5 実力
「きゃあっ!」
とかなんとか安心してたら今度は弓矢が飛んでくる。ココの悲鳴。このままじゃ顔面アウトだ! 血の気が引いた瞬間、ルークが飛び出してきて素手でバシッと弓矢を叩き落とした。
「ルーク!」
「ご主人! やつら、ぼっころしちまってもいいんですかい!?」
『獣人やれ! やつらを倒さずしては前に進めん!』
「ちょっ何勝手に答えてんのさ……っ危ない!」
剣持ちのゴブリンがルークに襲いかかる。今度はあたしの体が勝手に動いて、剣を振り上げながらルークを退けるように突き飛ばすとそのままの勢いで剣持ちを斬った。
……今の動き、あたしの意思じゃなかった……レイがあたしのこと操ったよね!? できるんだったら最初からやってよこっちはめちゃくちゃ肝冷えんだからさ! 基準が全くわからない。
あたしに突き飛ばされて地面に倒れ込んでいたルークは即座に立ち上がると、ゴブリンの群れに向かって突っ込んでいく。
「ンああア゛ィィ゛ッ!!」
振り上げた手で引っ掻くようにゴブリンの頭を掴んで地面に叩きつけるルーク。そのままもう片方の手でも掴んで持ち上げるようにしてその体を引き……ちぎる! 怖っ! もちろんゴブリンはそのまま黒くなって消えた。
「ひぃ~ッ……」
『獣人が怪我をしたらどうする! ぼーっとしていないで貴様も戦え!』
「……う、うるさいな、わかってるよっ!」
結構惨い倒し方するルークを横目に見ながら、だっ! と駆け出して、あたふたしてる弓矢持ちをまとめて3匹斬りつける。ザンッ! とゴブリンの体が2つ×3匹分になって、倒れると黒い粒子に変わって消える。
残された2匹がそれぞれ剣と槍を持って向かってきたから、あたしは1匹蹴りあげて宙に浮かせると、横に剣を振り抜いて斬った。
あたしって意外とバトルセンスあったりして!? ……だからって侍女に戻るつもりないわけじゃないけど。
そんなこと考えながらちらっとルークの方を見たら……まさかの脊椎引っこ抜き攻撃でゴブリンの命? を散らしていた。 見なきゃよかったかも。おぞましいよ~……。
「あっあの、大丈夫ですか?」
……ココに話しかけられて、あたしはようやくちゃきっと剣を収める。
「え、うん。平気! ココこそ、怪我とかしてない?」
「わたしは大丈夫です。ルークさんも……」
「おれァだいじじゃ。……ご主人! おれご主人のお役に立てましたかいのぅ!?」
ココに向かって頷いて見せたあと、キラキラおめめであたしを見るルーク。大人びた顔してるけど、クシャってした笑顔はこどもみたいだった。
「うん。殴ったことないって聞いて、えーーって思ってたけど、意外と戦えるんじゃない!」
「獣ん姿ならもっと強えんじゃけど……兎めとか仕留めんのは得意じゃけぇ」
そりゃ牙とか爪とかある方が有利でしょう。さすが狼なだけある。しかし兎を捕まえて生のまま食べたり、人の姿で八重歯使ってゴブリン食いちぎったりするルークをついうっかり想像するとかなり嫌だった。考えないようにしよう……。
「……色々気になってたんですけど、ルークさんが言った獣の姿、って? それにレイディさんもさっき、誰も何も言ってないのに『うるさいな』って……何が見えてるんですか?」
……し、しまった。レイってあたしとルーク以外には基本話しかけないし、完全にあたしヤバいやつだよ……。
「え、あ~……、ルークって獣人だからさ、今は人の姿してるけどね。うるさいなは多分戦闘の興奮で錯乱してたんだと思う!」
獣人って一時期差別されてた時代があるらしくて、ココがまだその思想のある地域の人だったら嫌だなーって思ったからちょっと歯切れがわるくなっちゃった。でもそんなことないっぽい。
「そうなんですね、すっきりしました!」
うるさいな、の方もこのめちゃくちゃな言い訳で通じるらしい。もう聞くのも面倒になっちゃったのかもしれないけど。よかったぁ~~!! ココは納得したように冗談めかして笑った。
「……随分足止めくらっちゃったね。ささ、早く行こう。お母さん心配するよ!」
話題転換のためにそう言ってみせる。ココが頷いたのを合図にあたしたちは再び歩き始めた。
しばらく……1時間もないくらい? 一生懸命歩いてたら小さい村っていうか家が数軒だけの集落みたいなとこにやってきた。どうやらここが目的地。
「あれです、わたしのお家」
「よかった、あたしも一安心です」
なぜか敬語になってみたりしてしまう。
「あの! ……もう暗いですし、よければ泊まっていかれますか?」
「えーいいの……いや、よくない! お母さん病気なんでしょ? 迷惑かけちゃうし遠慮しとく」
隣を歩きながらのココに聞かれて、しっかりお断りする。
「送りまでしてもらったのに……お金でもお渡しできればよかったんですけど、うち、貧乏だから……」
「だから、大丈夫だって!」
でも! いいから! でも! と押しつ押されつ? わかんない、まあそんな感じの状況になってたら、ルークがあたしの肩を叩いた。
「……ご主人、ありゃあなんですかいのぉ?」
ルークが指さす先には赤い屋根の家から上がってる湯気。森育ちだったら見る機会もなかなかない、当然。料理でもしてんのかな?
「…………うわーッッゴブリンちぎった手で触んないでよ、ばかッ!! ……あれ? 湯気じゃないの」
あたしが慌てて肩を払うとルークはびっくりして手を離しながら頷いた。
「お母さんっ! お風呂私が帰ってきたら入れるから寝ててって言ったのに……!」
そう言って家の方を向くココの言葉にあたしはつい反応する。
「お風呂っ……!」
「え……ええ。お風呂…………お泊まりがダメなら、お風呂だけでも入って行かれますか?」
ココの表情がぱっと明るくなる。……それいい! あたしもうんうんと頷く。
「いいの!? じゃあお風呂だけ貸して!」
「わかりました。どうぞ」
やったーーーーーー!!! 1日以上、2日以下? 以来のお風呂だあ! 嬉しい!
そんなこんなでお邪魔させていただく運びとなった。