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お助けジェシカの冒険  作者: 五所川原しなこ
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田舎の領地にずっと住むなら、近隣の有力者たちと交流を持たねばならない。

セントジョン家でパーティーが行われるという噂を聞きつけたのは、やはり情報の早い母だった。

執事やメイドより早いとはどういうことだと思ったら、何のことはなく、これもハーヴィルのお母様に聞いたらしい。

むしろ、良い日取りを教えて欲しいと乞われたと言う。

リアーナ夫人は実家があまり裕福ではなく、あまり、こういう切り盛りをしたことがなかった。

魔術師団では経験があるらしいが、それこそ姑のようなおばさま方の攻撃にあってしまって、あまり自信はないという。

うちの母の仕切りでパーティーが執り行われることになった。

こういう時に気軽に駆り出されるのは娘である。

私にもパーティーの開催やもてなしの練習をさせねばならないという意図もある。

お招きを受けて、ハーヴィルの家に出かける。

さすが都会育ちのご家族の好みを反映してか、全体にオシャレな感じだ。

対してうちの母は陽気で派手好きで美味しいものが大好き。

ハーヴィルのお母さまリアーナ夫人とは路線が違う。

そこはリアーナ夫人らしさを出したほうがいいのではないかということで意見が衝突した。主に母と私で。

「リアーナ様のパーティーなのですから、田舎っぽくないほうがいいと思います」

お披露目なのだから、本人の良さを生かして都会的な感じにしたらいいというのが私の意見だ。。

「あなたが言うような品はこの辺では手に入りにくいのよ。予算を考えなさいな」

予算って。王都で活躍する魔術師が当主であるセントジョン家にお金がないわけがない。

この領だっていい位置にある。

うちもそうだけれど、この辺は便利がいいから商売に向いているのだ。

でも、確かに、他人のお金をあるだけ使うのは違う。

「金額じゃなくセンスの問題。テーブルの小物の色をシックな感じで統一するとかはどうかしら」

「それは、まあそうね」

母が考え込んだ。

そのままそっとリアーナ夫人に目を移す。

正確に言うと、その落ち着いたグレイッシュブルーで透かしの入ったドレスを。

私たちが言い合っている間、リアーナ夫人はおっとりと微笑んでいらした。

リアーナ夫人は控えめな性格で、あまり主張なさらないのだ。

そういうところが心配なのだ。

それは母も同じだったらしく、矛先が変わった。

「この子の言うことにも一理あります。お好きな色で揃えましょうか」

笑い方は姉をビシビシ鍛えている時と同じだった。

母がリアーナ夫人にご本人のセンスを最大限に生かした決断を迫ることにしたので、その間に私はハーヴィルと遊びに出た。

最近の私たちの遊びはほぼ乗馬だ。

ハーヴィルは運動神経が良かったようで、めきめき上達している。

まあ、攻略対象だからなあ。

専門外だからと言って運動音痴という選択肢はないだろう。

馬を乗り回して休憩の定番は荘園管理人の自宅の裏庭。

ここで馬を休ませてもらえるし、運が良ければ管理人の奥様から飲み物をもらったりできる。

最新の話題はパーティーだ。

準備があるのでいろいろ面倒ではあったが、華やかな場なので楽しくもある。

それに、田舎の集まりなので、貴族ではない郷士の家族も来るし、ある程度の年齢なら、子供を連れてきてもいいことになっている。

都会と違って同世代での交流を持つ機会が少ない。

着飾って、知り合いの女の子たちに会えるのは素直に楽しみだった。

ハーヴィルはそうでもなさそうだった。

「だって、僕、誰も知らないもん」

それはそうだろう。引っ越してきたばっかりなのだから。

しかし、お母様のお友達を作るためのパーティーなのだから、ハーヴィルもそこで友達を作ればいい。

「それに、みんな、僕と仲良くしてくれないんだ。僕が陰気だから」

「そんなことないでしょ」

ハーヴィルは見た目こそ近寄りがたい美少年だが、中身は割と普通だ。

お母さまが繊細な人なので、ちょっとおとなしめではあるが、特に人見知りでもない。

「でも、みんな言うよ。ウザいって」

みんなって、誰がそんなことを言うんだろう。

その時、ふと、気が付いた。

お母さまは魔術師団でのお付き合いに疲れていた。

名門の同族が牛耳る職場で、ボスママからのいじめにあっていた。と推測する。

ハーヴィルが付き合う子供たちも、魔術師団の魔術師の御子息たちなのではないだろうか。

「それって、キャンベリックの人たち?」

「え?」

ハーヴィルは考え込んで、頷いた。あまり考えたことがなかったらしい。

「じゃあ、ハーヴィルのせいじゃないわ。お母様と一緒で妬まれてるのよ。顔が綺麗で魔力が強いから」

他に考えようがない。

特に出しゃばったりしないのにウザいだなんて。

「大丈夫。このへんの子はみんな気がいいから」

うちの2歳上の兄がいればよかったのに。

私の友達は今のところ女の子たちばっかりなので、男友達は紹介できない。

「男の子がダメでも、女の子にはモテモテよ。カッコいいから」

あえて美形だからとは言わなかった。

男の子は美形とか可愛いとか言われたくない生き物なのだ。と、日本の少女漫画には書いてあった。

ハーヴィルは嬉しそうにへへっと笑った。

だらしなく笑うと美少年が台無しだが、そっちのほうがずっといい。

案の定、パーティー当日、ハーヴィルは一瞬で女の子たちに囲まれた。

