没落貴族として転生した俺が実は最強おちんちん術士だった件について
ステータスをオープンしたら、俺は数値ではなく画像と太字で書かれたスキル名のみが表示された。
女性たちの悲鳴が聞こえる。
貴族の取り巻きの唖然とした顔と、今日はいっそう見栄っ張りを決め込んだ父親の呆然とした顔、
あと表示されているご立派な画像が記憶に鮮明に残った。
「おちんちん術士」のスキルと引き換えに多くのものを失ったように思う。
大した人生を送っていなかった現世の俺の記憶は、猛烈な勢いで迫りくる大型車を最後にぷっつり途切れ、異世界の名門貴族(落ち目だが)の好青年として再開した。
人の目ばかりを気にしている、いけ好かない両親ともそこそこの関係を保てたし、使用人たちにも持ち前の庶民精神で接したら意外と評判だった。現世の社会性が、意外なところで役に立つものだ。
没落貴族出身の好青年として、順調に初めての誕生日を迎えたら、元服というか、人として生まれ持ったスキルを確認する儀式が行われ、そこで散々な目に遭い、瞬く間に周囲から人が消え、こうして路地を歩いている。
スキルが判明してすぐに、両親からは「一族の恥さらしだ」と、その場で縁を切られてしまった。
「恥さらしだと思うならこの無駄にご立派な城に俺を一生匿っていろ」と言い返したが、
やはりそんな経済力は無いらしい。呆れたものだ。
ここまで育ててくれた恩はあるものの、いつまでも外面ばかり気にかけている両親に、俺の中の何かが目覚めた。
メイドが仕立ててくれた礼服の下半身部分を一切脱ぎ捨てて、俺は青年の脚力で広間を駆け巡った。
激しく腰を揺らし、自分がナニを操る術士であるかを周囲の人間にあらためて知らしめた。
あんな父親の仲間にも見どころのあるやつはいて、巨大な火球や激しい水流を浴びせてきたが、
よく見たら避けられた。そういうやつらは一人ずつ、しっかりと太ももで顔を捕まえて、元服した俺の勇ましさを堪能させてやった。
使用人たちにはお礼を言った。今まで俺を世話してくれてありがとう。こんな俺のために儀式の準備をしてくれてありがとう。服は返すよ、と。
皆照れていたのか、顔を背けて一向にこちらを向かないので、注目しやすいようにしっかりと成長した姿を眼前にぶらさげてやったが、それでも口を手で抑え目をつぶっていたので、感謝の気持ちを込めて一人一人の頭に術士の杖を載せて周った。震える手をとって、血管の部分に置いてやった。ほら、生きているぞ、と。
恩人たちの嗚咽が聴こえると貰い泣きしてしまいそうになるので、寂しさからか急いでその場を離れようとする両親のもとに慌てて飛び出した。
あなた方なくして私はいなかった。例え縁を切られようとも、この恩は忘れません。
恭しく礼をして、垂れている俺の術士としての本質に、父親の斬撃魔法が飛んできた。おっと。
咄嗟にガチガチに硬化させたため、もちろんキズ一つつかないが、実の父親の攻撃だからか、
重い衝撃だけが残った。さらに母親の重力変化魔法によって、角度がやや低くなり動きが鈍くなった。
好機と見たのか、父親の必死にも思える連撃が俺の息子を襲う。夫婦の息はピッタリと合い、
息子への(孫にあたるのか?)攻撃が止むことはなかったが、俺は痛みは一切感じず、むしろずっと感動していた。
試している。我が子の独り立ちを。
親の庇護も、貴族としての地位も無く、自分一人の力で雄々しく屹立する他ない息子の行く末を案じ、泣きそうな顔で殺意をこめて無意味な魔法を放ってきている。
これを愛と呼ばずして何と呼ぼうか。
健気な恩人たちの決死の餞別に、堪えていた堤が決壊した。
『おちんちん術士の本質は、蓄積とその解放である』
後の俺の著作「最強の術士」の2ページ目に書かれた文章であり、この時の実体験であった。
そもそも礼服を脱ぎ始めたあたりで、俺は残尿感にも似た感覚にずっと付きまとわれていた。
人々の悲鳴や俺と俺のを見る顔、俺のを攻撃するときの表情を見るたびにその感覚は増大していき、
両親の本気の攻撃でもってついに限界を迎えた。
ウッ
思わず声が漏れた瞬間、全身が脈動を感じ、濁流のような白魔法が放出された。
それは容易に広間と、周囲の倒れている人々を飲み込み、逃げ惑う人々を丹念に拾い上げ、
城の外へと押し流していく。
街の住民からは白いチョコレートフォンデュのように見えたことだろう。
そして具材は城内の人間だけに留まらない。
一番近くで放出を喰らった両親の顔が、深く印象に残っていた。
顔は驚きと絶望が入り混じっているようで、目に光がなかった。
思えばあれが、初めて見る死んだ人間の顔だった。
ほほ笑みで返した。あなたたちの息子は太く逞しく生きていきます、と。
ここまでは至上の快楽に他ならなかったのだが、そこから先が困ったものだった。
あの白魔法を受けた者は皆、両親と同じく目から光を失ってしまっていた。
とりあえず城下町の市場に行くと、幸い屋台は残っていたので、
付着した白魔法を洗い流して食いつないだ。
初めての放出だったからか、街中に流出させてしまったらしい。
街中の生命という生命と望まぬ別れを強いられた悲運に、俺はしばらく虚しさを感じていた。
あてもなく路地を歩いている。なんだか全身脂汗をかいたようで、不潔感もあった。
手についた白魔法は、俺が異世界で流通させた薄く柔らかい紙で拭いた。
異世界に来てから、色々良いこともあったのになぁ。
俺は寝そべりながら、日光を浴びて白魔法の痕跡がカピカピになっている城を見上げた。
そしてブレーキが効かない車に乗る夢を見た。
人を撥ねた感触があったが、誰なのかはよく分からなかった。
運転している時の焦燥感や、人を撥ねてしまった後の開き直った気分が生々しい夢だった。
目を覚ましてから、俺は再びあの残尿感を思い出し始めていた。
そうだ。この世界は広い。
いてもたってもいられず、俺は青年の脚力で街へ駆け出した。
お酒は500mlしか飲みませんでした。




