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聖女マストダイ  作者: 深山セーラ
第二章 はじめての街
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2 犯罪

 とりあえずあたし、WIN! てな感じで額の汗を拭った。こんなの初めてだったからすごくドキドキした。


『……この女の体に傷をつけられては敵わんからな』


 ……なにさ、人を持ち物みたいに。


「その割には助けてくれなかったじゃない」


『いつまでも私が貴様の力になる理由はない』


 力になるっていうか、倉庫から出してあげたのにも関わらず現在進行形で恩を仇で返されまくっている気がする。


 ゴロツキはいつの間にか無言で逃げ出していた。遠くの後ろ姿が既にお米と同じくらいの大きさだった。……しまった、あの2人から上下1着ずつ服をぶんどってルークに着せればよかった。しかしもう後の祭り。へん、今日のところは見逃してやらあ!


 ……それよりも今は、女の子! 例の赤毛の子は追い詰められていた壁際で、あたしとゴロツキが喧嘩するのをずっと見てた。逃げればいいのに。


「あ、あの、すみません……」


 殊勝な態度で頭を下げる女の子。あんたの助けなんかいらなかったのよ! と突っぱねられたらどうしようと勝手に思っていたあたしはとりあえず安心。


「いいのいいの、気にしないで。それより怪我ない?」


「大丈夫です!」


 あっはっは、と笑いながら女の子に手を振ってみせた。


「よかったぁ〜、ご主人! おれ一時ァどーなっちまうかと……」


 ルークも胸をなでおろしながらそう話しかけてくる。


「うん……ほんとにね」


「あの、もしよかったらお礼がしたいです。何がいいですか?」


 女の子がそんなこと言ってくるから、あたしは正直に断ろうとする。


「いや、そんなのかえってこっちが恐縮するから……」


「家訓で、家の外で誰かにお世話になったら倍以上でお礼しなさいって教えられてるんです。ご迷惑なら、いいんですけど……」


 そんな言い方されたら断りづらいじゃない! ……しかしそういえば昨日の晩から何も食べてない。朝ご飯抜いたくらいじゃまだお腹空く時間帯じゃないから思い出さなかったけど……一食奢ってもらうくらいなら、いいかなあ。


「……わかった、じゃあなにかご飯食べさせて、2人分! なんでもいいよ」


 遠慮のつもりで言ったんだけどやっぱりこういう時の『なんでもいい』は、逆に迷惑かな。しかし女の子は嬉しそうに頷いた。


「わかりました! おすすめの場所があるんです。着いてきてください」


「やったー!」


 ……断った後にすぐこうやって喜ぶのかっこ悪いかな、まあいいか。女の子もあたしが恐縮してるよりは喜んだ方が嬉しいんじゃないかな。


 ルークと右手のレイを連れて、女の子のあとを歩いていくと、丼物のお店に到着した。全国に系列店舗をおく有名なお店だ。


 城下町にもあったから、何回か食べに行ったことがある。スタッドの街が発祥って言われてる企業だから……つまりここが1号店。


「お好きなの選んでください」


「うん、ありがとう」


 店先にメニューの文字列が並んでる。ルークはなんとなく嬉しそうだった。


「ええ匂いじゃのぉ……こん2日くれー飯ろくに食ってねえけん、うれしーよぉ」


「え、大丈夫……?」


 そんなに食べてなかったの。可哀想だし早く注文してあげよう。


「ルーク、文字読める?」


「少しは……。けど、読めても意味わかんねえで」


「そっか〜」


 じゃあ自分で食べたいものを選ぶっていうのは難しいかな。同じのを2つ頼むことにする。


「ん〜〜、親子丼にしとこうかな。2つ、大盛りで」


「わかりました、じゃあ注文してきますね」


 そう言って財布を取り出す女の子。お願いしますと言っておいた。


 店は壁がなくて、外の道に面してるカウンターで注文して料理を受け取ったら屋根の下の席に座る感じ。あたしはルークを自分の隣に座らせた。


 ……ちょっとルークの見目が浮浪者過ぎるから退店願われないか心配だったけど、何も言われなかった。王城基準の衛生観念では色々どうしても不安になる。


「注文しなかったけど、レイはご飯いらないよね?」


 形式上だけ聞いてみる。


『剣が食事をすると思うか?』


 予想通りの返事だった。


「……あの、ご主人。さっき走っとるときにその……レイ? との話聞ぃちまったんじゃけど、ご主人って今なにしちゃってる人なんで?」


『今何をしている人かと聞いているらしい』


 ……答えづらい。王女様斬りかけて自主退職って。しかしルークとは今後長い付き合いになりそうだし、正直に答えておこう。


「……あんまり大きい声で言えないから、寄って」


「はいっ」


 耳貸してって言おうかと思ったけど、人の姿だと耳がどこにあるのかわからない。寄ってもらったらいつもの如く獣臭かった。早く風呂に入れるようにしてあげたい。


「……実はさ、あたし自分のご主人様斬ろうとしちゃって。追われてるの」


「え! ……そーげー? そりゃてーへんじゃ……ちゅーこつは、ご主人は悪ぃやつなんけ……?」


 ついつい1音叫んじゃったルークは口元を抑えながら続きを言い、恐る恐るって感じで首を傾げた。


「あたしだって斬りたくて斬ったわけじゃないわ。それに未遂だし……あたしと一緒に行きたくなくなっちゃった?」


「んなんねーよ、おれはご主人に一生ついてくけぇのぉ!」


「いや、一生って……」


 ……なんか、あんまり深く考えてなさそう……。別にそこまで誓わなくても。旅が終わればお別れする(予定)だけの関係性なのに。

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