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月明かりの下で
どこをどう歩いたかは覚えていない。
途中で運悪く野犬に襲われ、崖から落ちたところで命運が尽きていたのだと思う。
しかし私は運良く、あるいは運悪く生き残った。
何度もぶつかった木々が緩衝材の役割をしたのだろう。
もちろん身体の方は無事ではない。
歩く度に痛みを感じた。
それでも歯を食い縛り、見知らぬ場所を進み続けた。
夜になり、日が昇り、また夜になった。
私は力尽き倒れた。
そして、この世の物とは思えない程に美しい花を見た。
「……これは、ルナフラワーでしょうか」
月の輝く時間にだけ咲くと言われる青い花。
とても珍しい。実物を目にするのは初めてだった。
「……綺麗」
本当に美しかった。
この花の隣で死ねるのなら悪くはない。そう思える程に。
「誰かいるのか?」
声が聞こえた。
顔を上げると、一人の男性が立っていた。
しっかりとした服を着ている。
きっと平民ではない。貴族の方だ。
「……ごきげんよう」
笑みを浮かべ挨拶をする。
そこで、私の意識は途絶えた。