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13 帰り道。頼れる教官は何者?


「ホランよ。大丈夫だったか?」

「平気よ。盾役タンクのわたくしは普段の戦闘から体を張っているわ。傷つくことくらい慣れているの。それに拠点に帰ればコヨハが治してくれる」

「チーム42番のチームメイトだな」

「ええ。魔法担当。回復魔法が使えるわ」


 夕暮れの帰り道。

 人気の少ない通りをふたり並んで歩く。


「それより教官は何者なの?」

「え?」

「天神斬りは威力だけなら最高クラスの技なのよ。それを受けて無傷だなんて、いくら鎧に硬質魔法をかけているとはいえありえないと思うんだけど。……もしかしてクルーシュ教官って」


 ホランは訝し気な目でじっと見つめたあと、茶化すように笑って、


「魔王だったりして?」


「………………………………」


「ちょ、ちょっと。冗談よ。そんな図星みたいなリアクションやめてよね。魔王が人間界にいるなんて、しかも教官に成りすましているなんてそっちの方がありえないわ」

「そそそそうだとも! 我が第八代魔王・鎧のクルーシュなわけないじゃないか」


 慌てた結果、否定という名の失言を繰り出すクルーシュだが、幸いにも冗談と受け取ったホランは笑って流した。


「で、なんで無事だったの? どんなカラクリよ」

「ええとだな……そうだ! ガドイルはヘマをやらかしたのだ。斬撃の直前に魔力を制御しきれずに技が不発に終わったのだよ。ただの斬撃では我の分厚い装甲を貫けなかったというわけだ。ハハハ。運が良かったぞ」

「……ふーん」


 ホランは納得いかない様子だったが、それ以上追求しなかった。

 代わりに頭の中で考える。


(ガドイルは腕だけは立つ。そんなヘマはやらかさない。やはりこの教官は間違いなく実力でガドイルをねじ伏せた。それも圧倒的な差で。となると、中に入っている人はおそらく金級の実力者。いや、天神斬りを鎧だけで受け止めるなんて人間離れしている。そんなことができる人間がいるとすれば……一人しかいない)


 かつて座学で習った英雄の名前。

 百年以上前に死んだとされる元聖騎士軍第一隊強襲隊長『伝説の勇者スカイ』。魔王軍をあと一歩のところまで追いつめた伝説的存在。


 もしかすると目の前にいる全身鎧の男は人類最強の男なのかもしれない。


「そんなわけないか」


 すぐに否定する。


(スカイ様は魔王を討伐するために数人の仲間とともに魔界に向かい、そこで魔王と刺し違えて死んだと伝えられている。生きているはずがない。仮に生きて帰ってきていたとしても、百歳を優に超えている。寿命で死んでいるに決まっている)


 まあいずれ分かることでしょう。

 それに、この人がわたくしにとって頼れる教官であることは変わらないし。


「何をしている。立ち止まっていないで早く帰るぞ」

「あ、ごめんなさい」


 先を行く教官の背中を小走りで追いかけた。


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