? 都会? 目線で言う普通の羞恥心みたいなのあるんだって、ちょっと意外。


 新しい服をもらったからか脱ぐのに少し時間がかかっているらしく、あたしはその場にしゃがみこんで、なんとなく右に握っていた聖剣を左手に持ち替えた。


「ねえレイ、100セクトってどれくらい?」


『……貴様にもわかるよう説明するなら、前方二番目のあの木までの距離と同じくらいだろうな』


「ひー、短っ」


 5m以上、10m以下? ……くらい。めちゃくちゃ狭いよ! うっかり誰かに聖剣スられてそのまま走り去られたらあたし死ぬよ? どうしよう。


『せいぜい気をつけることだ』


 剣差しとくベルトとか買った方がいいな。そんなお金ないけど。


 ……今後旅するならお金稼ぐことも考えた方がいいな、しかしあたしができることといっても簡単な料理とか掃除くらいだ。


 しばらく頭を悩ませていたらようやく背後からバキバキ……といつもの音が聞こえてくる。……多分、これは姿を変える時に筋肉とか骨が変形する音なんじゃないかなって思う。


 ばうッ!! と吠えられて、振り向く。おわー。ルークの足元に畳んだ服があった。ココにもらったやつ。あたしが持てってこと?


「今までの服どうしてたのさ?」


 あたしが服を手にとりながら聞くと、ルークは無言で背を向けた。これもしかして聞いちゃいけないやつ?


「……じゃああたしが持っとくねー」


『おい、やめろ、女。やめろ』


 ルークが着てた服で聖剣をくるんでおいた。まとめて持つにはこうするのがいい。昔のお侍さんは冬場刀を布で包んで結露から守ったらしいし。今秋だけど。


 そのまま背中に乗ると、ルークは走り始めた。

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