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異世界からモフモフがおしかけて来ました  作者: 鴨頭草
第1章 おしかけパートナー
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第2話 コレ何?

「相変わらず仲が良いのは嬉しいけど、心配して損したなぁ」


 部屋のドアを開けながらぼやいた明香は、目の前の光景に我が目を疑った。

 机の横の壁が歪んで見える。それだけではなくて、蠢いているような気もする。


(いやいや、目の錯覚。うん、絶対そう。でも、さっきの揺れもあるし、やっぱり脳の異常か何かなの? 脳腫瘍とか? この若さで?!)


 内心はパニックであるが、表面的には落ち着いて見えるのが彼女の良い所だ。

 そのせいで人から頼りにされ、クラス委員などを押し付けられることも多い。それに少しばかり文句を言いながらも引き受けてしまうのが常なので、これからも変わることはないだろう。



(眩しい……)


 明香が静かに混乱している間に、又しても異変が起きた。壁の歪みが激しく波打ち、白い光を放っている。

 これが幻覚なら、すぐさま医師の診断を仰ぐべきだろう。既に彼女の脳内では、鉄格子の付いた窓から虚ろな目で外を眺める己の姿が浮かんでは消えている。


(ああいう所って持ち込み禁止の物、多いよね。確かスマホとかはダメって何かで見た気がする。耐えられるかな)


 現代っ子にスマホなしは恐ろしいだろう。しかし、幸いにも、か否かは悩ましい所だが、絶望する間もなく更なる異変が部屋を襲った。

 光が収まり、壁が平坦になり、そこに大きな何かが描かれている。


「これって、えっと……うん、アレ、そう、あれだよね?」


 まるで認知症の初期段階のようにも見えるが、彼女は決してソレの名称が思い出せない訳ではない。ただ只管に認めたくないだけなのだ。


 壁に浮かび上がったのは、成人一人程の大きさの魔法陣だったのだから。

 こんな幻覚を見てしまうとは、気付かない内に例の難病に罹っていたのかと頭を抱える明香だったが、別に彼女は厨二病ではない。但し、この後に起きる事態を考えると、重度の厨二病患者だった方が楽しく過ごせたのかもしれないが。


「もう完全におかしくなったみたい。こういうのを『焼きが回った』って言うのかな」


 肩を落として呟くと


「いやいや、キミみたいな若くて可愛い女の子には間違っても使わない言葉でしょ、それ」


 狐が魔法陣から顔を出して話しかけてきた。



(コレ、狐? でも何か変)


 そもそも魔法陣から顔を覗かせる狐がおかしくない筈もないのだが、それ以外にも変わった所がある。

 まず、言葉を話す。

 おまけに毛色がありえない。何故か青いのだ。このような色の狐など、二次元の世界ならともかく、現実にはいない。青狐と呼ばれる個体だって、ブルーグレーですらない灰色だ。それなのに目の前にいるのはベビーブルーの毛玉。染めているのだろうか。


「動物、虐待?」

「えっ、何で? ボク、そんな酷いコトしないよ」


 明香は目の前に狐が虐待を受けている可能性を疑ったのだが、当の狐は己こそが疑われたと認識したらしい。

 そもそも狐が他の動物を虐めても動物虐待として処罰されようもないのだけれど、明香は気にせずに真剣に考え始める。


(狐なら肉食、でも狩りは生きる為に必要なこと。虐待ではないよね。わざと半殺しにした獲物をいたぶったりしない、って言いたいのかな。あっ、今思い出したけど狐と言えば)


「エキノコックス」

「うん? 何、それ。……ふんふん、いや、違うから! ボク、そんなんじゃないから!」


 混乱している明香は盛大にスルーしているが、一切説明していないのに疑問が解決されているのはおかしなことだ。

 実は彼女の知識を探って答えを得る、というとんでもないことをこの狐が実行しているのだけれど、今の彼女には些細な疑問を覚える余裕もない。


「じゃあ、狂犬病とか」

「ん? ちょっと待ってね。え〜っと、それもない! フィラリアとかもないからね!!」


 考え込んでいる間に、いつの間にか目の前に来た狐が明香の目を覗き込んで必死に言い募る。


「ちょっと待って、」

「何?」

「どうして目線が合うの? 私、立ってるのに」


 視界を埋め尽くすベビーブルーの中で輝く紺碧の双眸が、やや細められた。


「あれ? キミって思ってたより賢くない?」

「ケンカ売ってるの?」


 人の部屋に落書き──魔法陣を落書きと言って良いのか疑問だが──して勝手に侵入した上に悪口まで言われては、いくら可愛いモフモフが相手でもムッとする。


「だ〜か〜ら〜、ボクはキツネじゃないから!」

「あ、ごめんなさい。それは失礼だよね」


 種族を間違えられて良い気はしないだろう。


(私だってオランウータンやボノボと間違われたら気分が悪いもの、しっかり謝らないと)


 まず間違えられることなどありえないだろうが、相手の心情を真面目に考えるのが彼女の長所だ。


「分かってくれたならいいよ」


 すぐに謝ったせいか、それ程気分を害したのではなさそうで安心した。


「じゃあ貴方は犬なのね」

「ち〜が〜う〜!!!!」

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