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聖女マストダイ  作者: 深山セーラ
第一章 旅立ちの時
10/28

10 出発

 血の着いたエプロンを畳んでポケットに入れて、いざ出発。と思ったけど、城から離れなきゃいけないのに、寝てる間に方向がわからなくなっちゃった。


『方角なら私が指示する。こっちだ』


「うわっ!」


 聖剣の鞘を握ったあたしの右腕が勝手に動いてあっちの方向へと行きたがる。強引なんだからも~~。またまた頭に来ていると、しばらく黙って見ていた男があたしに話しかけてきた。


「はあ行っちまうんけ? ご主人、おれも連っていってつかぁさい!」


「え!」


 しかし連れてくって……この森に住んでるんじゃないの? 家族とか家とかないの? 聖剣に引きずられながらのあたしがそう思ってたら、男は答えをくれた。


「おれ、ずっと前に家族死んじまってからこん森出たことのうて……おれ絶対役に立つけぇ! 今は昼じゃけど月が出とるし、獣の姿になりゃあご主人乗せて走れるよ!」


『女、この獣人を連れていけ。お前よりは速そうだ』


「おめ、意外と話わかるやつじゃのぉ!」


 聖剣の言葉に男はぱっと顔を明るくした、ように思えた。……確かに、それなら連れていった方がいいかも。


「わかった、じゃあ一緒にいこう。なんて呼べばいい?」


「いやどーも、ご主人! おれァ、ルーク・ロ ・リティディフォン。好きなよーに呼んでつかぁさい」


 男……ルークは、嬉しそうに名乗った。珍しくミドルネームがあるらしい。最近は全然もう誰も名乗ってなくて、基本的には位の高い貴族とか、名を重んじて長く続いている家系とかにしかないんだけど……森育ちみたいだし、だから逆に残ってたのかも。


「じゃあ、ルークね。……あの、さっきから思ってたんだけど……ご主人っていうの、なに?」


「そりゃ、ご主人様っつぅ意味に決まってんべ?」


「……あ、そう」


 きょとんとした声の調子で答えるルーク。……一晩一緒に寝ただけで女神呼ばわりで、今度はご主人様って……いや、でも家族がずっと前に亡くなってるって話だし、城のそばにある割にはここの森誰も人寄り付かないし、ほんとに長い間誰とも触れ合わずにいたのかもしれない。


 そう思ったら普通なのかな。それに、あたし今一応追われてる身なんだし、あんまり名前を呼ばれまくるのもいまいちだ。そう思ったらご主人様も悪くない。


『気は済んだか。獣人、早くしろ』


「おう、合点でい! ……ご主人、悪ぃんだけど、姿変えとるとこあんま見られとうねえけん……あっち向いててくれんかのぉ?」


「うん、わかった」


 やったらせっかちな聖剣の言葉に威勢よく返事したと思ったら、今度はあたしに向かってしおらしくお願いなんかしてくる。あたしは頷くと大人しく背を向けた。


 少しおいてから、バキッ……バギバキバキッッ……!! と背後からすごい音がした。え……ねえ……これほんとに大丈夫なの? 振り返りたい気持ちでいっぱいだったけど何とか耐えた。


 しばらく待っているとバウッ!! と吠え声が聞こえた。 半ばほっとしながら振り向くと、昨日あたしが枕にしてたのと同じ狼がそこにいた。……そういえば、いつの間にか昨晩の傷とか全部治ってるけど……どういうことなんだろ? 獣人は人とも獣とも違う力があるとかなんとかいうし、傷が早く治ったりは普通なのかもしれない。


 ルークは無言で背を向けた。あたしはゆっくりと乗って、しがみつく。……ん~、乗りなれないと、結構、怖いかも。


「方向わかる? あっちね」


 あたしはルークにわかるように方向を指さした。ルークは小さく鳴くと、その方向にまっすぐ走り出した。


 森にずっといただけあってずいぶん慣れてるらしい。まるで生えてる木の位置を全部暗記してるみたいな身のこなしだ。風を切って走る爽快感。あたしの髪は靡きまくってバシバシになる。


「……ねえレイ、しばらくは身を隠して力を蓄える……みたいなこと言ってたけど、どういうことなの?」


 本当に聖剣が力を蓄えて、あたしが城に戻ったら……きっと今度こそルティナ様たちを殺してしまう。聖剣の今後の動向がわからないと、阻止もできない。


『……レイとは私のことか』


 あたしが話しかけたら、聖剣は億劫そうに返事をした。


「うん、レイカリバーだからレイ」


『……ふん。……力を蓄えると言ったが……お前にもわかるように言い換えるのなら、武者修行と言ったところだな』


 レイ呼びに文句はつかなかった。


「え、聖地をめぐって剣に力を集めるとかじゃなくて?」


 剣を強くする方法と言ったら聖地巡りか研ぎ直しと相場が決まっている。


 ……そういえば聖剣の刃、錆びたままだから鍛冶屋にでも持って行ったほうがいいかな。しかしまあ、錆びてても木のテーブルをざっくりいける斬れ味はあるわけだし、それはまた今度。


『元々聖剣は……前の聖女がお使いになっていたものだ。貴様は先代よりも背が高いが、筋力が足りない上に動体視力も低い』


「え、悪口?」


 ……いや、多分そんなつもりないと思うんだけど、ついついそんな言葉が口から出る。


『事実を言っただけだ。……とにかく、私も貴様もお互いに慣れる必要がある。お前がこの剣を最大限まで使いこなせるようになれば、エスパダスの城に戻り、王族どもを叩きのめす』


 ……なんでこんなにルティナ様たちのこと憎んでるのかな。多分聞いてもまた関係ないって言われるんだろうけど。


 聖剣を説得して殺しをやめさせる、くらいしか思いつかないけど……そんなことできるかな。だってこいつ血通ってなさそうだもん。


『それまでは捕まる訳にはいかんからな。一箇所に留まらずに旅を続ける形になるだろう』


「……そっか……」


 そこからはしばらく無言で走るルークの毛並みを掴んでしがみついていた。相変わらず背中は獣臭かった。


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