ちょっと面白くない。

でも、上手くやってるならいいだろうと思って、おやつをいただくことにする。

リアーナ夫人らしさを出すという方向性は、都会で流行のオシャレジャムを入れた焼き菓子に活かされている。

この辺だと、朝とれたみずみずしいフルーツのタルトあたりが定番だが、王都だと日持ちするナッツやジャムが多いらしい。

ジャムも素材を活かしたシンプルなものじゃなく、トマトと混ぜたりしているんだそうだ。

食べながら周囲の様子を観察する。

お助けキャラジェシカは何事にもソツがなく、観察力に長けていて、周囲に溶け込む特技がある。そのジェシカの目から見ると、リアーナ夫人は上手くやっているようだった。

うちの母が仲良しの友達を紹介したり、癖の強い人物からは引き離したりしているようだ。

とても参考になる。

魔法学園でヒロインを助ける際にはこういうテクニックも必要だろう。

ホシミチにはゲームの定番として、悪役令嬢も配置されている。

意地悪な公爵令嬢からヒロインをお守りしなくては。

それはそれとして公爵令嬢エミリア様が見たいというのも正直な気持ち。

まばゆい美貌とナイスバディのエミリア。

ハーヴィルはゲームで見たままの可憐な美少年だった。他のキャラもさぞや美麗なことだろう

私は本当に本当~にホシミチの世界が好きなのだ。

わくわくしながら思い出に浸っていると、いつの間にかハーヴィルが横に来ていた。ちょこんと座っているのが可愛い。

「どうしたの?」

「ジェシカがいなかったから探しに来た」

特に構わなかったのだが、そう言われると嬉しい。

「一人で寂しくしてたらいけないと思って」

「え?なんで?」

きょとんと聞き返すと、ハーヴィルの頬が赤く染まった。

「…お母さまはよく1人で困ってるから」

ああ、それで。

私も1人で困っているのではないかと思ったのか。

ちょっと考えが幼いような気もしたが、そういう環境だったので癖になっているのだろう。

優しいな。

「みんな私の仲良しばっかりだよ」

ここは私の領地のご近所なので、いわばホームである。

最近、引っ越してきたハーヴィルよりも当然のように友達は多い。

「友達になれそうな子はいた?」

「みんな優しい」

それは良かった。

「今日は男の子が少ないんだよね」

いつもは兄の友達たちも来ているけれど、今日はもっと子供ばかりだ。

もしかしたら、同年代よりもちょっと小柄なハーヴィルが委縮しないよう、配慮されているのかもしれない。

この辺で一番ご身分の高い家はハーヴィルの家で、次がうち。

なので、来ている男の子たちは郷士の子が多く、貴族の子がいても平民寄りだし、やんちゃな子も多い。

やっぱり先に兄に顔をつないでもらうのがいいかもしれない。

もうすぐ夏休みだから、ちょうどいいかも。

「ハーヴィルはなんか食べた?」

「まだ」

「お菓子、美味しいよ」

2人でもぞもぞ食べているうちに、パーティーももうお開きの時間になって、家が遠い人から帰宅していく。

ハーヴィルは帰る人たちのお見送りをするために、ご両親に呼ばれていった。

「ジェシカ」

仲良しのサニーが近寄ってきた。

「ニーナの誕生日のプレゼントどうする?」

「ああ、今度、一緒に買いに行こうか」

隅っこでこそこそ話していると、ハーヴィルの話題になった。

「美形だけどイマイチかなあ。全然話さないんだもん」

「人見知りみたい」

「それに、男の子なのに馬のことも剣のことも詳しくないしさあ」

サニーはせっかくだからとこのへんの男の子の好きそうな話題を振ったのだが、全然だったのだそうだ。

それはしょうがない。ハーヴィルは魔法の家系で都会っ子だから。

魔法のありがたみもあまり感じていない人ばかりだ。

そもそも、ご領主さまとその家族くらいしか魔法を使わないので、見る機会がないのだ。

つまり、ハーヴィルは、農家の同世代の女の子にとっては、顔は綺麗だけど小柄で話のつまらない男の子なのだ。

坊ちゃん育ちなので、女の子を楽しませようという気配りもない。

「でもさあ、あれだけ顔が良ければよくないかしら。それだけでお釣りが来ない?」

ちょっとフォローしてみたが、サニーはそうは思わなかったようだ。

「うわー。ジェシカ面食いだなあ」

「そうかなあ」

「あたしはあんたの兄ちゃんのほうがいいや。今度、帰ってきたら教えてよ」

先に帰るというので手を振って別れると、テーブルの影にハーヴィルがいたのに気が付いた。

「ずっといた?」

「うん」

さっきの話を聞いていたのだろうか。

「大丈夫。気にしてない。慣れてるから」

ハーヴィルは言った。

「僕はつまらないヤツだから」

さっきも似たようなことを言っていた。王都で言われてきたのだろうが、なんとか矯正しないと。

「そんなことないよ。ハーヴィルはつまらなくなんかない」

私は言った。

「引っ越してきたばっかりだから、知らないことが多いのはしかたないよ。身長だって伸びるし、絶対カッコよくなるから」

私はそれを知っている。

見たからだ。

ただ、ちょっとだけ話を盛った。

ゲームのハーヴィルはそこまで身長は高くない。繊細な美形枠だからだ。

そう、ちょっと女性的とも言える美貌なのだ。

なので、大きくなってもサニーの好みではないだろう。

本人的には残念だろうけど、王都の都会的な女の子にはモテモテだろうし、そもそもヒロイン以外にモテても面倒なだけなのでそれでいいかな。

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